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購入

誤字脱字の指摘は泣いて喜びます(泣き)

さて今日は待ちに待った6月1日、伝説となるであろう『GHD』の発売日である。朝早く起きてコンビニでちょっとしたおやつと水分を購入。

当日の郵送サービスを利用してもよかったのだが、店頭で買うとプレイ地域別の通貨が初期配布+αが貰えるという特典の為にショップに歩き出す。


「嘘だろ、早起きしたのに」


思わず呻き声をあげてしまうほど、9時開店でまだ7時にも関わらずそこには長蛇の列が存在していた。最後尾が既に見えなくなっており、無論木原は予約しているので買いあぶれるという事は無いが、早速出だしに躓いた感じがする。とはいえここでごねても仕方ない、最後尾まで歩き大人しく待つことに。

最後尾についてすぐ、自分の後ろにも人が並び続け、ものの十分で最後尾が見えなくなっていた。


「兄ちゃんも『GHD』だろ?こんな朝早くから気合い入れて並んでるんだからよ」


自分の前に並んでる男が愛嬌のある笑顔で声をかけてきた。身長は175センチほど、中肉中背だが鍛え抜かれ無駄がなさそうな、年は25から7といった所。つまり自分と同年代である。待つだけではとても暇なので自嘲気味ふざけて答える。


「ええそうですよ。この日をどれだけ待ち望んだことか、なんでこの年になって早朝ランニングに健康に気を使って飯を食ったりとしなきゃならんのかと」

「だろうな。実をいうと俺もな。どういう技術か知らんが初期ステータスがリアル準拠って知ってから、年甲斐もなくはしゃいでしまったぜ。高校野球してたんだが、その時以来のプロテインにお世話になる始末だ」

「それは本格的ですね」

「ああ、だがその価値はあったと思ってるし、あんたも実を言うて全然無駄じゃないと考えてる口だろ。目をみりゃわかんぜ、体調を仕上げて来て、ゲームにログインしたくてしたくて堪らないという目だ」

「あはは、それはまぁ、なんというかお恥ずかしながら」


そう、俺は確かに早朝ランニングをしていたが、高校まで陸上部の長距離をしていたこともあって、ここ半年ほどでランニングというよりは長距離トレーニングと言える内容にまで変化していた。400メートルトラック一周を80秒ベースで、5000メートルを二本なんていうメニューをこなせるまで現役時に近い体に戻している。


「まぁ俺もジムでなまった筋肉を半年かけて戻した口だが、今なら筋力値9はでるんじゃないかと思ってる。オープンβでは筋力値6と不甲斐ない数字だったからな」

「オープンβ体験者でしたか、それはすごい。開店まで時間もありますしいろいろ話して貰っていいですか?」

「おおいいぜ、と言っても不甲斐ないプレイだったんだけどな」


ここでまさかのオープンβ勢との遭遇でテンションの上がる俺、開店までどうやら暇になる事はなさそうだ。来る途中でコンビニで買っておいたドーナツを捧げ、ありがたい体験談を拝聴する。


「まず店頭に並んでいるこの現状だが、大正解だ。初期はとにかく金が足りねぇ。このゲームがリアルの開始位置でゲームスタート位置も変わり、エリアごとに文明がだいぶ違うってのは知ってるよな」

「はい、ネットで不公平だなんたらと騒がれているのは見ています」

「おうそれだ、日本スタート者はグラノア王国圏内でスタートすることになるが、グラノア圏は治安が良い。ゲームだからと言って盗賊行為や民家に入って衣服や金を取るなんて絶対にしちゃいけねーし、初期は検問や身分証作成なりでとにかく金がかかる」

「あーそれもネットで読みました。何でもホントにぽっと出の旅人みたいな胡散臭い扱いされるとか」

「それだ。それでまぁオープンβのおれは大失敗したんだが、それは聞かないでくれ。でだ、いざ身分証を作成したとなると次はやっぱり冒険だろ?だが大概の奴がまず冒険に出る前に躓く」

「え、冒険に出る前にですか?」

「おうそうだ。冒険に出れないんだよ。なにせ初期装備はカネと服だけだ。さすがに丸腰で冒険なんて無理だからな。レベルが高くなりゃどうだが知らないが、初期の低いうちは最低でもナイフは必要だ。つまりカネが要る」

「成程、店頭に並んでいるのが大正解というのがよく分かりました。初期はホントにシビアなシステムですね」

「あぁ、だがそれでもちょっとでも軌道に乗り始めると途端に楽しくて仕方が無くなる。採取、クエスト、魔物との戦い、装備の新調、仲間といがみ合い仲直りし、時には別れ、そして深めた連携でより強い魔物を倒して素材を取る。とった素材を生産職に渡して新たな武器に」

「おおーーそれはすごい」

「だろ、だがオープンβの俺はそれに凄まじい後悔があった。何だと思う?」

「えっと、すみません分かりません」

「初期ステータスの低さだよ。このゲームはレベルアップ時にまず職業ボーナス分が自動で上がり、レベルアップ分が3ポイント渡されてそれを使いステータスを上げる。だが一回のレベルアップで一つの項目に3ポイント全部使う事は出来ない、一回のレベルアップで一つの項目で上げれるのは1だけ。それを三カ所というシステムだ」

「えっと、つまり?」

「オープンβ時の俺は初期筋力値で6だった。だが今は9じゃないかと感じている、そしてこの差は単純に考えるとレベルアップ一回の3ポイントで埋まるように感じるがさっきの説明通りそうではない。実質レベル3の差が出ているのだなこれが。筋力値は装備可能な武器の制限に関わる、これがレベルで3も差が付くとなると、後はわかるな?」

「はー成程、初期ステータスの現実準拠に凄まじい不満が噴出し、オタニート達が必死にジムや道場に通っていた理由がよく分かりました」

「おう、そういうこった。まぁこの点はあんたは」


そいって一旦周りを見回して、自分のつられて周りを見回す。周囲にはオープンβ勢のありがたい話を拝聴している人だかりが出来ているが、ちょっと顔を青ざめている人もいるぞ。大丈夫かそこのぽっちゃり君。


「あんたは大丈夫そうだな。筋力値や頑強なんかは残念極まりなさそうだが、見たところ敏捷や持久力が軽く8はありそうだ。良い斥候か軽戦士になるだろうよ。と、そろそろ購入できそうだな」


そう言われて時計を見る。時間は9時を過ぎており、列も緩やかに進んでいるようだ。


「大変ためになる体験談ありがとうございました。やっぱ経験者に語ってもらうと理解の度合いが違いますね」

「俺のしがない体験談がドーナツに早変わりってな、こっちもうまかったぜごっそさん」

「あははは、俺は木原鹿々って言います。もしゲーム内で会いましたら、その時はよろしくお願いします」

「おう、俺は円城卓也えんじょうたくやだ。そん時はよろしくな」


そうしてショップで『GHD』を購入し、意気揚々と帰路につくのであった。


こんなVRMMOあったら嫌だよ(小声)

ゲーム位、非現実的な事を夢想させてよ・・・・・・

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