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婚約者2

 ああ、この人じゃないわ。この人は“彼”じゃない、“彼”はこんな純粋ではなかった。芯が一本通っていて素直で、無表情なのに笑うと格好良くて……人を照れさせるようなことを直球で言ってしまう天然タラシな人だった。

 基準のわからない照れを時折見せるだけの……余裕のある人だったから。

 と、私は考えていると、

「ダメだな、脈なしだよ。……諦めろ、お兄様。想われない結婚は辛すぎるし、一方的な愛は空回りするだけだけ」

 と、ませたような言い方をする金髪の男の子の弟は、ふわふわとしてマイペースなルーンを膝に乗せ、いつの間にかソファーへと座っていた。

 ルーンは持ち前のマイペースを発揮せず、大人しく借りてきた猫のように弟くんの膝の上で乗っかっていた。

 波長が合うのかしら?


「コラ!また、お母様の棚にある恋愛小説を持っていって読んだんだな、駄目じゃないか……ユヅキ!まだお前は二歳だと言うのに……ませてもう!」

 と、まるでお兄様と言うよりもお母様って感じがする喋り方をする。

 私はそんな彼の言葉に思わずクスクスと声に出して笑ってしまう。

 そんな私に対して、ユヅキと呼ばれた弟くんは目を一瞬細めたような気がした。そんな表情に少しだけドキリと胸が高鳴る、まさか彼な訳がない……と言い聞かせながらも誤魔化すかのように微笑む。笑い方が少しだけ似ていただけよ、と考えながら。

 そんな私の心情を知ってか知らずか、ユヅキくんはこう言った。

「俺はユヅキ リン クゼアート、そこのヘタレのユン リン クゼアートの弟です。兄と婚約するかはともかく、ルーンくんと今後とも仲良くしていく予定なのでよろしくお願いします、シイナさん」

 と、ニヤリと意地悪そうな笑みを浮かべながらそう言った。そんなユヅキくんの言葉にドキドキしなくなった。“彼”はこんな意地悪なことは言わない、だからこの人も“彼”じゃない。

 でも、もし私に前世の記憶がなかったら……“私”は多分婚約候補であるユンさんではなくて、弟のユヅキくんの方と結婚していたのだと思う。

 きっとさっきの高鳴りは私の高鳴りではなかった、本当の“シイナ”が歩むべきだった人生(シナリオ)だったのかもしれない。無理矢理私が介入したから、その人生(シナリオ)の名残が残ってしまっていたのかもしれないわね。


「お兄様、さっき言った通り諦めろよ。この人はお兄様をけして愛してくれないぞ、初恋とは実ることがないって良く言うだろ? お兄様はそのパターンだよ、シイナさんが好きならシイナさんを困らせるようなことをするなよ。……だってこの人の目はもう一人を愛し続けると決意を決めた女性の目だ」

 と、二歳だとは思えないその言葉に私は……一つの考えが浮かんだけど、今は話すべきではなさそうね。言葉は悪いけど、この子は所謂鬼才。ユヅキくんは将来王になることはなさそうだけど誰かの上に立ち、その鬼才振りを発揮することになりそう。そうなるためならその才能に頼り切らず努力を続けることが大切ね。

 今からユヅキくんの将来が楽しみだわ、だから私は少しだけお節介をすることにしたの。……余計なお世話かもしれないけどね。


「そうね、ユヅキくんの言う通り私はユンさんを愛すことは出来ない。貴方がいい人なのは見ただけでわかるわ、でも私はあの人じゃないと愛せないの……、だからごめんなさい。

あの人を愛し続けて死ねるなら……、私はそれだけで本望なの。“彼”じゃなければダメなの……」

 と、私はそう言った後、しばらくは言葉を詰まらせている振りをした。

 何故、言葉を詰まらせている振りをしたかって? 私の言葉にユヅキくんが明らかに動揺しているからよ、彼は“彼”じゃない。それははっきりと言い切れるわ。

 じゃあ、何故こんなにも動揺しているの? ……それは私の言葉に当てはまることを言っていた相手を、もしくは似たような話をしていた人物の心当たりを知っているから動揺をしている、それしか私には答えは見つからない。

 私はそう考えながら、ユヅキくんになるべく優しい声でこう言った。

 お節介をするのはここからよ、と内心そう考えながら。


「私は強く思えば、あの人にもう一度会えるって信じているわ。時に想いは奇跡を呼ぶってそう強く信じてる。

だからね、ユヅキくん。貴方は凄い洞察力と観察力を備わっているわ、確かに凄い鬼才の持ち主よ。だけどその力に自惚れず、努力をすることを止めないで欲しい。

そしたら貴方はたくさんの“強み”を手に入れることが出来るわ、いつでも謙虚で努力家で誰かを思いやれる大人になって。そしたら、貴方にはたくさんの味方が出来るはずよ、まずは私とルーンが貴方の味方でいるから」

 と、私はそう言った後、「ね?」とユヅキくんの膝の上に乗るルーンに問いかけると、ぱぁとまるで花が咲いたような笑みを浮かべて力強く何度も何度も、頷く。

 そんな私の言葉に、ルーンの行動に照れくさそうに笑うユヅキくん。

 私はそんなユヅキくんに、

「貴方が王にならないと決めていることは、とある筋の情報から聞いているわ。したいことをけして諦めないで、その立場を手に入れるまで……」

 と、私はそう言った。

 言ってなかったわね、クゼアートはこの国の王族なの。私も王族から婚約話が来たのはとても驚いたわ、でもお父様との約束だもの……。

 私は愛している人と結婚すると約束したもの、王族だろうが“彼”じゃなければ断るわ。……約束した歳までは。



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