その26 セイジ視点、夢現の先を
数話振りのセイジ。
――白い白い空間があった。
山のように折り重なった『異界種』たち、その一角に私は倒れていた。やや離れたところにも山があった。よく見ると『異界種』と同じように『邪徒』が積み重なってできたものであることがわかった。
「捨てるのはこれで全部です?」
「ええ、嫌がらせとしてアイツの世界に押し込むの」
知らないはずの言葉なのに、『私』には理解出来た。おかしい、私はそのように作られてはいないはずなのに。
いや、これは『私』が生まれ育った国の言語だから知っていない方がおかしいんだ。
どういうことだろう。当たり前の知識が、当たり前の記憶の中に一致しないものがあって気持ちが悪い。
「それにしても、ほとんど使い物になりそうなのができなかったわねぇ」
話をする2人の女性、そのうちの片方を『私』がよく知っていた。女神ウァンクナーテ、『私』が遊んでいたホワイトドラゴンズという多人数ゲームのヒロイン……といえばいいのかな。キャラクター作成時のオープニングや、イベントなどに登場するNPCだ。
ゲームの世界観として、プレイヤーの体はこの女神によって作成されているという設定がある。私の体も女神が作ったのだからゲーム通りだといえよう。
「徒輩も微妙なのが沢山出来てしまいましたね」
「いいわ、白竜を攻め滅ぼす前準備には使えるはずよ。そこそこ強ければ『異界種』を育てるのに使えるもの」
まさか『邪徒』も女神が作っていたなんて。驚きからか『私』は思わず身を捩ってしまった。女神ではない方の女性がちらりとこちらを見る。気づかれたかと思ったが、すぐに女神に向き直り会話を再開したのでほっとした。
「無事に世界に繋げることができました。投棄、開始します」
その言葉を最後まで聞くことは出来ていただろうか、私は浮遊感に包まれた。そこはもう白ではなく、ぐるぐると青い空と緑や茶の大地が舞う。落ちているらしく内臓という内臓をこねくり回されているような感覚が私を襲った。
いつ地に突撃するかもわからないまま、ふと気づけば私は薄暗い木々が覆う場所に立っていた。そう、立っていた。
「ナティには悪いんですが、気に入ってた道具たちだけは壊れないように……そっと置くことにしたんですよ」
なぜ無事なのか、その疑問に答えるかのように響いた声に、私は驚いた。振り向くと、あの女神と一緒にいた女がそこにいた。
「あの話を聞いちゃいましたよね、知ってしまいましたよね。いけませんね。初期化するのでじっとしていてください」
花がほころぶような笑みでそう女性は言い、『私』に手を伸ばしたんだ――
最悪な目覚めだった。セイジとしてこの世界に来る直前の記憶、なぜかそれが2つ私にはある。
1つは28歳の健康診断の最中。もう1つは53歳で死んだ――いや、その後に白い空間で沢山の『異界種』に紛れていた時のもの。そう、『私』はもう死んでいる。風邪を拗らせて、放っておいたから悪化したのだと医者が言っていたのを覚えている。
「#・、@&△■」
声をかけられたので、私は慌てて『女神が作った』記憶を思い出す。この世界の言語を『私』は知らないのだ。
「すまない、寝惚けてたみたいなんだけどもう一度言って貰えないかな?」
「もう起きたのかいって言ったのさ、思ってたよりピンピンしてるじゃないかい」
「何度か若気の至りで、昔はよくギリギリを試していたんだ。その時の経験が生きたかな?」
『私』は笑いながらそう女性に答えた。
ゲームの中では死というものに意味がなかった。少しの間、能力が下がってレベルアップしにくくなるだけだから。
敵は倒しかたさえ知っちゃえば簡単に倒せるようになるから、よく突貫したり色々試したりしたもんだ。
簡単に倒せるようになったら作業的で飽きちゃって、新しい武器とか試す以外に敵と戦うこともなくなっちゃったなぁ。飽きるまでは逆に作業にのめり込んじゃうんだけど……。
「ところで、何を探しているんだい?」
「ナイフだ、髭を剃りたいんだ」
「診療所に刃物なんて持ち込ませるわけないだろう?」
呆れた顔をした女性に私は叱られたのだった。
数時間の検査で、もう問題ないだろうと医術士からお墨付きをもらった私は診療所を後にした。そう、体調の方は問題ない。
――診療所を出る前に女性が言いにくそうに、言葉を紡いだ。
「心臓の右部分に妙な反応があるんだけど、本当に『異界種』特有のもので大丈夫なのよね?」
「ああ、『異界種』には必ず核というものがある、別に異常というわけではない」
――そういうやりとりがあったのを思い出しながら、私は考える。
ゲーム中では特に気にしなかったが、これは『異界種』と『邪徒』が同じものであるのかもしれない。作成者は両方とも女神、ただ役割が違うだけ。ゲームでは『邪徒』を滅ぼす魔法で『異界種』もダメージが入るのだから、今まで気づかなかった『私』が馬鹿なのかもしれない。
私が向かうのは冒険者ギルドだ。
私と『私』は覚悟を決めなければならない。『私』が覚えている記憶は、今この世界にいる『異界種』全体に関わる。
『異界種』が女神の道具であることを話し、どうにか同情を買わねばならない。特に女神が敵視する『白竜』には、レンが『白竜』と敵対することはないと納得させなければならないだろうなぁ。
遠くない未来に起こるであろう女神が作り出した『異界種』の侵略に、私は頭を抱えたのだった。
一応、前々からのセイジ視点で私と『私』が混在してたけど、独白の中でコロコロ変わりすぎで、どっちがどっちかわからん。




