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喜怒哀楽恐  作者: Leaf
3/6

第三話 ~絶望と希望~

やっと本編。

読んでいただければ幸いです。


もうすぐテスト。

勉強は好きな方だが、テストは正直嫌い、というより面倒くさい。


「カズ君、これはどうやって解くの?」


「ああ、それはだな」


テスト三週間前から互いの家に行きあって勉強している。

気づけばテスト一週間前。時の流れというものは本当に早いものだ。


「なるほど」


「こういう幾何の問題と見せかけて実は関数の問題とかいうのはあの教師好きだから覚えておいた方が良い」


「すごい嫌いなんだよねこういう問題。しかも幾何の問題やってる途中とかに出てくるから尚更」


「そこは慣れだな。類似問題とか考えてやろうか?」


「うん、出来ればお願い」


「気づけば簡単な問題だから、注意していればちゃんと解ける」


「それが出来たら苦労しないよ・・・・」


「確かにな」


その後も物理や化学もやった。


「カズ君、今日はありがとう」


「それはこっちもだ。ありがとう、響。家まで送って行くよ」


「あら? もう帰るの?」


「はい、もうすぐ晩ご飯なので」


「家で食べていったら? お腹空いてるでしょう?」


「ちょっと訊いてみます」


しばらくすると響がリビングに来た。


「良いそうです。母が菜々子さんによろしくお願いしますと言ってました」


「じゃあ、すぐにご飯にしましょう。皆手伝って。・・・・あなたー」


すると、父さんが二階から降りてきた。


「おっ? 久しぶりに食べてくのかい?」


「はい。せっかくだから、と」


「そうか。いっぱい食べていって良いからね」


「ありがとうございます」


「ほら、運んで、運んで」


菜々子さんに言われ、全員で食べ物を運ぶ。

いただきますの声の後に、全員でご飯を食べる。

ご飯というのは人数が多い方が美味しく食べられる。

いつもよりも美味しく感じるご飯。

あっという間に食べ終わってしまった。


ごちそうさまのしばらくした後、俺と響は玄関に向かった。


「響を送ってくるよ」


「はい、暗いから気をつけてね」


「ご飯おいしかったです。ありがとうございました」


「またいつでも来てね」


「はい。おじゃましました」


響はぺこりと一礼し、俺は玄関のドアを開けた。

玄関を出た後、響が俺の手を握り体を寄せてきた。

何とも表現しがたい幸せな時間。

俺はそれを満喫しながら響を送った。



-テスト最終日-


俺は今日もいつも通り何も変わらない。

ただ、テストが終わる。そんな面倒なこと解放される日。

いつも通り俺は一緒に登校するために響を迎えに行った。


「おはよう、一希」


「おはよう、響」


響は学校にいるときや行くときは俺の名前をそのまま呼ぶ。

理由は恥ずかしいからだそうだ。俺は別に気にしないと言っているが、本人は気にするらしい。


「行こっか」


そう言って響は手を繋いでくる。

俺は、こちらの方が恥ずかしいのではないかと思うのだが・・・・。

やっぱり、女子の考えてることはよく分からない。

きっと俺らのような男子とは考え方のベクトルが違うのだろう。

そんなことを思いながら学校へ向かった。

流石に学校の近くになると手を離すが、歩く距離が近い。

肩と肩がくっつきそうなぐらい近い。

例え手を離してもこれだけ歩く距離が近ければ正直なところあまり変わらないと思う。


「ねえ、前に言ったこと覚えてる?」


「勿論」


「じゃあ、終わってご飯食べ終わったら行こっか」


「そうだな」


教室に着くと、半分くらいの生徒が勉強していた。

俺も自分の席に着いて公式などの再確認をする。

最終日の今日は歴史と数学。どちらも好きで得意な教科だ。


テストが終わり、全員からため息や終わったの声が聞こえる。

その後には、一番最後の問題解けたか? とか、答えどうなった? の声が聞こえてくる。

そして、これから遊ぼうぜなどの声も聞こえてくる。

こういう会話が聞き取れると、やっと終わったんだなと思いこちらも気が抜ける。


「かーずーき!」


「おわっ!? 響!」


いきなり両肩を掴まれ、少し驚いてしまった。


「帰ろっか」


「おーおー、アツいね。羨ましいね、妬ましいね」


「なんだよ直樹? 今から帰るところなんだが?」


「ほう? 手を繋いでイチャイチャしながら帰った後、ご飯食べ終わりかーらーのデートか」


「いや、イチャイチャはしねえよ」


「それ以外は肯定。そう受け取れますな。末永くお幸せに。俺も帰ったらデートだな」


「えっ!? 誰と?!」


「PCの中の彼女と」


「・・・・なんか、すまん」


「謝るな。全国に居る大多数の非リア充が嘆く」


「お前も、現実に目を向けろよ?」


「一希、そろそろ帰ろ?」


「ああ、またな。直樹」



「響、今日は行ったら何食べるつもりなんだ?」


「まだ決めてない。それよりも、食べ終わった後どうする?」


「そうだな・・・・行き当たりばったりで良いんじゃないか?」


「そうだね」


俺たちはそんな会話をしながら一緒に帰った。

響を送り、俺も家に帰った。

昼ご飯を食べた後、いつも通り響を迎えに行く。


「ごめん、待った?」


「いや、全然。俺も今来たところだから」


「そうなんだ、なら良かった。じゃあ、行こっか」


手を繋いで俺達は歩き出した。

普段の通行量がそこそこな大通りにでた。この先がこの前に行ったケーキ屋だ。

歩道の信号が青に変わる。

左右を確認しようとした時、


―――悲劇は起こってしまった。


軽自動車が俺達に突っ込んでくる。

瞬間、体に強烈な衝撃を受ける。

体が宙に浮き無意識に繋いでいた右手を離していた。


ああ、これが走馬灯ってやつか。


体がアスファルトに打ちつけられ、気を失った。



           *



「ここは、どこだ?」


目が覚めると無機質な白い天井が見えた。


「カズ君っ!」


次の瞬間、菜々子さんが思いっきり抱きついてきた。


「か、母さん・・・・苦しい」


「ご、ごめんね。・・・・ここは病院よ」


「病院・・・・。響、響は!? 響は無事なんですか?!」


「ええ。大事には至らなかったみたい。けど、今もまだ眠っているそうよ」


「そうですか。・・・・それなら、よかった」


「菜々子、お医者さんを連れてきたよ」


「良かった、目覚めたみたいだね。君は5日間ほど寝たきりだったんだ」


「そうですか。・・・・椎名響はどうなんですか? 体に異常とかは?」


「ん? あ、ああ。遠山君と一緒に運ばれたあの女の子のことかい?」


「はい」


「大丈夫だよ。今のところは、ね」


「今のところは?」


「ああ。まだ断言はできない」


「分かりました。ありがとうございます」


「何かあったらできるだけ伝えるよ」


「感謝します」


その後は何もする気が起きず、ただただぼうっとしていただけだった。

果たして響は本当に何も無いのだろうか、そればかりが気になっていた。

夜になっても中々眠れず、月と星を眺めていた。



-次の日-


結局殆ど眠れなかった。

朝から菜々子さんが来て少し怒られた。やっぱり分かるものなのだろうか?

昼くらいになると医者が来た。

何とも言えない複雑な表情をしていたので、俺は不安で仕方がなかった。


「遠山君、君に良いお知らせと、とてつもなく悪い知らせがある」


俺は大きく深呼吸してから言った。


「覚悟はできています。どちらも言って下さい」


「まずは、良いお知らせから。椎名響さんが目覚めた」


俺は黙ったまま頷く。


「そして、椎名響さんは・・・・記憶喪失と短期記憶障害になっていた」


俺は驚きを隠せなかったが、すぐに疑問を投げつけた。


「短期記憶障害ってなんですか?」


「まあ、順を追って説明するよ。記憶喪失っていうのは聞いたことあるし分かるよね?」


「はい」


「椎名響さんは記憶のほぼ全てを失っているんだ。いや、実質全てと言って良い」


俺は思わず息を呑んだ。

そして次に発せられる医者からの言葉が信じられなかった。


「次に短期記憶障害について説明するよ。まず、脳には短期記憶と長期記憶というものが存在する。新しい記憶というのは常に短期記憶に入って、そして永久に保存できる長期記憶に送られる。短期記憶っていうのは一般的に一時間程度しか記憶を保存できないし、新しい記憶が来る度に書きかえられるんだ。・・・・そして、短期記憶障害は短期記憶から長期記憶に記憶が送れなくなることを言う」


「えっ、一体、どう、いう、こと、で、すか?」


「短期記憶障害は保っていられる時間に個人差があるが、椎名響さんは『一時間しか記憶を保持できない』」


「はっ? えっ?」


「そして、短期記憶障害が治ったという事例は皆無に等しい」


次の瞬間俺は無意識のうちに発狂していた。

息ができない。

何も考えられない。

信じられない、信じたくない、信じられるわけがない。


「ひび、き・・・・」


誰かが必死で叫んでいるが聞こえない。

俺は鎮静剤を打たれ、強烈な眠気に襲われそのまま眠ってしまった。



-次の日-


俺は結局あれから日付が変わるまで寝たままだったようだ。

外が明るかったので全く分からなかった。


「夢じゃない、よな」


正直、現実だと思いたくない。

これほど夢であって欲しいと思ったことは一度もない。


「・・・・カズ君」


起きたとき、菜々子さんが側にいてくれたので平常心でいられた。

いなかったらどうなっていただろう。自分でもわからない。


「母さん、俺、後どれぐらいで退院できるの?」


「えっ? えーとね、リハビリ含めて三カ月ぐらいって言ってたわ」


「駄目だな。三カ月は長すぎる。・・・・もう動けるな」


「ちょっと! カズ君どこ行くの!?」


俺が立ち上がろうとすると菜々子さんが止めに入る。


「リハビリ。今は時間が欲しい」


「時間ならいっぱいあるじゃない」


「駄目だ。駄目なんだ。今動かないと駄目なんだ」


「どうしてそんなに急ぐの? ゆっくりでいいじゃない」


「響の記憶を取り戻したいからに決まってる」


俺は菜々子さんの静止を振り切り、ふらつきながらドアを開けた。


「・・・・はあ、はあ。クソ、思った通りに動いてはくれない、な」


何度も息を切らすが俺はただただ、病院内を歩き続けた。


「遠山君!? 何してるの?! まだ動ける体じゃないでしょ!?」


すると、突然看護士さんに止められる。


「自分の体は一番自分が知っています。お気になさらず」


「そういう問題じゃないでしょ! ちょっと先生呼んでくるから、そこで待っててね」


俺はそんな言葉も聞き入れず、歩き出した。


一体どれぐらい歩いただろう? 一時間? 二時間? 全くわからない。

俺は自分の病室にもどり、菜々子さんが心配する中ベッドに寝転がった。

日が沈みかけている。

疲れた。筋肉のあちこちが悲鳴をあげている。

今日はもう寝よう。



-次の日-


医者にこっぴどく怒られた。

俺は医者の言葉を耳にせず、全て無視した。

当然医者の注意など聞くわけがない。


「全く、分かっているのか」


「はい」


俺は、分かったとは言っていない。ただ、『はい』と言っただけだ。

俺は次の日もその次の日も歩き続けた。

そして二週間ほどたってようやく歩いてもそれ程疲れなくなった。

更に一週間ほど経って階段の上り下りができるようになった。

病室はエレベーターばかりなので、階段を探すのも一苦労だった。

それから半月ぐらいして、普通に動けるようになった。

軽くであれば走れるし、激しい動きをしなければほぼ一日動ける。

俺は覚悟を持って響の病室に行くことにした。

リハビリの時何度も通りかかったが決して中には入らなかった。

なぜなら、心配させたくなかったからだ。

ドアの前に立ち、三回ノックする。

すると、中から響のお母さんの声が聞こえた。


「はい」


「一希です。遠山一希です」


「・・・・どうぞ。ゆっくり入ってきて」


「失礼します」


響は上半身だけ起こしていて、ただこちらを見つめてきた。

響のお母さんだけでなくお父さんもいて、二人とも憔悴していた。


「なんでだろう? 不思議だね。私は貴方のこと知らない筈なのにどこかすごく安心する」


響の両親は驚きを隠せない顔だった。

それは俺も同じだった。


「私の名前は響って言うの。貴方の名前を教えてくれない?」


「一希。遠山一希」


「・・・・なんだろう。すごく心が暖かい。『カズ君』って呼んでもいいかな?」


「あ、ああ。良いよ」


「やっぱり、嫌かな?」


「そんなことない。すごい嬉しい」


「そう? それならよかった」


そう言って響が微笑んだ。


「この気持ち、なんだろう? すごく不思議。カズ君、もっとこっちにきて」


「あ、ああ」


正直、驚きを隠せない。

記憶がない筈なのになぜか覚えている。それは脳ではなく、感覚的に。

俺はこの瞬間、もしかしたら、という希望が見えた。


「なんだろう、こうして触っていると・・・・なんて言うんだろう」


響が俺の頬を手で撫でながらそう呟く。


「カズ君もうちょっと、顔を近づけて」


言われるがまま顔を近づけると、両手が両頬に当てられたかと思うと、唇を塞がれた。

人生二回目のキスは意外な状況で起こった。

俺も理解できなかった。


「あっ! あれ? 私、何してるんだろ?!」


そして、響も理解できていない。

やっぱりそうか、と俺はこの瞬間確信した。


「すみません。響が混乱しているようなので少し落ち着かせる時間をあげるために一旦部屋を出ましょう」


「そ、そうね」


「あ、ああ。響、しばらくしたらまた戻るからね」


響の両親がそういった後、俺たちは部屋から出た。


「先程確信しました。響は、響の心は、きちんと覚えています」


俺は思ったことをそのまま言った。


「正直私たちも焦っているわ」


「それは自分も同じです」


「一希君」


「はい、なんでしょう」


「もしかしたら、戻せるんじゃあないのか? 一希君なら」


「いえ、自分だけでは不可能でしょう」


「どうしてだ?」


「ご両親の協力が必要不可欠だからです。お願いします! 響の記憶を取り戻させて下さい!」


俺は誠心誠意頭を下げて言った。


「勿論、僕たちも協力する。けど、一希君のご両親が何と言うか・・・・」


「いいですよ」


「母さん!」


「いいですよね? あなた?」


「そうだな。一希が頭を下げてまでしたんだ。それに決めたことなんだろう? やらせてあげよう。簡単なことじゃあないのは一希自身が一番分かっているだろうし」


「そうね。一希、一希は一人じゃない。辛くなったら私たちを頼りなさい。どうしようもなくなったら私たちを頼りなさい」


「母さん、父さん・・・・ありがとう」


「遠山一希君、本当に大丈夫かい? 私たち医者には君の行いを止めるすべを持っていないしそんな権利もない。治る確率は」


「50%」


「えっ?」


「治るか治らないかの50%・・・・確率論に零は無いですから」


「そうか。君は我々医者の考えの斜め上を行くな。そうだな。もしかしたら、あり得るかもしれないな。科学でも物理でも数学でも天文学でも、どんなものでも証明できない力・・・・『愛』でな」


「クサいですね。けど嫌いじゃ無いですよ。そういうの」


俺はドアノブを握り、扉を開けた。



「あなた達は、誰?」



全身が凍りつくようなそんな感覚。

俺に待っているのは、絶望なのか希望なのか・・・・。

一寸先どころか自分も見えない闇。


今さっき決めたばかりなのにすでに心を折られた気分だった。





誤字脱字は気をつけていますがもしかしたらあるかもしれません。

もしあれば、教えていただければ幸いです。

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