その20 破滅の足音
勢い任せパート2。冷静になった後で見直して修正するかも。
――レンは尻餅をついたままセイジと『邪徒』の方を見ていた。あの『邪徒』は何なのだろうか、と。姿はかつてゲームで見たものと同じ。しかし、その動きにはかつて見た法則性はない。セイジを鬱陶しそうに殴り飛ばそうとするその動きが、レンでは避けることができそうにない。レンが斬りかかったとしたら、まず返り討ちに合うだろう――。
セイジはちらりとレンの方に視線を向けた。レンは焦点の合わない目でこちらを見ていた。肩が震えているのがわかる。セイジは舌打ちをしたくなったのを我慢し、『邪徒』に『雷の下陽:雷針』を撃った。
『リボルバー銃:黒狼』は残弾数が5しかない。魔法も使いすぎると死ぬため有限だ。
ゲームの能力パラメーター説明欄に体力は尽きると気絶するだけなのだが、魔力は尽きると死ぬと記載されていた。実際にゲーム中で魔法を使いすぎて死に戻りしたことが幾度かあった。それとなく冒険者に確認したところ、この世界でも魔法も使いすぎると死ぬようだ。
セイジが時間稼ぎ出来る時間はほとんどない。しかし、あの『邪徒』を倒せる可能性があるのはレンだけだった。しかし、レンに戦意がない理由も想像がついた。初めて戦いによる『死』の可能性があることに気付いたのだろう。
レンは1人で狩りに出たことはない。あの町で一番強いのはレンであるため、自然と周りに合わせてレンよりもはるかに弱い相手と戦うことになる。そのため、命の危険を感じることはなかったのだろう。レンと違いセイジは弱い。周りにはそういった素振りは見せなかったが、ヒヤリとしたことは何度もあった。その差、なのかもしれない。
「レン、聞こえているか?」
セイジが声を張り上げた。『邪徒』はレンたちを狙うように動くため、意識をそらすため攻撃を続行する。
セイジが逃げられる状況で逃げなかった理由はカーラにある。冒険者である以上、戦いにより死ぬことはありえた。同じ冒険者であるレンのみだったら間違いなくセイジはレンを見捨て逃げていただろう。しかしカーラはただの町娘だ。どういう理由でレンが連れてきた――カーラがレンに頼みついてきたことをセイジは知らない――彼女は巻き込むべきではないと考えていた。
あの『邪徒』を倒したあと、町に戻る場合、銃と魔力の消耗の激しいセイジではカーラを守り切ることはできない。何を犠牲にして『邪徒』を倒すのか……その答えはセイジの中にすでにあった。
「レン、『邪徒』が木偶の棒のように動かないノロマなら倒せるか?」
「動かない……なら?」
レンは考えた。あの『邪徒』がゲームのようにわかりやすい動きをしたならば、レンだって問題なく戦えるはずなのだ。そのとき、カーラがレンの手を握った。目を見開いたレンを励ますように、カーラは頷いた。レンは覚悟を決めたのか、青玉の瞳が輝きを取り戻した。
「……たぶん、できるよ」
「なら、私が動きを止める。アレは頭に核がある。首がやや脆いから首を狙え」
レンが立ち上がるのを確認して、セイジはタグからある銃を取り出した。
「レン、『邪徒』を倒した後は……ろくに動けなくなった私は置いて町に戻るんだ。行け!」
セイジが黒い丸薬を口に放り込み、その銃で自身の頭を撃ち抜いた。『魔法銃:白雀』は『全能力を短時間2.5倍にする』効果を持つ。あの『邪徒』にとって、セイジの姿は一瞬のように消えたように見えただろう。
レンはセイジが話した言葉の意味を考えるよりも前に『邪徒』に向かって走り出した。ゲームではレンが先陣を切らなければならない場面が幾度もあった。そして、躊躇してパーティが壊滅したこともあった。命にかかわる今だからこそ、ためらうことはできなかった。
レンが走り出すのを確認したセイジは左に『魔法銃:白雀』、右に『リボルバー銃:黒狼』を持ち『邪徒』の背後から駆け上がった。肩に乗り両手の銃のトリガーを引くとともに跳んだ。至近距離で撃ったとしても遠距離攻撃であるため、『リボルバー銃:黒狼』を撃った首には傷一つつかない。しかし、弱点部位に衝撃が走ったため『邪徒』はセイジの方に向こうとした。
セイジが地面を転がる。デバフによりセイジを追おうとする『邪徒』の動きは、まるでスローモーションで見た映像であるかのように緩慢だ。セイジにしか意識を向けていない『邪徒』の首を、レンが斧で切り飛ばすのは酷く容易だったのだ。転がった『邪徒』の頭をレンはかち割る。『邪徒』は光の粒子となって消えていった。
肩で息をしながらレンはぼんやりと『邪徒』のいた場所を見つめる。怖かったのだ。『邪徒』がレンに気付いて殺しに来るかもしれない。セイジが気を引くため攻撃をしている間ずっと『邪徒』の1つしかない目はレンを見ていたのだから。それが消えた。あの『邪徒』はもういない。レンはガクガクと震える足をそのままに唯々立ち尽くした。
「セイジさん、しっかりしてください!」
そんなレンを正気に戻したのはカーラの悲痛な声だった。ゆっくりと声の方へ顔を向ける。カーラが倒れたセイジの手を握っていた。
「レンさん……セイジさんが、セイジさんが……息を」
2人のもとに走ってきたレンに対し、カーラは涙をぬぐうこともせずレンに伝えた。息をしていないんです、と。
それを聞いたレンは思わずセイジの両肩を掴み揺さぶった。カーラの静止も聞かずセイジを呼び続ける。この時の2人は冷静ではなかった。
「オッサン、しっかりしろ! オッサン!」
「レンさん、安静に……セイジさんの頭とれちゃいます!」
ごぼりと口から血を吐き出し、セイジが息をし始めたのは奇跡だったのかもしれない。2人は互いに目を見合わせた。レンはセイジを担ぎカーラも支えた。セイジが最後に言ったその言葉を実行する気は2人はなかった。
自分でもひでぇ話書いてる自覚はあるけど、やりたかったのだから仕方がない。
レンとの絡みで真っ先に思いついたエピソードがこれとか、セイジの扱いが酷いよね。




