その23 盾戦士とイベント開始前
ゲームでのお話。
――修がそのゲームを始めたのは、普段の自分とは違う見た目にできるからだった。
修は幼馴染2人とこのゲームを始めた。どのようなアバターにするかは内緒ということで、それぞれが自分の作りたいものにすることにしたのだ。修が選んだのは『Mジョブ:盾戦士』、『Sジョブ:治癒術士』という防御偏重の構成だ。修がキャラ作成を終わらせ、冒険者ギルドに出現した。ゲームの情報がある程度整ってから始めることになったのでパーティの組み方は知っていた。修はパーティ編成部屋に向かった。
パーティ編成部屋に入ると、修の名前が掲示板に表示される。今部屋にいるプレイヤーの名前の一覧だ。
「あ、いたいた。修こっち~」
声をかけられ修は振り向いた。修は幼馴染2人にあらかじめキャラクター名を教えあっていた。掲示板のプレイヤー一覧に2人の名前があったので、先にキャラ作成を終えて修を待っていたのだろう。
「三四郎、メノー、ごめん遅くなって」
3人は早速パーティを組んだ。修が防御よりの前衛、三四郎は『Mジョブ:軽剣士』、『Sジョブ:二刀戦士』というスピードタイプの前衛、メノーは『Mジョブ:盗賊』、『Sジョブ:アーチャー』という後衛よりの中衛だ。前衛2人に中衛1人というバランスの悪い構成となっていた。
このゲームは最大5人までパーティとして組める。そのため残り2人を募集をしてみたのだが、後衛職はプレイヤーがあまり選ばず数が少ないらしく待っても意味がなさそうであった。
仕方がないので3人で敵を狩ることになったが、それで良かったのかもしれない。三四郎は攻略本片手にゲームをするタイプで、効率的なレベル上げというのが好きなのだ。修やメノーは稼ぎに関して特にこだわりはないのでどんな敵と戦うかは三四郎任せにしていた。プレイスタイルというものは、合う人合わない人がいるのだからパーティを組んでも揉めることになったかもしれない。
修が遊び始めて5日目、イベント『一周年カウントダウン記念。ミュルグナー討伐』が始まった。
修は困っていた。三四郎とメノーは今日は用事があり、イベントに参加できないと言われてしまったのだ。このイベントはソロ不可で、最低でも2人以上パーティを組んで挑む必要があった。
パーティの募集をするという選択肢はあったが、前に見たパーティ募集状況を思い出し修はやめることにした。
パーティ募集で人気のある職は魔法士、アーチャーなどの後衛職だ。メノーも『Sジョブ:アーチャー』だったため、引き抜こうとするパーティがいたくらいだ。ちなみに修の『Sジョブ:治癒術士』は魔法攻撃手段がないため、後衛職という範疇には入っていない。
逆に人気がない職は前衛全般だ。それも攻撃手段に乏しい盾戦士は特にいらないものとして扱われていた。修が募集をかけたとしても誰も組んでくれないだろう。
イベントには参加したい、しかし自分と組みたいという人はおそらくいない。修はどうするか迷っていた。
ログインをして宿屋の近くをトボトボ歩いていると、うっかり誰かとぶつかりそうになった。
「あ、すみません」
「うん? 大丈夫だよ。ちょっとビックリしたくらいだしね。君も大丈夫かな?」
修はぶつかりそうになった相手を見て、目を丸くした。何故か甚兵衛を着ていたからだ。しかも足元をみたら健康サンダルを履いている。世界観にそぐわない格好をしたこの男性は、間違いなくプレイヤーだろうと修は思ったのだった。
「はい、大丈夫です。あなたもイベントに?」
「あーそういえばあったね。いつもソロだから討伐系のイベントとは縁がないんだよね」
これはチャンスかもしれないと修は考えた。勇気を出して誘ってみる方がパーティ募集よりも可能性があるかもしれないからだ。
「じ…実は今日友達が来れなくて一人なんです。よよよかったらパーティを組みませんか?」
焦ってしまい少しどもったが、何が言いたいのかは問題なく伝わったようだ。甚兵衛を来た男性は微笑を浮かべ了承したのだった。
パーティ登録は冒険者ギルドでしか登録できないという不便な仕様のため、修と男性はギルドへ向かった。
「そういえば自己紹介がまだだったね。私はテンモク、不人気絶好調のガンナーだよ」
ギルドまでの道中、修とテンモクと名乗った男性はそれぞれ自身のジョブについて伝えた。テンモクは『Mジョブ:ガンナー』、『Sジョブ:魔法戦士』らしい。ちなみにこの組み合わせ、地雷中の地雷と呼ばれている。まずガンナーは使用できる武器が不遇である。弓と比べても火力の低い『オートマチック銃』、火力はあるが戦闘中リロード不可の『リボルバー銃』、効果が特殊すぎる『魔法銃』の3つに分けられる。それだけならまだ良いのだが、魔法戦士というジョブは魔法武器しか装備できないという特徴を持つ。そう、このジョブの組み合わせで装備できる銃は『魔法銃』のみだ。Sジョブが魔法戦士の時に装備できる武器が主なダメージ源となる。
「よくそんな組み合わせ選ぼうと思いましたね」
少し呆れたような顔をした修にからからと笑いテンモクは答えた。
「普段はやらないよ、これは4キャラ目でね。アップデートで増えたとある新装備を使ってみようと思ったんだ。装備するのはバカしかいないと速攻で最安値更新したネタ装備!」
楽しそうに話すテンモクにつられ、修も少し笑みを浮かべた。
不人気絶好調ってなんだ。
ゲームのお話はあと1話ほど続く…暴走しなければ。




