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ハードボイルド(笑)に生きよう  作者: 最小
歌う女剣士と同郷の女斧戦士
11/45

その10 招かれざるモノ

セイジさんの貴重な活躍シーン。

 日が高くなり影が濃くなったころ、セイジは1階へと降りた。朝食を取らなかったので腹が減ったのだ。一度寝直したから、調子はすっかり戻ったようだった。今日の献立は蒸し芋と、根菜と熟成ウィトシア兎のスープだ。この地域の畑に植えられているものは根菜が多く、主食は里芋サイズの小柄な芋だ。今日のように蒸して潰し少量の塩を混ぜるのが基本的な食べ方だ。他にはクレープのように潰した後に薄くのばし焼いたものに味の濃くなるまで煮込んだ肉や野菜を包んだもので、酒に非常に合うのでセイジはそちらの方が好みであった。


「セイジさん、頼みたい仕事があるのでギルドに寄っていただけませんか?」


「んぉ……ああ、わかった」


「もう! 飲み込む前に話そうとしないでください」


 水をセイジに渡しつつ、カーラは呆れたように言ったのだった。



「……南か、私が行ったことがあるのはカーラと一緒に行った西のパルヴァル、北のセッテナの2つだ」


「あー1人じゃ行けねぇのか、そりゃやべぇな」


「セイジさん、ラゥガンさん、どうかしたんですか?」


 カーラの依頼とは、南に位置する隣町ムトへの護衛だ。リーウィの町は3つの街道の交差する宿場町だ。なので、隣町と呼べる場所も3つあるのだ。ムトの町は3つの町の中で一番遠いが、岩塩や乳製品などが一度集められ、王都へ運ばれるからか売り物のバリエーションが多い地だ。リーウィと比べたなら大きい町だそうだ。ギルド職員とセイジが難しそうな顔をしているのはある理由があった。


「セイジのやつは狩人連中に聞いてるだろうが、最近……出んだよ」


「出る……ですか?」


「ああ、見たこともねぇ獣がいて、ちょっかいかけると大量に群がってくんだそうだ。カーラ、護衛じゃなくて収集依頼にしとけ。セイジならなんとかなんだろ。街道から外れたりしなけりゃぁ迷いようがねぇ。買うもんだけ教えて待っとけ」


 セイジも頷いている。狩人から獣の詳しい話を聞いているらしい。それほど、危険なのだろう。


「……それでも、私じゃないとダメだと思います。町のどこに買いたいものがあるかとか、相場がどれくらいだとかわからないんじゃないですか?」


「そうなんだよなぁ、セイジ……カーラだけはちゃんとケガさせずに帰せや」


 手を上げるギルド職員に合わせてセイジも同じように手を上げる。妙なところでなじんでいるようだ。




 南の街道は、岩塩を王都へ運ぶ道であるから特に整備されており非常に歩きやすい。見知らぬ獣が現れている所為か先ほどすれ違った商隊も気を張っているのかひどく緊張していた。

 2刻ほどたったとき、セイジたちは件の獣に遭遇した。セイジはカーラを自身の後ろへ寄せる。その獣は真っ黒であった。毛並みや頭部を見るからに狐に近いイヌ科のそれなのだが、足が3対――まるで蜘蛛のように生えていた。数は見えているだけで18体。ヒトのように後ろ足のみで歩くその獣にカーラは怯え、強くセイジの服を握りしめていた。


「カーラ、アレの対処法は知っている。少し手を放してくれないか?」


「セイジさん?」


 恐る恐ると服から手を放すカーラの頭を落ち着かせるようにポンポンと軽くたたくと、セイジは1つの指輪を取り出した。カーラはその指輪に見覚えがあり、確か女性(カオリン)の姿になるもののハズだ。セイジは指輪を左人差し指に通し、姿を変えたのちにカーラを右腕だけで抱きかかえた。セイジとカオリンの身長はほとんど同じなので、カーラくらいの大きさの子供なら軽く担げるのだ。


「あの、セ……セイジさん?」


「アレは壊す(・・)と仲間を呼ぶからな、逃げる。揺れるから舌を噛まないように口を開けないこと。怖いなら目を閉じておけ」


「セイジさん、なんで知って……?」


 女セイジ(カオリン)は左手をカーラの目の前にかざすことで言葉を中断させ、細身の片手剣を出した。じりじりと近づいてくる獣を見据え、カオリンは口を開いた。


「――――、――――――――」


 涼やかな音色にカーラはパチクリと目を瞬かせる。カオリンは歌を歌い始める。それに合わせ、流れるように走り始めた。剣を薙ぐ。突き刺し、崩れ落ちるそれを足場に飛ぶ。歌い続ける――。

 セイジの1キャラ目は地雷職だ。1キャラ目(セイジ)でプレイするときはほとんど敵と戦わず銃の手入れをしていた。そのため、弱い。セイジのキャラの中でも一番弱い。

 2キャラ目(カオリン)は魔法特化の剣士だ。今の彼女が装備してる武器の名は『魔法剣:灰虎』、素早さを上昇させる呪文である『風の下陰:山風』という魔法を詠唱可能にする魔法武器だ。彼女は長い『謎言語』の呪文を覚えられなかった。普通ならばあきらめるだろう、ゲームなのだから。

 何をトチ狂ったか、彼女はどうやったら詠唱を覚えられるのか考えた。そして、1つの方法を見つけたのだ。歌なら、意味の分からない歌詞であっても歌うことが出来る。反復すれば嫌でも覚える、と。

 子供1人担いでいるとは思えないほどの速さで走るカオリンは獣を引き離し逃げ切ることが出来たのだった。

セイジ活躍編の後編へ続く。

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