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縁の荒誕  作者: 鈴風 赤扇
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不運の予感

 初めて作品を書いたので不明な点やミスがあると思いますが、そういうのを見つけた方もしくはアドバイスを与えてくださる方がいらっしゃったらどんどんメッセージを送ってください。評価をできるだけしてもらえたらうれしいです。またこの話はフィクションです。

 ペースが遅くなる恐れがあり、中盤以降魔法や戦闘が多く使用されます。ご了承ください。

 なお投稿は不定期になると思いますのが、ご了承ください。最低三週間以内には更新します。



「ではこの件は、実行に移すことになったのかね。……しかしこれでは危険すぎやしないかい」


「いえ、すでに議会でまとまった話です故変更は認められないとのことです。……実を言うと私も危険だとは思います。しかしもうこの世界を救うすべはこの方法しかないのです」


「ならば、無理に救う必要などあったのかね。わしにはまだいくらかの方法があったと思うのだがね」



「……」


 業火が溢れんばかりの土地だった。あたりには死体が放置され、鼻を曲げる腐臭が漂う。地面は土であるが感触はしなびたレタスの塊をふんでいるようだった。空は健康的な色とはいえず、濁った水があたりを満たし所々で渦を巻いている。

 


 こんな空間にはさも慣れているのだろう。話主達は動揺せず、あくまで話の内容に頭を抱えている。逆巻く炎は火花を散らし、やがて爆発を起こした。



 ……いつからだろう、こんなにも残虐な案が通るようになったのは。昔は曲がりなりにもきちんと筋の通った行動をしていたのに。


 一人ごとを呟く老人の方を向き、もう一人のほうが唸る。どうやら女の人らしい。



 老人の方は白銀の雪が降り積もったような白髪を整え、また同じ様な色彩の十センチあるかないかのひげを触り、いかにも私の意見があたりだ、と言うような態度を示す。この様子に反感を持つように茶色の髪を持つ女性が老人に言い放つ。



 普段ならこのような話合いで二人が言い争うなど、あり得ないことだった。だがこの様な奇妙な状況になってしまえば話は別だ。



「私は世界の危機なら喜んで命でも差し出します。ーーそれを止める人がたとえいたとしても」



 老人は何も答えず、無表情。欽慕な心構えだと思っているのか、いやむしろ呆れていた。これ以上の話し合いは無意味だと感じ、この場を離れる準備を始める。女性の方は引き留める術がないらしくずっとだんまりしている。



 まもなく老人は女性から離れ、驚くことに体に火をまとい、瞬きする間もなく消えた。だがやはり女性はびっくりする様子もなく、消える瞬間を見守っていた。



 そろそろ私も準備しなくちゃ。これからかなりの時間故郷を離れるものね。……私の頑張りでこの世界を救えるかは決まる。気合い入れていかなきゃ。



 意気込みを反駁し、老人が消えた様に炎をまとう。その炎は大海原を彷彿させる蒼さを秘め、中心にいる女性の周りには火の紅葉が散っていた。決意が炎にまで伝わり、空気を振るわせた後に跡形もなく消え去った。

 







 胸躍る五月の朝木曜日、俺は自転車に乗り、颯爽とこぎ出す。今日は季節感満載で動くにはぴったりの天気だった。しかしこの俺にはそうは感じられなかった。そもそも、運動はどちらかというと好きではなく、暇あらばゲームをいそしんでいる。

 だが、引きこもりにもやらなければいけないことがあった。その名も学校。今年から大学生となり、日々リア充として生活……、してるわけもなく学校が終わればやることもなく、リア充とは真反対の「引きこもり」という作業が始まる。

 


煌々と照る太陽を背に坂道を駆け上がる。この坂道は急で長くアナコンダが朝の運動がてら逆立ちをしているかのように思うだろう。所見の人が上るにはきつすぎるかもしれない。

 最近この坂を見ていると、人生とはこのようだなと思うようになっていた。この十数年生きてきてろくなことがない。自分がそう認識しているだけかもしれないが、今日の俺には強く感じられた。しだいに息が切れてくる。なにしろ「引きこもり」で週1でしか運動しないのだから、仕方がない。



 のらりくらりと進み、坂は中腹にさしかかる。右にはマンションが連なり、左には畑で農作業をしているおじさんが、汗水垂らし鍬を振り下ろしている姿が見えた。まさに蓼の虫は蓼で死ぬという諺にぴったりではないか。麦わら帽を被ったおじさんはこの急な坂を必死に上っている。自分はどうだ、昨日は坂を上ることさえやめてしまったではないか。だが、それを許容している自分もいる。辛ければ逃げてもいいのだと。

 


坂も終盤を迎えたところでついに足が悲鳴をあげた。足は鉛になり、ペダルが回せない。というには大げさだが、人生という坂ではすでに足は動いていなかった。いつからであろうか、人を信じられなくなり一人を好むようになったのは。表面では笑っていても心は凍てつき、絶対凍土と言うのに相応しかった。今日は寒くはなく、動きやすさでは今年一なのに熱が逃げて行っていた。その理由を俺ははっきりと分かっていた。絶対に昨日のことだと。

 


 昨日の夕方、ゴウゴウと燃えていて太陽も力を失い宿に戻りかけ、スーパーに引き込まれまいと少し外れた場所にユラユラとたたずんいた。そのスーパーの自転車置き場に俺はいた。

 ギュウギュウ詰めになっている自転車どもを押しのけ、静かに自分の自転車を置く。沈む太陽に掛けるわけではないが、気分が優れなかった。

 俺は自転車置き場の角を曲がり、下り坂を下った。途中にバス停があり、女子生徒が二人なにか話をしている。平日に私服でいるので同じ学校か。長細く先端が膨れた入れ物を持っていたのでテニスサークルかなんかだろう。

近くを通り抜けようとすると話の内容が不覚にも聞こえてしまった。



「今日の先輩チョーかっこよかったよねー。あたしがボールを当ててしまったのに優しく微笑みながら許してくれるなんて。もー、恋に落ちちゃいそおー」

 


そんなことで恋に落ちるなら俺は百万回は恋愛してるね。自虐風に内心で思っていると、同じことを思ったのか隣の女子学生も苦笑しながら言った。



「えー、そんなことで恋に落ちてたらキリないよ。確かに先輩はかっこいいけどともちゃんにはもっとお似合いの人がいるはずだよ。ともちゃん可愛いんだから」



「そんなことないよ、ゆいのほうが可愛いよ」

 


……定番の女子トークをしているほうにわざとらしく嫌な顔をして過ぎ去ろうとする。俺にとっては苦々しい話であった。……いままでに彼女ができたことがない。そのことだけで察することは用意だろう。普段いちゃいちゃカップルを見ると、どうか早く分かれてしまいますように、と願うほどであった。

 


さて、会話をしている女子学生には心当たりがある。苦笑しながら話に応じていてたほうだ。

 


聖律大学一年社会学部の紫苑優衣。同じ高校であり、唯一の女子の友達である。相手はどう思っているかは知らんが。高校時代は学年十位以内には必ず入り込み、授業もきちんと受けていた。さらにテニス部では副部長として素晴らしい成績を残し、後輩からも慕われていた。もちろん童顔美少女で長いそのロングヘアーは多くの男子生徒を魅了していた。まあ、一部の過激なやつらは傾城(けいせい)と賞し、休み時間放課後と隙あらばとアタックしているのよく見かけた。

 優衣は向けられた弓矢は優しくも残酷に(俺にはそう見えた)掴み、ポキポキと折る。折られた弓兵士はやむなく解散し、次の戦に備え見事なまでに逃げ延びる。強者どもが夢の後ってね、かわいそうにざまみろ。ただし優衣には振っている自覚はなく、なぜ自分にこんなに構うのだろうかと考えていた。

 


そもそも俺と優衣の出会いのきっかけはこの人たちなのだ。



とある日の放課後。俺は一応サッカー部に入っていた。今日も方練(放課後練習)に赴こうと重い腰を持ち上げ、重量感のあるドアを開ける。クラスは2-4と階段からは近く更衣室のある体育館までもそう遠くはなかった。鮮やかな日がガラス越しに栄え、麗々しかった。だからなのかもしれない。いきなり階段から降りてきた少女、優衣が一瞬天使が降臨したと勘違いしてもおかしくはなかった。天使はこちらを見て、いや優衣はこちらを見て駆け寄ってきた。かなり焦っている。



「お願い、少しの間かくまって」

 


最初はうっとうしいから無視するつもりだった。しかし心をも見通すかのような澄んだ強い目に、空間は独特の空気を帯び始める。この少女のいうことにさからってはいけないと。



「しゃーないから教室に入れ」

 


少女をいれて数十秒もしただろうか、筋肉隆々のやつやいかにもインテリアスというやつなど総勢七名が気合いとやる気をはらんでやってきた。面倒くさいことにこちらにやってくる。



「ここらへんに美少女がやってこなかったか?」



「いや、そんなやつ見てないけど。っか部活行くからそこどいて」



「ならせめてどっちにいったかだけでも」



「だから見てないっていってるだろ。どっちに行ったとかも知らん」

 


あくまで軽くあしらう。返答を聞いて唸り、下の階に行ったのかもという判断になったのだろうか、下の階に体を向けて美女を追う野獣たちは慌ただしく行った。



「おーい、いっちぃまったぞー。出てきても大丈夫だ」

 


声に反応して美女は緩やかに出てくる。



「じゃあ、もう役目果たしたからな。もう行くわ」

 


時計を見て俺は愕然とした。集合時間からすでに五分が過ぎ、罰走が決定した瞬間だった。だが優衣はお構いなく



「またかくまってね」

 


そう言い、あざといウインクを残して行ってしまった。この時だけは野獣たちの気持ちがわかった。

 それから週三ぐらいでかくまっただろうか、あまりにかくまいすぎてあまり覚えていなかった。この時も優衣は自分がなにか悪いことをしたのかと愚痴をこぼしていたので、恋愛対象として見られているのを夢にも思っていなかった。

 


懐かしい思い出はさておき気づいたのだから一応声をかけた。



「おう、いま帰りか、遅うまでご苦労様です」

 


若干の皮肉を込めて言い放ったが、面を食らった二人は唖然としてこちらを向く。知曉に気づいた優衣は驚きを隠すため頬を膨らませたが、初対面のもう一人の方、たしかともちゃんとかいう友達のほうは思いっきり敵対心をむき出しにしていた。

 おお、すげーこえー。迫力満点だな。険悪な雰囲気になりかけていたところに優衣が割り込む。



「ところで、知曉君(ともあきくん)はここで何しているの。買い物?」



「いや、実はこの中の店でバイトしてんだ。意外だろ」

 


自慢げに言ってみたが、自発的にバイトに応募した訳ではなく、親が社会勉強にと無理矢理やらされていた。そうでなければ引きこもりの俺が自発的に動くはずがないと自覚していた。



「へー、偉いね。私もバイトしようと思っているんだけどなかなか希望通りのお店って見つかんないよね」



 「え、優衣バイトもするつもりなの。うちなんか勉強とサークルで手一杯だわ。っいうかこの引きニートぽいやつがバイトしているなんて、うちチョーショックなんですけど」


 少しおしとやかに見えた優衣とは逆にどぎつく攻撃してくる。当の本人は額に手を軽く打ち、素晴らしく面白いことを言ったつもりらしく、未だに笑いこけている。友達に合わせるため、優衣も一緒に笑っていた。


 ……友だち付き合いもご苦労なもんだな。まあ、友達少ない俺にはあまり分からんことだが。


 さっきまで笑い合っていたお二人はすでに違う話に移行しており、時間も時間なのでさっさととんずらしようともくろむ。


 いや、先刻まではバイトまでは十分な時間であると踏んでいた。だが、腕できらめく時計が語っていたのはもうすでに山登りを終え、下山に向かっている針の物語だ。


 またあのときみたいに遅刻か……。今回は罰走こそないが、給料ダウン確定だな。


 苦々しい笑いを漏らし、負のオーラを放出していたらしい。優衣は状況を素早く察し、早くバイトに向かうよう促した。ともちゃんはというと話に飽き、スマホ画面と格闘している。これだから最近の女子大生は、とか言うおじさんの気持ちも分かる気がした。


「じゃあ、マジでバイト急ぐから。じゃあな」



「うん。じゃあまた今度」


「あと……」

 

 優衣が何を言おうとしたのかが分からなかった。バス停の前には騒音ともとれる音量を出したバスか堂々と到着する。その騒音は疲れたと言わんばかりのため息に聞こえる。ただため息はそこまで長くはなく、なんとか優衣の言葉を聞きとろうとしていたので最後の言葉だけ聞こえた。それはなんとも不気味で、なにを意味しているのかが分からなかった。

 


「ーーには気をつけてね」


 

 のうのうとバスに乗り込む優衣を止めるべく声を掛けようとしたが、振り返り様の優衣の顔はなんというか、言葉に表しづらい。強いて言うなれば、笑ってはいるが悪魔の微笑というほうが適切だった。


 だが謎解きをしている場合ではない。バスは先に急ぐように走りだし、もうすでにいない。時計の針も先を急ぐ。そして俺も走り出す。焦りと不安が後を追いかけてくる様に感じた。


 




 



 

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