その12 『邪徒』討伐
セイジの貴重な戦闘シーン。数が多いとあっさりになる不思議。
2日後、『邪徒』討伐の日。セイジは3キャラ目に姿を変える。ゲームではセイジのキャラの中で最も魔法の扱いに長けていた、2キャラ目がセイジよりも腕力が上であったので、おそらく効果があるはずだ。獲物は杖と短剣、『短杖:木の杖』と『短剣:鉄の短剣』という初期装備だ。
討伐の人員についてだが、狩人たちの大半が参加してくれていた。セイジとよく飲む者たちが周りに声をかけてくれたらしい。ギルド職員も今回の『邪徒』討伐に参加している。ギルド職員はセイジが協力を仰いだ意図についてこう考えていた、これは『邪徒』の倒し方を教えるレクチャーであると。
ギルド職員はセイジに話していないことがあった。セイジ以外の『異界種』が見つかっていること。そして、その『異界種』の行動に問題がありギルドは出来れば排除したいと考えていることを。
『邪徒』は『異界種』にしか倒せないとその人物は主張し、幾度か『邪徒』を倒して見せ、自身を優遇しなければ見捨てると脅迫したのだ。『ランク:緑』で実力もあるため、各上がいなかったその街のギルド員は従うしかない状況らしい。周りを蔑むように振る舞い、様々な無茶を強要してくる『異界種』に対する心証は最悪だそうだ。
セイジが信用や信頼を得るような行動をとっていなければ、『異界種』はそういうものだと決めつけてしまっていただろう。
セイジが今回の作戦について話始めたため、ギルド職員は思考の海から出て彼の話に耳を傾けた。
「あの蜘蛛形の『邪徒』は最初に同族を壊したものを優先して倒そうとする習性がある。優先する対象の息の根を止めるか数日たつまで他の獲物は狙わない。そのため、まず私が壊し囮役となり、周りはぶつからないように倒す。蜘蛛形は足が3対のものと4対のものがいて外周に4対のものがいたら優先して壊してもらえると私が逃げるのが楽になる」
「普段は囮役は足の速え奴が担当するか?」
「単純な速さよりも、周りをよくみて囲まれないよう動ける者がいい。今回は数が多いと予想しているから魔法で一掃する予定だ。呪文については喉を痛めるから後日教える。魔法が向いていないものも、それなりの効果が見込めるから知っておいた方がよいだろう」
事前にセイジから展開された知識もあって、作戦の説明は5分もかからずに終わった。
そして、その時が訪れた。セイジが正確に『邪徒』の急所を短剣で貫く。貫かれたそれは光の粒子になって消え失せる。それが、戦いの合図となりセイジは詠唱し始めた。
追いかける『邪徒』を軽くいなすセイジ、時に避け、時に短杖で払い、時に『邪徒』を破壊しながら囲まれぬように移動していく。円を描くように走るセイジの外周に狩人たちは位置取り、攻撃を加え『邪徒』の数を減らしていった。しかし数が多くなってからは余裕がなくなり、獲物も短剣から投げナイフに変更し応戦していた。最終的に『邪徒』の数は100を優に超え、我先にとセイジに群がろうと押しつぶされるものも出てきたころ、やっと呪文は完成した。その完成までにセイジと狩人たちで全体の5分の1を片づけてしまったのだから、とんでもなく長い間呪文を詠唱していたことがわかるだろう。『闇の上陽:崩邪』……効果は命なき蠢くものを塵芥へと変えるというものだ。その効果は絶大だった。セイジを追いかけていたそれらが全て崩れ落ちサラサラと消えていったからだ。辺りにはもう『邪徒』の姿は見られなかった。喉を抑え首を傾げるセイジにギルド職員や狩人たちが近寄る。それに気づいたのかセイジは『邪徒』討伐に関する話をし始めた。
「あとは適度に減らし続ければいい、アレはどれだけ壊しても完全には消えてくれない」
「喉を傷めるって言ってたがずいぶん元気そうじゃねぇか」
「世界が違うから……いや、私が異世界のそれとは違うのであろう。……私の体はどうやら生きているようだ」
あの呪文を使うと喉を傷めるのは、女神の作った替えのきく体であり生きていないからだ。『異界種』以外が使えばそのような効果は現れないということだ。『異界種』が破壊される時、『邪徒』と同じように光の粒子となって消えるとセイジは話した。「まるで『異界種』と『邪徒』は同じもののようだ」と誰かがつぶやく。静寂の中、セイジは「そうなのかもしれない」と同意したのだった。
「セイジ、ちょっといいか?」
『邪徒』討伐から10日たった。セイジとカーラがリーウィの町へ帰ってきたのだ。手招きされ来たセイジにギルド職員はある分厚い紙束をセイジに見せた。よくよく見ると、端を紐で縛ってあるから本なのだろう。
「こっちの常識をどれだけ知ってるかわかんねぇって言ってたよな、ギルドの情報を集めたやつを用意してみた。写しをくれってんなら17硬貨、自分で写すならタダだが紙を売ってくれってんなら10硬貨、木札なら2硬貨だ。ちなみにこれらはインク代込み、さてどうする?」
「自分で写したい、アイテムボックス枠はあるから木札をくれ」
本とインクと木札の束を適当に机に置き、ギルド職員は最後にとんでもない爆弾をセイジに浴びせかけた。
「そういゃセイジ、アンタ以外の『異界種』がこの町に来てんぜ?」
珍しく最後に引きをもってきてみた。




