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ハードボイルド(笑)に生きよう  作者: 最小
歌う女剣士と同郷の女斧戦士
14/45

その13 同郷さん現る

難産! 

「そういゃセイジ、アンタ以外の『異界種』がこの町に来てんぜ?」


 そうかと答えた後ギルド職員から借りた紙束の内容を確認し始めたセイジをよそに、酒場では新たな『異界種』について騒ぎ始めた。


「なあ新しい『異界種』は男だったか、女だったか?」


「どんな奴だ、誰か見てないのか?」


「それよりセイジはなんで無反応なんだよ」


「やかましくしてる野郎ども、よく聞けぇ! 新たにこの町に来た『異界種』は……女だ。しかも美人だ!」


 不思議とよく通るギルド職員の低い声が響き、酒場はひと時の静寂を迎えた。そして、まるで息を合わせたかのように彼らは歓声を上げた。今酒場にいるのは常連の狩人ギルドの面々で冒険者ギルドの一員はいないのだが、その2つのギルドではある共通点があった。女性が少ない、というものだ。ただ少ないというわけではない、筋肉がよくついた雄々しい女性が大半をしめている。それをよく知るギルド職員が『美人』と言ったのだ。期待できないわけがない。


「このギルドの情報集、来たという『異界種』はどうしたんだ?」


「気にするのはそこか! 写しを購入していったぜ」


 その話を聞いたセイジにある疑問が浮かぶ。


(なぜ、私はこの世界の言語について理解できている?)


 セイジが黙り込んだこともあり、狩人たちから新しい『異界種』の人物について質問攻めにあったこともありギルド職員との会話は途切れたのだった。




 必要と判断した情報を写し切り、宿へ戻ったセイジはドアに手をかけ――開けるとともに後ろへ後ずさった。そこへタイミングを合わせたかのように男が転がるように出てきた。セイジを入り口を覗き込み見えたものは、珍しいことに亭主とカーラ以外のヒトが2人……尻餅をついている男を含めれば3人いた。

 武器収納具(タグホルダー)をつけていること、なおかつこの町の狩人全員と顔合わせしているセイジが知らないということは冒険者だろう。


「おいレン、何もいきなりふっ飛ばさなくてもいいだろうよ!」


「るせぇよ、俺はホモじゃないんだよ」


 土埃(つちぼこり)を叩いて再び宿に入っていった男と口論を始めたのは、女性だった。橙色が混じった赤色の長い髪は、ゆるく波打っていてまるで炎のようだ。気の強そうな青玉(サファイア)の瞳は怒りの所為かキラキラと輝いて見える。くっきりとした顔立ちで10人中8人は美人だと答えるような整った容姿をしている。ただし、黙っていればという接頭語がつくだろうが。


「俺はなぁ、野郎に興味なんざないんだよ! これからも一緒に冒険しないかとか言ってくるのはいいが、なんだよ付き合ってくれってさ」


「レン落ち着いて、落ち着いて」


 この女性、どうやらすごぶる口が悪いようだ。それよりもセイジはこの女性の鎧に見覚えがあった。有用な防具は武器以上に少なく、手軽に入手が可能な優良装備を着込むキャラクターは多かった。そう、ゲームの衣装だったのだ。

 もう1人の男がどうにか女性を落ち着かせることに成功し、セイジはやっと宿に入ることにしたのだった。


 


 カーラは不機嫌だった。目の前のテーブルにいるのは野郎3人と女性1人。囲む彼らの目の前に置いてあるのは酒、彼ら4人は夕食もそこそこに酒盛りを始めたのだ。


「『ランク:赤』の『異界種』がこんなオッサンとは思わなかったね」


「オレらはもう少ししたらオッサンの仲間入りだけどよ! はははははは」


 カーラが不機嫌である理由は騒ぎを起こした3人に対してではなく、なぜか彼らに混ざって酒を飲んでいるセイジが原因だ。酒場から帰ってきてまた酒を飲んでいる。助けてもらった時の格好良い姿を知ってしまっているのがいけないのだろうか、だらしないセイジの姿を見るたびにあの時のトキメキを返してと叫びたくなるのだ。


「オッサン、本当に『異界種』……なんだよな。井戸の中の!」


「急だな。『井戸の中の蛙大海を知らず』だろう?」


「じゃ、泣きっ面に」


「蜂、だ。意味があるかわからんが……四文字熟語はどうだ」


「焼肉定食!」


「私は親子丼定食が好みだな」


「4文字じゃないじゃん」


「それ以前に焼肉定食は四文字熟語ですらないがな」


「知ってる!」


 紅一点はどうやら酒にはあまり強くないらしい。酔っぱらって右にいる背の高い細身の男――先ほど女性を宥めていたほうだ――の背中を上機嫌そうに叩いている。どうやら女性はセイジと同じ『異界種』らしい。よくわからない言葉の応酬を楽しそうにしている。


「レンよぉ、本当にこの町に居着く気かよ、『ランク:青』なのにもったいない」


 先ほど女性と喧嘩していた体格の良い男が恨めしそうにつぶやく。どうやらこっちも酔っているようだ。


「同郷のやつと会う機会がこれっきりかもしれないんだ。知らない場所で独りぼっちは怖いんだよ……怖いんだよぉ」


 レンと呼ばれた女性は今度は泣き始めた。細身の男が頑張って慰めようとする。さらに隣で体格の良い男がもらい泣きしている。セイジは自分の酒を継ぎ足している。混沌としたその空間にカーラの雷が落ちるのは当然といっていいだろう。

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