その31 なんてひどいカウントダウン
暫く本編のセイジ不在だったので、セイジメインで。
レンたちが『邪徒』の討伐に向かった日、セイジはいつも通りの日課を行っていた。夜が明ける前に起き出し、髭を整え鍛錬のため外に出る。ここ3日で変わった点があるとしたら、カーラがセイジの横で木剣を振るっているということだろう。カーラは冒険者になりたいそうで、とりあえず武器を振れる腕力をつけることにしたそうだ。ただ、普段の生活の上で身につけたのか現時点でセイジよりも腕力があるので、別の練習をした方が良いのではないかとセイジは考えたが言わないでおくことにした。カーラの見た目年齢を考えれば、戦いの中に身を置かせたくないと周りが考えるのは当然であろう。何を夢見て目指しているのかをセイジは知らないが、セイジもまたカーラが冒険者になるのを反対する側になるだろう。
「セイジさん、どうしたんですか?」
いつの間にか武器を振るう腕が止まっていたのだろう。カーラが首を傾げてセイジに聞いてくる。ここ3日で変わった点があるとしたら、セイジもである。セイジはまるで言葉の意味が理解できていないかのように僅かな時間、動きを止めるのだ。
「いや、少し考え事をしていただけだよ……カーンラッチェ」
セイジが調子が悪いという日は、なぜかカーラのことをフルネームで呼ぶ。口調や表情もいつもと違いカーラやレンは戸惑うのだが、修はテンモクがそうだったからいつものセイジの方が話しかけにくいと言っている。まるで二重人格と言っていいほどに、セイジの纏う雰囲気は違う。どちらが本当のセイジなのかと聞けたならば楽なのだろうが、口調などが変わっている自覚がセイジにはないようだ。ここ3日の朝は、ずっとその調子が悪い状態でカーラやレンは心配していたのだった。
「セイジさん、顔色が悪いですよ。休んだ方がいいんじゃないですか?」
「そうだね、キリの良い所でやめておくよ」
表情をほとんど浮かべないはずのセイジが微笑みながら答えた。
ふらりと、意味もなくセイジは町を歩く。体調が良くないから酒場には行ってはならないと言われたいたため時間を潰す手段がないのだ。
ここ3日、セイジは夢を見ているかのような気分であった。何が変わったかというと、ただ記憶を思い出しただけだとしか答えることが出来ない。ただそれだけが大きな問題となっていた。例えるならば、空を見てその色が青であると認識すると同時に赤であると認識するような。落ちているコインの柄が表であると認識すると同時に裏であると認識するような。セイジの中にある2つの常識が喧嘩をするときがあるのだ。何が正しいのか、自身の記憶は頼りにならない。思い出そうとすると2つの記憶が同時に浮かんでくる。その場その場で正しい記憶を思い出す作業にセイジは疲れてしまっていた。
だからだろうか、思い出すことすら難しくなっているようだ。言葉だけではなく、今までの記憶も思い出せるようになるまでに時間がかかってしまっているのだ。そのため、セイジはあることを理解していた。
「おんや? この町に『異界種』がいるという話だったけどさ、今はキミだけかな?」
喧噪が消えたような錯覚をセイジは受けた。振り返ると『白色』がそこにいた。髪も肌も服もすべて白い。唯一の例外はライトグレーの瞳だけだ。にこりと笑うその『白色』は、傾国の美女と例えたくなるような艶やかさを持っていた。
それを見たセイジはまるで何かに誘われるかのように動いた。
右手が『リボルバー銃:黒狼』を掴む。
当たり前のようにその『白色』に向かって抜こうとする。
ポタリと右手首から流れた血が地に落ちた。左手で投げナイフを突き立てていたのだ。
セイジの顔は青ざめ、肩は何かを抑えるかのように酷く震えていた。
「意外だね、やるじゃん。女神の命令で殺そうとすると思っていたんだよ。そう作られているからねん」
興味深いオモチャを見つけたかのように目をキラキラと輝かせ『白色』はセイジに話しかける。セイジの体は途中まで勝手に動いていた。セイジにある2つの記憶の中に、思い当たることが1つだけあった。女神の目的だ。セイジは、絞り出すように言葉を紡いだ。
「『白竜』、殿で、間違いはないか?」
「だーいせーいかーい」
『白色』、いや『白竜』は子供のように大笑いして答えたのだった。
『白竜』はリーウィの町にいる3人の『異界種』に会いに、ここまで来たようだ。別にセイジ達が特別というわけではないようで、友好的な『異界種』には皆会いに行っているのだとセイジに説明した。目的は『勧誘』であることをセイジに伝えた。
「意味もなく敵対したくないじゃん、だからせめて中立になってもらおうと思ったの」
しかし、ゲームで敵という印象を持っている『異界種』にただ敵対したくないと言っても効果が薄かったそうだ。
『白竜』を害するために作られた『異界種』は、そのままでは当人の意志とは関係なく『白竜』に攻撃するように出来ていることが分かった。そのため、一度自身の意志とは関係なく『白竜』を害そうとする様を見せてから説得をすることにしたそうだ。セイジにはこの世界に来る直前の記憶があるから『女神』に対する不信感が大きいが、他の『異界種』は違う。他の『異界種』が『女神』を信用できない状況を作るのは、確かに有効だろう。
『白竜』が言う女神の強制力というものが緩和されたのか、セイジはもう自由に動ける状態になっていた。
「それにしても面白い魂してるね、キミ。半分以上壊れちゃってて……作り直す前って感じ?」
じろじろと愉快そうにセイジを観察していた『白竜』が言葉を続けた。
「持って、半年なんじゃない? その魂じゃあ」
珍しく引いてみた。はよ続き書かんとな。




