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ハードボイルド(笑)に生きよう  作者: 最小
ハードボイルド(笑)な銃使いと白い竜
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その32 緩やかに進む事態

やりたいことは決まってるけど、ゆっくり進行になっちゃう。

 ――女性が2人話をしているのを『それ』は聞いた。


「どうして勝手なことをしたの? 他と同じように新品の魂を使って作りなさいよ」


「ナティ、表面的だけ似せるのではなく中身も揃えた方が効果があるかもしれないじゃないですか。必要なのは有象無象ではなく、『白竜』を倒しうる徒輩でしょう?」


 『それ』はじっと耳を澄ませた。体があるにも関わらず『それ』は動くことができなかったのだ。目が開いた状態だったが視界に映るのは一面の『白』であったため、目が問題なく機能しているのは『それ』にはわからなかった。


「転生しかけの魂を使って意味がないじゃない。時間がたてば勝手に転生しちゃうわ」


「はい、だから弱い道具で試したのです。アバター名はセイジ、複数のアバターを持っていますがどれも弱いので問題ありません」


 暫くすると、少しだけ体が動かせるようになった。『それ』――いや、セイジは辺りを見渡す。ぼんやりとしてよく見えないが、人の形をしたものが視界の端に映った。動かせる範囲が増えると、それらは積み上げられており、その1番上にセイジは置かれているようだ。女性たちの話を聞く限り、セイジは女性の片割れに作られたのだろう。時間が経過していたのか、また1人新しく作られ、セイジの上に無造作に置かれたようだ。

 セイジはたった今ヒトを置いた、その存在を見上げる。『邪徒』だ。この『邪徒』はサービス開始3周年記念のアップデートで追加されたはずだと思い出し、セイジはその記憶がおかしいことに気付いた。その『邪徒』を見るまで、セイジにあった記憶はそのゲームを始めて半年、サービス開始1周年を迎えるかどうかまでしかなかったのだ。


「変なことはせずちゃんとしてよね。ヒトを作れるのはアンタだけなんだから」


「仕方がありませんね。既存の魂を利用するのはこれきりにします。死んでいるプレイヤーを探すのも手間ですし」


 この言葉で、セイジは自身が『すでに死んでいる人間』であることを思い出した。そして、もう1つ思い出したことがあるのだ。セイジは――。





「あれれ? 思ったより反応薄いなー」


 表情を全く変えなかったセイジに対し、『白竜』は少しだけつまらなそうな顔をした。セイジは頭を掻き、絞り出すように答える。表情に出ていないだけで何も感じていないわけではないのだ。


「私としては、半年も(・・・)持つのかといったところなのだがな……」


 セイジが取り戻した記憶の中には、作られてからこの世界に放り込まれる前までの女神たちのやりとりがあった。セイジはすでに死んでいて、転生をする前の状態であった。いつかは知らないが、やがて転生をすることになることを知ったのだ。この世界に来た直後『彼女』によって消されてはいたが、今はその記憶を取り戻している。セイジは、己の不調の原因が何か予想がついていたのだ。


「1つ、聞きたいことがあるのだが説得と言っていたが具体的にどうするつもりだ?」


 セイジは自身の話についても気になったが、もう1つ気になっていた内容があったため『白竜』に聞いてみた。『異界種』は当人の意志とは関係なく女神によって『白竜』と敵対させられることになる。身をもって知ったセイジにはただ中立、もしくは『白竜』側につく意思があっても意味がないと考えたのだ。


「あ、それね。簡単だよ、女神が操れないように体を変えちゃえばいいんだよ」


 『白竜』からとんでもない発言がされたため、セイジはしばしの間動きを止めた。


「……体を変えるというのは?」


「言葉通りだよ。『魂』と『記憶』だけそのままに『体』を別のに交換するんだ。ヒトは『魂』、『記憶』、『体』の3つで出来てるから」


「体だけ『白竜』が作るということか?」


「そゆこと。ああ、安心して。女神みたいに無理やり動かしたり出来ないように体を作るから」


 『女神』と違って、そういった道具は必要としていないのだと言う『白竜』を、セイジは黙って見つめる。『白竜』の話を真に受けるかは置いておく。本当に『体』は自由に取り換えることが出来るのだとしたら、『魂』や『記憶』を取り換えることが出来る可能性をセイジは『白竜』の話から見出した。


「あ、そうだ。他の『異界種』にも話をしなきゃいけないし、案内してくんない?」


「それなら冒険者ギルドか酒場で待つことになるな。『邪徒』の討伐を行っていていないんだ」


「そなんだ。じゃあ待たなきゃね」


 冒険者ギルドへの案内をしながら、セイジは考える。今後をどうするのかと。





 一方そのころ、レン達は『邪徒』の討伐が完了したのを確認し、帰路の途中であった。少々の警戒は怠らずに、しかしやや浮かれながら彼らは足を進めていく。

 その人影を最初に見つけたのは誰であろうか。輝く小麦を彷彿させる髪が特徴的な少女がいた。同色の睫毛から除く茶褐色の瞳は不安げに揺れていた。レンは彼女の服装を見て気付いた。彼女もおそらく『異界種』だろうと。レンは彼女に声をかけてみることにした。


「大丈夫か?」


「……はい。すみません、ここはどこでしょうか?」


 困ったように彼女は言葉を発した。

とある人物が出張るようになったのが誤算である。彼女、初期では出さない想定だったからなぁ。アイツもコイツも出番欲しがるから困る。

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