その2 森の道中、ひどく順調だった件
次の話でストックが切れるので書き足さなきゃ。
書けば書くほどセイジがプレイしていたゲームがクソゲー化してる…。
そして、文章量敵に前までの話は1つでよかったんじゃなかろうか。
翌朝、目が覚めたセイジは毎日の日課を行う、正確にはログインをしたときの日課ではあるが……。左太腿の銃のようなものを抜き一言ぽつりと呟いた。
「『水の下陽:水球』」
セイジは手のひらサイズの水球を呼び出し顔を洗い始めた。これは、セイジがいたゲームの魔法だ。
あの銃のようなものの名前は『魔法銃:青燕』、弱い単体攻撃魔法が使用できるようになる魔法武器というジャンルの武器だ。引き金を引くと、最後に起動した魔法を威力2割減の状態で発射することができる。
顔を洗い終わったセイジはコンパクトミラーとナイフを出し、髭の手入れを開始する。
「セイジさ~ん、火が消えちゃってるので火をお願いしますね」
髭の手入れが終わったところでいつの間に目が覚めていたのか、たき木を組みなおした少女が手を振りながらセイジを呼ぶ。
「わかった。『火の下陽:火柱』」
火をつけ終わったセイジは日課の一つである銃の手入れを始めた。
セイジは銃の手入れ、少女が食事の準備を行っている間に魔法武器の説明をしよう。
魔法武器の特徴は何かの魔法呪文が詠唱可能になること、そしてメンテナンス不要となることだ。その分武器としての性能が低く、装備制限が酷かったりする。そのせいか、魔法武器そのものは今一つであった。
まあ理由はあるのだ。魔法の仕様に問題があった。魔法は2つの発動方法がある。
簡略詠唱……『魔法名』を唱えるだけの方法と、通常詠唱と呼ばれる『謎言語』とプレイヤーたちが呼ぶ決まった言葉を唱える方法だ。
この謎言語は日本語はもちろん英語などの外国語ではない。しかも、魔法職のもつスキル『自動詠唱』がない場合、自力でこの謎言語を発音する必要がある。
ならば簡略詠唱で良いじゃないかという話になるのだが、通常詠唱の1.5倍のMPと呼ばれるポイントを消費し、威力は7割減となっていた。7割でも3割減でもなく7割減だ、減りすぎだ。魔法職の場合なら威力低下軽減スキルがあり実用レベルとなるという、魔法職が不遇にならないための措置かもしれないが少しやりすぎだとプレイヤーからは評価されていた。
「セイジさん、ご飯出来ましたよ」
少女がセイジに声をかける頃には銃の手入れは終わっていたようですぐに焚き火の近くへ腰をおろした。朝ごはんは昨日セイジが狩った兎肉を出汁がわりにしたスープだ。
この兎を狩ったときに起こった一悶着をセイジは思い出しつつスープをすすり始めた。
――セイジは小型のナイフを投げた。そして吸い込まれるように兎の頭部を貫き、兎は倒れ動かなくなった。ゲームでは味覚はないのだが、食事が必要だったため狩りを行うのには慣れていた。この場合、銃では音が大きく近くにいる獲物が逃げてしまうので、『消費アイテム』である投げナイフを愛用していた。消費アイテムには装備制限というものがないため、ガンナーのセイジでも使用できるのだ。
「? セイジさん、そのままにするんですか?」
兎の耳をつかみ拠点に戻った後、血抜きを行わずに焚き火の準備をし始めたセイジに疑問を感じたのか少女が聞いてくる。セイジは、あまり感情の出にくい顔で若干恥ずかしそうに現状抱えている問題を答えた。
「実は人任せで狩った肉を一度も捌いたことがなくてな、そのままでも食べられるだろうか?」
人任せとセイジはいっているが、ゲームの仕様のことだ。ドロップアイテムは部位事に解体済みの状態で出現していたのだ。
「えっと……わたしに任せてもらってもいいですか、料理には結構自信があるんです」
――こうして、料理は少女担当になったのだ。セイジの中の人は料理が出来ないわけではないが、よく知った調味料に頼ることが出来ない現状だと全くの役立たずであった。
「そういえば、一晩は森で過ごさないとならない距離にどうやって一人で来た?」
食事も終わり、移動を始めたセイジは少女――カーンラッチェという名で、略称はカーラらしい――に尋ねた。何かを思い出したのか少し不機嫌になったカーラはぽつりぽつりと事情を話してくれた。
どうも最初は一人ではなかったそうだ。カーラの家は宿屋を経営しており、カーラは料理に使う香草や食べ物をよく森に取りに行ったり、隣町へ買い出しに行ったりするらしい。
そのときには冒険者ギルドで護衛を頼んでいるのだが、今まで担当していた人が別の町に移ってしまい、今回はこの町に来たばかりの新しい人に頼んだ。人当たりは良さそうな男だったので問題ないと思っていたのだ。
隣町への護衛を頼んだのだが森で一夜明けた後、カーラの荷物とともにいなくなっていたそうだ。
「なのでギルドに依頼料の払い戻しと、依頼しなおしをしないといけないんですよ」
「その、依頼をこなさず窃盗まで働いた冒険者はどうなる?」
「依頼失敗による罰金がありますね、あの人がギルドに寄るのだったら、ですけど」
窃盗のほうは町の外であるため、法が適用されず完全に泣き寝入りだそうだ。
その後も会話は続いたのだがセイジの口数が少ないからか、やがてループしはじめた少女の愚痴に付き合うことになりつつ、時折現れる獣をセイジが倒すことが幾度かあったりもしながら、夕方になるかどうかという頃に無事町についたのだった。