第2話
「おい」
昼休み、デスクに突っ伏して目を瞑る僕。
片付けるのは嫌いじゃないけど、面倒に思うととことんやらない主義だったりする。
机の上はグチャグチャだ。
ペンのキャップがこめかみに当たって痛い。
「おい」
……彼女の夢を見ないなんて、僕はどうかしてる。
「おい!」
誰かに頭を叩かれた。
「さっきから呼んでんだろうが!」
……同僚の高橋だ。
「回覧だよ」
そう言って彼は僕に回覧を渡した。
『新入社員歓迎会』と書かれた回覧。
今年は不況から脱した為か、3人の新入社員を雇うらしい。
一人は中途採用の男性、もう一人は大学院卒の男性、最後の一人は大卒の女性らしい。
僕は迷わず自分の名前の横にある四角い枠にバッテンを書いた。
高橋が溜め息をついた。
「お前な~」
高橋は僕の手から回覧を奪い取ると、バッテンの上から汚らしくグルグルと赤のボールペンで円を書いた。
「新入社員歓迎会だぞ?先輩のお前が出なくてどうする?」
……出ないからなんだって言うんだ。
「別に出なくたって構わないだろ」
僕は回覧を高橋から奪い返し、枠の外に大きくバッテンを書き、『出席しません』と書き添えた。
「歓迎してる気分じゃないんだよ」
……そうだ。歓迎してる気分じゃない。
「勝手にしろよバカ」
高橋は回覧を引ったくり、チーフへ渡しに行ったらしい。
……溜め息しか出ない。
なんで今になって、彼女の夢を見なくなったのだろう。
まさか、彼女を忘れ始めているなんてことないよな。
そんなの……嫌だ。
その日は1日、仕事なんて手に着かなかった。あの夢のことについて考えては、彼女を思い出し、忘れたくないと必死に彼女の全てを自分に焼き付ける……そうしなければ、本当に忘れてしまいそうで怖かった。
溜め息が零れる度に『彼女』を失っていく気がして怖かったのだ