その21 失敗と決意と
なんか書いたら長くなった。平日はほとんど進められんから急いで書いた。
行きは2時間もかからなかったのだが、帰りは意識のないセイジを運んだためか5時間ほどかかってしまった。
レンとカーラは町に戻るとすぐに診療所へセイジを引きずっていった。診療所とは狩人ギルドが経営している施設だ。
その施設に着くと、たまたまいた狩人ギルドの長ガガダーラが3人に気付き、周りの男衆にセイジを寝台に運ぶよう指示をした。
ガガダーラに呼ばれた医術士――この世界の医者にあたる魔法士――に、レンはセイジが倒れた理由を話した。医術士がセイジの容態を調べている間、レンもカーラもそばを離れようとしなかった。
「今はただ気を失ってるだけだね。ガガダーラ支部長から聞いているけど魔法士なんだろう? だったら壊れた体内を自力で修復したんだろうさ」
セイジが今生きている理由に、バフによる反動の対策を準備していたことが挙げられる。セイジはゲーム中でも『魔法銃:白雀』でのバフを利用していた。バフの反動後に死に戻っては意味がない。魔力を消費し治癒力を大幅に高める効果を持つ消費アイテムを、その対策として持っていた。『魔法銃:白雀』を使用する前に飲んだ黒い丸薬のことだ。セイジは2人に見捨てるようなことを言いはしたが、死なない努力はやめなかったようだ。
セイジの無事を確認できたレンとカーラは安堵したのだった。
「まあ、話によれば普通の能力上昇魔法よりも反動が大きそうだからね。目が覚めるまでちゃんと預かっておくさね」
だからお帰りと頭を撫でた医術士の女性に2人は礼を言い、診療所を出た。次に行く場所は冒険者ギルドだ。
「お、レンか。丁度良かった。セイジかアンタに言っとかなきゃならんことがあってなぁ……て、どうした? 辛気臭ぇ顔してるが」
珍しくギルド職員はギルドにいた。最初に酒場に顔を出した2人は、その場にいた狩人たちに大丈夫かと心配されることになった。顔色のあまりよくないレンとカーラに、ギルド職員は用事よりも2人の話を先に聞くべきだと判断したようだ。
促され、レンは今日起きたことをギルド職員に話し始めた。最初は真剣そうに聞いていたギルド職員は、話が進むにつれて呆れかえったような顔になっていた。
「あーレン、あいつのランクいくつかわかってるか?」
「赤と橙と黄って聞いてるけど」
「『ランク:赤』の1つ上って橙じゃねーか」
まず、レンがセイジの実力について勘違いしていることをギルド職員が指摘した。
「まあ、アンタのミスは討伐対象の実力を考えずカーラを連れてきたことと、セイジに万全の準備をさせなかったことと、セイジと情報共有をしっかり行ってなかったことの3つだな」
次は同じことをするなとギルド職員はレンの頭をポンポンと叩いただけだった。セイジが死んでいたら違ったことを言っていたのだろうか。冒険者として新人同等であることを狩人やセイジから聞いているギルド職員はレンを叱らなかった。レンは納得できないと言わんばかりの顔をしている。
「カーラも危ない所に何も考えずついて行くべきじゃなかったな。セイジの腕前を見たいならもっと安全な方法があっただろう。ま、次はセイジに直接言ってやれ」
暗い顔をしたカーラに対しても慰めるようにギルド職員は優しく言うだけだった。レンもカーラも自分の所為で起きたのだと考えいたため、優しく慰められるより叱られたかったのだ。それを見越してなのか、それとも2人が子供だからか、ギルド職員は苦笑しこの話を切り上げたのだった。
「後悔してるんなら2人とも次はやるなよ。そんでセイジに謝っとけ。で、こっちの話をしてもいいか?」
「……うん」
「他所の冒険者ギルドから『異界種』を1人預かってくれと言われてる。あんまり話さないおとなしい奴らしくてな、この町に『異界種』がいることを話したらこっちに来たいって言ったんだとよ。手紙じゃもう出発してるって書いてるから、数日以内に来るだろうよ。だから面倒みてやれ」
話が終わったギルド職員は2人をさっさと『微睡む白狼亭』に帰すことにした。一緒に宿について行き、宿屋の亭主に軽く事情を説明する。宿屋の亭主は2人の顔色を見て、今日は早く休むべきだと2人をそれぞれの寝室に追いやったのだった。
夜も更けて静寂が辺りを覆う時刻、レンは寝付けないでいた。レンには弟がいるのだが部屋は分かれておらず、誰もいない空間で寝ることはほとんどなかった。この世界に来て今までいたセイジが、今日はいない。自分以外の呼吸音がせず、ちっとも落ち着くことが出来なかった。
レンは何度目かの寝返りをうち、足音が聞こえるのに気づいたので勢いよく体を起こした。
控えめなノックが響く。月明かりを頼りにドアを開けるとカーラがそこにいた。
「カーラも眠れなかったか?」
「はい。レンさんも眠れなかったんですね。レンさん、少し……お話ししてもいいですか?」
レンは頷き、カーラを招き入れテーブルに置いてある球体を3回叩いた。すると、その球体は淡い光を出し部屋をぼんやりと照らした。レンとカーラは向かい合うように椅子に座った。
「レンさん……ごめんなさい。私の所為で、私がセイジさんが『銃』使うのを見たいって言ったから」
「違う、俺の所為だ。俺がどうせなら強いやつ倒した方が格好いいだろうなんて思ったから」
「レンさんの所為じゃないです。私が……」
「カーラは悪くない。俺が……」
ある意味押し付け合いともいえるその言い合いは平行線のまま続いた。2人は互いに顔を見合わせ、このままだといけないと考えたのか黙り込んだ。しばらくして、ぽつりとカーラがつぶやいた。
「レンさん。私……冒険者になろうと思うんです。母さんも父さんもそうだったからだけじゃなくて、あんな風に私を守って死んじゃいそうになる人がいるのは嫌だから、強くなりたいんです」
「俺も……強くなりたいな。冒険者として一番強いはずの俺が……あんなだったから起きちゃったんだし。カーラ、一緒に修行……しちゃおうか?」
「しゅぎょう……いいですね、やりましょう。修行! どんなことするんですか?」
「そうだな……」
空元気だとわかる態とらしい明るい声を出しながら、レンとカーラはどんな風に修行をしたらよいのか話しあった。ただ、どういうことをするのが修行なのか知らない2人には良い案が浮かばず、気が付けば夜が明けていたのだった。
やりたかったことはレンの成長のきっかけというやつ。
セイジは年齢とか考え方とか成長とは無縁だから、多分ずっとぶれないんだろうなぁ。
次から3人目の『異界種』登場。




