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ハードボイルド(笑)に生きよう  作者: 最小
ハードボイルド(笑)な銃使いと白い竜
36/45

その33 女神の名と白昼夢

難産過ぎて、ついに更新に1週間もかかってしまった。

しかもいつもより若干が長い。

 レンと修の丁度間の年齢だろうか、少女はトゥールニャータと名乗った。彼女の話では修と同じくゲームを始めたばかりなのだそうだ。


「トゥールニャータって長い名前だな。なんかカーラみたいだ」


 彼女の名前を聞いたレンのつぶやきに、近くにいた狩人たちが頷いた。カーラは本当はカーンラッチェと長い名前なのだ。トゥールニャータが不思議そうな顔をしていたため、修はカーラの名前の話をした。すると、彼女は驚いた顔をしたのでレンは彼女にどうしたのかと訪ねた。


「その……カーンラッチェさん、双子のお兄さんにフォルヴォールって方はいますか?」


「いや、カーラは一人っ子のはずだぜ」


「……そうですか、なら別人ですね」


 納得したように頷くトゥールニャータを見てレンは不思議に思った。彼女はレン達と同郷だと思っていたのだが、同郷ならばこの世界で出会ったカーラの名前になぜ反応したのはおかしいと思ったからだ。しかし、トゥールニャータの認識はこの世界に来たばかりのレン達と同じなので、おそらく『異界種』なのだろうとレンは納得することにした。


「おやおや、カーンラッチェとは面白い名前をしていますね」


 どうやらカーラの名前に反応したのは1人ではなかったようだ。今回の『邪徒』討伐に参加した魔法士がレンたちの方にやってきた。


「『女神カーンラッチェ』……、大陸中央部で発見された遺跡から出土された古代語の記述で何度か出ている名ですね。『麗しき銀色の君』とね。ああ、失礼。ボクはミュラー、考古学者だよ」


 ニコニコと笑いながらまくしたてる魔法士に、レンもトゥールニャータも口を挟めずにいた。それに気づいてないのか魔法士はさらに言葉を重ねる。


「いやぁそれにしてもトゥールニャータって名前もすごいよね。『女神トゥールニャータ』、かの地にある文献は創造主の日誌と呼ばれていてね。『愛しの妹君』の名は本当に頻繁に出るんだよね」


「女神かぁ、俺が知る女神の名前っていえばウァンクナーテだな」


「その名前は知らないなぁ。是非とも町に着いた後に詳しく教えてもらいたいね」


「あーそういうの銃のオッサンに頼む」


 これ以上話に付き合いたくないと言わんばかりにレンは目をそらした。面倒臭くなったのだ。レンがトゥールニャータの方を見ると、ブツブツと魔法士から聞いた話を繰り返している。レンは、そちらも見なかったことにして、リーウィの町に帰った後打ち上げとかしたいなぁと今ある光景をシャットアウトすることにした。





 掃除をするため部屋のドアを開いたカーラは、セイジが『微睡む白狼亭』に戻ってきていることに気付いた。セイジは机に突っ伏して眠っていたからだ。

 カーラは音を立てないようにゆっくりとセイジに近づいて顔を眺める。自身の顔を態々不細工に作ろうとは考えないのだろう、『異界種』は大体顔が整っておりセイジも例外ではない。そう、見てくれだけはとても格好良かった。あの酒にだらしない所さえなければ、ずっと格好いいままなのにと常々カーラは思っていた。酒場で狩人たちとバカ騒ぎしている光景を思い出し、少しイライラしてしまう。その理由はカーラにはよくわからなかった。

 セイジがガーネット色の石をの首飾りを身に着けているのにカーラは気が付いた。カーラが選んだお守りだ。その石の色がセイジの瞳の色そっくりだったのでよく似合うだろうと思い薦めたのだ。セイジがお守りを身に着けてくれていることに、カーラのイライラはなぜか収まっていた。

 ふと、セイジのお守りが淡く光を発していることにカーラは気付いた。セイジを起こさないように気をつけながらカーラはお守りに手で触れた――。




 ――白い白い空、赤い大地にカーラは立っていた。遠い地平線に青が見える、おそらく海だろう。空には太陽はないのにも関わらず、暗くはなかった。カーラは混乱する、今までセイジと一緒に部屋にいたのになぜ知らない場所にいるのだろうと。

 辺りをキョロキョロと見回していると、カーラは白でも赤でも青でもない色があることに気付いた。それは巨大な獣だった。枯れ葉色のその獣を見て、カーラはなんとなくセイジの髪の色を思い出した。寝そべっているにも関わらず、その獣はカーラの背よりも大きい。

 カーラが観察をしていると、その獣の腹には大きな傷があり、いまだ血を流し続けていることに気付いた。他にも獣がどういう状態なのか注意深く見る。後ろ足がまるで砂の(・・)ように崩れてきていた。この獣はもう長くないと、カーラは直感的に理解した。


「――、……××!」


 カーラは思わず叫んだ、しかしこの場所では言葉にならない。あの獣がセイジに見えて仕方なかった。助けなければと思ったのだ。

 そのカーラの叫びに応えるかの如く、辺りに声が響いた。カーラはびくりと肩を震わさせる。セイジの声ではない。それだけではなく、カーラの記憶の中にはその声は存在しない。カーラはその声が何を言っているのか聞くべく耳をすませた。


『曲がることのなき強き願いを。地を震わすほどの強き願いを。相応しき代償と共に、願いを叶えるだろう』


「……グルルゥルゥルアァ!」


 カーラが叫んだから目を覚ましたのだろうか。カーラの知らぬ声に応えるかのように、獣が咆哮を上げた。獣があの声に願いを伝えたのだと、カーラは思った。あの声に願いを言ってはならない。理由はわからないが、カーラは強くそう感じていたのだ。


「――!」


 カーラは獣を止めるように叫んだ。やはり言葉にはならない。カーラの心配も空しく赤色の大地は獣の体を覆い始める。あの獣が何を願い、どんな代償を払わねばならないかはカーラにはわからない。しかし、このまま止めずに見ていてはいけないと、カーラは獣の方へ走り出そうとした――。





 ――カーラは自身がセイジ達が止まっている宿の一室にいるのを思い出した。セイジのお守りを触った格好のままになっていたようだ。慌ててカーラはセイジから離れた。日の影が移動していないことから、ほとんど時間の経過がなかったことが分かった。セイジも眠ったままだ、机では寝にくいのか時々顔をしかめている。カーラは先ほど見た光景を思考の端に追いやりセイジを起こすことにした。

物語畳むために複線回収しなきゃという感情と、完結に必要な最小限の情報だけで走り続けたい感情。

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