その24 イベントと盾
ゲーム内の話書くの楽しかった。
ギルドでパーティを組んだ修とテンモクは町を出た。2人がいる最初の町周辺はイベント中であるため、出現する敵は全て『邪徒』になるとテンモクは修に教えた。
「敵の中でも『邪徒』は急所狙いしやすいから、覚えておくといいかもしれないね」
「急所狙い……ですか?」
修がテンモクに急所狙いについて聞こうとしたときに、紫色の光が視界の端に映った。『邪徒』が出現したのだ。修が片手剣と盾を取り出そうとした。しかし、タグから取り出すよりも前に『邪徒』は光の粒子となって消えていた。
「え?」
まじまじと修は『邪徒』のいたあたりを見る。地面に小型のナイフが転がっているのが見えた。修がテンモクの方を見ると困ったような顔で頬を掻いていた。どうやらテンモクが倒したらしい。
「うん、戦い慣れてないもんね。タグから出すの手間取ってるようだし、じっくりやった方がよかったね。ごめんごめん」
その後は、テンモクは修が経験を積めるようにと、『邪徒』が出現したときはまず修に伝えることにしたようだ。数が多い場合だけ手を出した。しばらくして、修が『邪徒』と戦うのに慣れてきたころ、テンモクは話を再開した。
「さっき話にあった急所狙いについてだけどね。少し私の戦い方を見てもらってもいいかな?」
「はい」
そして5回ほど修はテンモクが『邪徒』を倒す様を見せてもらった。テンモクのジョブの関係で魔法武器しか装備できないというのが丁度良かった。テンモクは修が装備可能な武器である片手剣で披露した。
テンモクは1撃で『邪徒』を倒した。全てが1撃だった。パーティを組むときレベルを見せてもらっていたのだが、テンモクのレベルは修よりも低かった。ステータスも修と攻撃力は大して違わないようだったのだ。
「そうだね。まず例を出してみよう。指をさ、包丁で切ったとしよう。痛いよね?」
「はい、痛いですね」
「うん、でも死なない。じゃあ、包丁で切ったのは首だったとしよう。この場合だと死んじゃうよね」
テンモクの言葉に修はうなずくことで返事をした。
「即死部位って言えばいいのかな。そこに攻撃を当てることを急所狙いっていうんだ。少なくとも、私が戦ったことのある敵には全て設定されていたよ。そこを当てれば格上でも一撃で倒せる」
そう言い笑うテンモクを見て、修は目を瞬かせた。笑顔で話しているが、少し楽しくなさそうに見えたからだ。セイジは修の肩をたたき歩き出した。慌てて修もついていく。
「特に『邪徒』は核と呼ばれる部分があるからやりやすいよ。覚えておくと便利だけど……レベルを上げる意味がわからなくなるかもしれないから、ほどほどにね」
ほどなくして、修とテンモクは目当ての『邪徒』である『青ミュルグナー』を見つけることができた。修は縁が刃のように鋭くなっている盾を撫でる。幾度もあった『邪徒』との戦闘の中で、初期装備の『盾:木の盾』が壊れてしまったのだ。そこでテンモクが持っていたものを貸してもらっている。『投擲刃盾:黄鶴』という投擲すると消滅する誰得な盾だ。貸したテンモクは「いっそのこと投げちゃって」と言っているが、修には気軽に借り物を壊すことなんてできないと断った。
「修君、少しいいかな」
『青ミュルグナー』とその近くに2体ほど『邪徒』がいるのを見て、テンモクは小声で修を呼んだ。
「『青ミュルグナー』は修君に任せてもいいかな? 護衛役の『邪徒』は君とは相性が悪そうだからね、私が引き受けるよ」
「僕1人では倒せそうにないんですけど……」
「最悪、時間稼いでくれればいいよ。君が攻撃を避けてる間に片づけるから」
「わかりました、やってみます」
テンモクが修に合図を送り走り出した。
テンモクが先に飛び出すのに気づいたのか、護衛役の『邪徒』がすぐにテンモクを追いかける。少しして、テンモクを追いかけようと動いた『青ミュルグナー』に修は石を投げ気を引いた。効果は抜群だった。『青ミュルグナー』は石を投げてきた修を見つけるやいなや跳びかかってきた。
咆哮を上げながら向かってくる『青ミュルグナー』を見た修は、頭が真っ白になった。3メートルほどの巨体が迫ってくる様を至近距離で見せられ、ビックリしてしまったからだ。
迫る拳に思わず盾を突き出すことが出来たのは、この5日間の慣れがあったからだろう。しかし、衝撃は今まで体験してきたそれとは比べ物にならないほど大きかった。修は思わず尻餅をついてしまう。
それに気づいたテンモクの動きは素早かった。出発前に話題に上げていた新装備で『邪徒』2体を切り付け、ひるんだ隙に『青ミュルグナー』の腕を撃ち抜いた。『魔銃刃:銀豹』という、片刃剣に銃身を取り付けた武器だ。
『青ミュルグナー』はちらりとテンモクの方を見たが、すぐに近くにいた修に向かっていく。修は焦ってうまく立ち上がれずにいた。
「修君、盾を投げて!」
修はその時必死だった。考えている暇などない状態で、その盾を投げたらどうなるかなど思い出せるはずもない。修は思いっきり『青ミュルグナー』めがけて盾を投げた。『投擲刃盾:黄鶴』は青白い閃光を放ち、『青ミュルグナー』を真っ二つにした。
「いやぁ一度投げたらどうなるのか見たいと思ってたからよかったよ」
修が盾を壊してしまったのを謝ろうとする前に、ニコニコと笑いながらテンモクは先手を打った。そして、すぐに話題を変える
「今回は盾と防具をドロップしたみたいだね。『青ミュルグナー』倒したのは修君だし、全部修君が持っていくかい?」
そう言い、広げられた防具を見て修は頬がひきつるのを感じた。ゴテゴテとした貴族の衣装、それが防具に対する修の第一印象だ。ドロップ品を独り占めするのは心苦しいという点を除いても、その防具はいらなかった。
「え……えっと、盾が壊れたんで、盾だけもらってもいいですか?」
「うん、じゃあ『子爵セット』は私がもらうよ、ありがとうね」
テンモクは嬉しそうにその防具をしまった。あの防具はそんな名前なのかと修は脱力しつつ、初めてのイベントは終わったのだった。
ギャグっぽくなった。命のやりとりとかの緊張感がないから…いや、大体テンモクが原因か。
ゲームエピソードはここまで。




