この世界の第一歩
ついに『GHD』を本格プレイ開始(開始するとは言ってない)
『GHD』の世界に降り立つ。
周りは草原で遠くに街が見えるのどかな光景。鼻孔には植物特有の青臭さを感じ、弱くも確かに吹いている風が肌を撫で、まるで現実で本物の草原に自分自身が遠出したみたいな感覚を覚える。
何も考えられずに、目線の高さまで手を上げて拳を作る。
確かな握るという感触を指が伝えてきて、それだけに妙に感動した。まるで本当にゲームの世界に入ったみたいだ。これが『GHD』というゲーム。
不平不満を漏らすゲームオタク達が、ジムに通ってでもプレイしようとするクオリティーとはと思っていたが、まさかここまでとは思っても見なかった。本当に技術の桁が違いすぎる。既存のゲームと一線を画するどころか地平線の彼方にあるゲームだ。
「凄まじい」
これがこのゲームで最初に発した台詞であった。なんの捻りも無いがそうとしか言えない。それほどまでに感極まった台詞であり、同時に自分の口から発した台詞が聞こえるという当たり前の事にもまた感動する。
そのまま五分ぐらい立ちっぱなしで感動し、ようやく歩き始めれたが、すぐに落ち着くために草原に腰を下ろした。
やばい、これはヤバイまともに歩けそうに無い。語彙がなさ過ぎて泣きたくなるが、興奮が抑えきれないのだ。
ゲームでただ歩く、土を草を踏むという事がこれほどまでに胸躍るとは想像だにできなかった。腰をおろした尻の感触、手を地面についた事で感じる土や雑草の感触。これほどまで再現された五感の驚異、いやそもそもこの体にちっとも違和感を感じないという事にもはや驚嘆を禁じ得ない。そしてこの体で俺は『GHD』というゲーム世界を遊びつくすのかという期待に心臓が高鳴る。
ん、心臓が高鳴る?
試しに左手を左胸に置き、鼓動を聞き取ろうとする。
トクッ、トクッ
と高鳴る心臓の鼓動も感じ取れる。生命が脈動する証、たとえ仮初の身体とはいえ生きてるという証明。
あぁ、生きてるのか。そう実感できた。自分はいまゲームの世界を生きているのだ。
感慨にふける事さらに数分、ようやく落ち着いてきた。まずは最低限の事を、現状確認からだ。
「現状開示」
そう唱えることによる目の前にウィンドウがひろがり、自身のステータスが展開される。
名前…木原鹿々(きはらしかじか) レベル…1
種族…人間 職業…精霊召喚士 状態…異常なし
所持金…グラノア王国通貨6万エル
能力値
HP…20(4)
MP…37.5(7.5)
筋力値…3
耐久値…3
持久力…9
敏捷値…10
器用値…7
感覚値…6
魔力値…5.5
知力値…4
集中値…1.07
スキル(10/10)
回避LV1、立体起動LV1、危機感値LV1、採取LV1、精霊召喚LV1、精霊召喚持続LV1、精霊自動MP回復LV1、精霊自動HP回復LV1、精霊戦闘術(格闘)LV1、精霊戦闘術(魔法)LV1
装備
初期の服
その他…無し
・・・・・・・
さーて魔術方面に異様に特化されてるね、うん。ちゃうねん。現実ちやうし、色々無かったけど、あってん。うん。膝に矢とかその他モロモロを色々と受けてしまった儂は今だ負けを知らぬ東方フハ・・・
俺は、正気に、戻った。ふぅぅぅ
いやね、何で精霊召喚士かというとね、あれよ、掲示板でみかけたレスに、割り振りを変えれば初期から魔法職に就けるってあったから、ついやってもうたのよ。だから初期のステータスポイント3点を魔力とMP、あとは回避のために敏捷へ。そして職業ボーナスがMPと魔力に0.5づつ入ってこうなった。
大丈夫、これでも色々考えてこの選択をしたから。知力4でも決して考えなしではないから。批判中傷は俺の言い訳を聞いてからにしてほしい。
まず第一に攻撃手段が無いような気もするがそれはもうあれよ。
攻撃はいっそ全部精霊に任せて、俺は回避盾とか撹乱要因に徹すれば問題ないはず。精霊の持続時間が短くて効率が悪いというのも見かけたが、精霊召喚持続で効率性を上げれば何とかなるはず。一緒に精霊自動HPMP回復も取ったからむしろ効率がいいのでは?
第二に採取だが、これはもう完全な金策スキル。初期は金が必要というありがたい金言を頂いたからには実行あるのみ。むしろ採取の延長で攻撃できるのではと思ったり無かったり。だから攻撃スキルが無くても大丈夫。むしろ本体なんて飾りです、偉い人にも現場の人にもわかんないと思うけど大丈夫。
第三の回避系統は、回避、危険感知、立体起動という黄金コンボ。これで持ち前の敏捷と組み合わせればきっちり回避は可能の筈である。姿勢制御系統とか他の要素は気合いで十分挽回可能な範囲だからこれも問題無い。問題無いと言ったら問題無いのだ。
つまりこれら1から3を総合的に考えれば、これが最善解でなくともいい線を行っていると思う訳です。決して特化にロマンを感じます、でも変態ビルドにもっとロマンを感じます。というあれな一時期良く見かけたCMを思い出すみたいな。それだけで突っ走ってしまったとかそんな事はない。
俺はいたって冷静にこの構築を選んだのだ、自分の知性と感性を信じたのだ。
・・・・・
という現実逃避はここまでに、前振りではなく俺は正気に戻った。
やってしまった。
何故だろうか、昔からこういう時に深く考えすぎて結局碌でも無い選択をし続けたってのに、この癖は一向に治る見込みがない。むしろ中学校二年生方面に悪化している気さえする。
どうすんだよこのアバター、公式Q&A通りに新規作成には本体を新しく買い直す必要があるから5万8000円だぞ。買える訳が無い、安月給なめんな。
軽く頭を抱え悶絶すること30秒ほど、自身の不甲斐なさや後悔でようやく落ち着き、最初の『GHD』に関する感動が薄れてまともに歩く事が出来そうだ。
そう、俺はこれをわざと狙って行ったのだ。
決して衝動に身を任せてどうにかなってしまったのでは無く、あくまで計算通りである。と自分に言い訳して、ないわーと心中でツッコミを入れてはるか遠くに微かに見える街に向かって歩きだす。
木原鹿々の『GHD』は第一歩で盛大に躓いたものの今始まったのであった。
こんな事って現実でも割とよくありませんか?
作者は晩御飯をラーメンと焼肉で悩んだ結果、かろりーめOと2箱買った記憶があります。