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喜怒哀楽恐  作者: Leaf
2/6

第二話 ~星に願いを~

週一なんて無理です。

二、三週に一話目標。


俺は気づけば校門の前まで走っていた。

息が苦しい。

走って苦しいのか、他の理由で苦しいのか。俺には判断できなかった。

言葉に出来ない思いや感情がこみ上げてくる。

校門の壁に背中をくっつけ、空を仰ぎ見る。

思わず大きな溜め息が出てしまった。

・・・・このまま、響を待つかそれとも帰るか。

俺は散々迷ったあげく、待つことにした。


「一希! 教室にいなかったからてっきり帰ったと思ったんだけど、待っててくれたんだ。ありがとう」


「この間、待っててくれただろ? それに、俺は待つのは嫌いじゃない」


なんだか素っ気ない態度を取ってしまった様な気がする。

先程の響の言葉が気になって仕方がない。


「? カズ君、何かあったの」


幼なじみだから、相手の表情とか仕草で色々と分かってしまう。

付き合いが長いから、相手の異変に気が付きやすい。


「来週から授業が始まると憂鬱だなと思っていたんだ」


見苦しい。自分で言っていてそう思った。


「カズ君、私を騙すの下手だよね。顔に出てるよ?」


「・・・・すまん、ちょっとな。気持ちの整理が付いたら話すよ」


「何でも言ってよ? 口を開けなければ、思っているだけでは、伝わらない。そう言ってくれたのはカズ君だよ」


「そうだな」


俺は昨日と同じく響を送ってから家に帰った。


「ただいま」


若干の気だるさと共に放ってしまった。


「おかえり、カズ君。今日、何かあったでしょう」


俺の顔とさっきの言葉から判断したのだろう。

菜々子さん、母親には適わないとつくづく思う。

けれど、それはもの凄く安心できてもの凄く嬉しい。俺もこういう親になりたい。

別のことを言っても無駄だと分かっているので単刀直入に話した。


「カズ君、それは『恋』ね」


「『恋』ですかね?」


「カズ君はその人のことが好きなのよ。きっと」


俺は一応名前を伏せて喋ったが、菜々子さんは何だか分かってるような気がする。


「その人の良いところ、言ってみて」


「あいつは、嘘をつかないし、純粋で優しくて明るくて、思いやりがあって・・・・」


「カズ君、告白した方がいいわ。いいえ、しなさい」


「えっ!?」


「本当は私が言うような事じゃ無いんだけれど・・・・。カズ君はそういうのに鈍感だから」


正にその通りで、俺は恋とか恋愛とかそういうのに疎かったりする。


「けど、カズ君は決めたら諦めないし揺るがない。最終的に決めるのは、自分自身。来週の土曜日に流星群がやってくる、とだけ言っておくわね」


俺は取りあえず鞄を自室に持って行き、ジャージに着替えて手洗いうがいをした。

昼ご飯を食べた後はなんとなくぼうっとしていた。

今まで響のことが好きだとかそういうことは考えたことも無かった。

けど・・・・。


「響は今何してるんだろうか・・・・」


俺はそのあとも色々と自問自答したが、答えは出なかった。



-次の日の朝-


「あんまり眠れなかったな」


色々考えすぎて殆ど眠れなかった。思わず欠伸が出る。

家を出発しようとすると、玄関前に響がいた。


「おはよう、カズ君」


「お、おはよう、響」


響を見ていると、胸が引き締められるような、そんな感覚になる。

呼吸が上手く出来ない、そんな感覚に陥るほど苦しい。


「カズ君、大丈夫? ぼーっとして」


「あ、ああ。すまないな。行こう」


響は昨日のことは話題にしてこなかった。

俺が、整理するまで待ってくれと言ったからだろう。

けれど、俺はそれがもの凄くありがたかった。

学校に着いて、席に座ると直樹が喋りかけてきた。


「お前、何かあっただろ? 恋をしている悩める男子の目だ」


「・・・・よく分かるな、そんなこと」


「おっと、ドンピシャか?」


「何も言わん」


「そうか。これは独り言だ。・・・・当たって砕けろ。砕けたら意味ねえが、後悔するよりはいいだろ?」


「少し、気が楽になったよ・・・・」


平常通り授業が終わり、部活に向かおうと思ったが気が気でない。

今日は休もう。そう思って帰ろうと思ったのだが、やはり気になる。


「・・・・どうしたもんか」


すると、背後から響に声をかけられた。


「カズ君、一緒に帰らない?」


「!? い、良いけどさ、部活はどうするんだ?」


「休みますって言ったから大丈夫」


「響・・・・」


「なに? カズ君」


「帰るか」


響がコクンと頷いたので、俺は歩を進めた。

色々と考える部分はあるが・・・・。


「響、来週の土曜日空てるか?」


「大丈夫だけど、どうして?」


「それはまだ言えない。けど、土曜は空けといてくれ」


「分かった」



時の流れと言うのは早いもので、気づけば約束の土曜日だ。

朝から行き、響の部屋で勉強することにした。

響のお母さんに


「夜に響と流星群見に行ってもいいですか?」


と小声で訊いたところ、


「全く問題ないわ。響をよろしくね、一希君」


と言われた。

ありがとうございます、響には言わないで下さいと言ったら、分かったわと言ってくれた。

昼ご飯をご馳走になり(何故か赤飯だった)、勉強が終わった後夕方まで二人でゲームした。


「おじゃましました」


そう言って、一旦家に帰った。

ただいまを言った後、手洗いうがい風呂洗い。洗濯物も畳んで、天気予報とニュースの確認。

晩ご飯を食べ終わり(こちらも何故か赤飯だった)、着替えて準備をする。

上着などは少し余分に持って行く。


「そろそろ、時間か。・・・・よし! 行くか」


階段を降りて玄関に向かうと菜々子さんがいた。


「気を付けて行ってらっしゃい」


「行って来ます」


そう言って玄関を出た後、俺は小走り気味で響の家に向かった。

響の家に着き、深呼吸してチャイムを鳴らす。


「はーい」


すると中から響の声が聞こえた。

扉が開けられ、響が姿を見せる。


「あれ、カズ君どうしたの? 何か忘れもの?」


「いや、違う。・・・・響、少し話したいことがあるんだ。少し肌寒いが、外で歩きながら話さないか? 星でも見ながら、さ」


「う、うん。ちょっとお母さんに聞いてくるから、上がって少し待ってて」


そう言って、しばらくすると響が来た。


「良いって言ってくれた。着替えてくるからもう少しだけ待ってて」


「良いよ。ゆっくりして」


俺がそういうと、響は首を横に振り、


「すぐに着替えてくる」


と言って響は足早に階段を上がって行った。


「おまたせ」


五分ぐらいして響が来た。


「似合ってるな。かわいいよ」


素直にそう思ったので思うがまま伝えると少し俯き、


「ありがとう」


と言った。

すると、響のお母さんが玄関に来た。


「行ってらっしゃい」


「行って来ます」


「終わったら、すぐ戻りますので」


俺がそう言うと響のお母さんは、ただ首を横に振った。

俺は軽く頭を下げて響の家を出た。



「星、綺麗だね」


「そうだな。・・・・少し歩こう」


神社が近くにあり、人けが無い場所に来た。


「カズ君、話ってなに?」


「実は、今日流星群が見られるんだ」


「本当!?」


「ああ。もうそろそろだと思うけど」


すると、夜空に一筋の流れる星が見えた。

それが合図だったかのように、次々と星が流れる。


流星群が終わり、互いに顔を見合わせる。


「響、何か願い事したか?」


「うん。カズ君も何かしたの?」


「ああ。・・・・実はさ、この前響が告白されたのを聞いてさ。ずっと謝ろうって思ってたんだ。・・・・ごめん」


頭を下げて響に謝った。響は何も言わず、ただただ俺を見る。


「なんとなく分かってた。謝ってくれて嬉しいよ。だから、顔を上げてカズ君」


「響・・・・」


「カズ君が何を願ったか教えて。罪滅ぼしだと思って」


「・・・・『響が一生幸せでありますように』って願ったんだ・・・・」


心臓が高鳴る。息を吸い、自らの想いを伝える。


「響、好きだ。俺と付き合ってくれないか?」


答えは分かっている。覚悟もできている。



「私も、カズ君が好きです。・・・・私で良ければ付き合って下さい!」


「えっ? 今、何て・・・・」


混乱で頭の中が真っ白になる中、響に唇を塞がれた。

無限のようにも感じられた時の後


「・・・・私の初恋は、カズ君なの。ずっと前から好きだった」


顔に笑みを浮かべ、告げられた。

何かを口にしようと思っても言葉にできない。

俺は響の手を握り、頭をくっつけた。


しばらくした後、響と手を繋いだまま家に送った。


「今日はありがとう、カズ君。また明日」


「また明日。お休み」


「お休み」


俺は何時もより少し早い足どりで家に帰った。



-次の日-


起きて気づけば昼前。


「流石に寝過ぎだな・・・・」


俺は寝間着のまま階段を降りて、うがいしてからリビングへ向かった。


「カズ君、おはよう。あまりに気持ちよさそうに寝てたから、起こすの躊躇っちゃって・・・・」


「いえ、すみません。ありがとうございます」


「それよりも、上手くいったの?」


「あ、はい。付き合うことになりました」


「良かったわね」


菜々子さんは優しく微笑みながら言ってくれた。

俺は朝ご飯、時間的には昼ご飯を食べ終わった後、着替えて外に出た。

雲一つない空。吹く風が気持ちいい。

ゆっくり歩きながら響の家に向かった。


「何の計画性もなく来てしまった・・・・」


どうしようか、何をしようか悩んでいると、中から響が出てきた。


「! カズ君。私も今から行こうとしてたところなの」


「俺も今さっききたところなんだ。今日はどうする?」


「せっかくだし、デートしよ」


「そうだな」


「そう言えばね、駅の近くに美味しいケーキ屋ができたんだって。そこに行ってみようよ」


「じゃあ、行くか」


俺は響と手を繋いでケーキ屋に向かうことにした。

たわいない会話をしながら歩く。

気づけばケーキ屋に付いていた。


「結構人沢山いるね」


「気長に待つか」


「そうだね」


「響は何を頼むつもりなんだ?」


「うーん、やっぱりイチゴのショートケーキかな。カズ君も好きだよね、ショートケーキ」


「ああ。ほぼ必ず頼む」


「どうしようかな。チーズケーキも捨てがたいし、モンブランも美味しいよね」


響は順番が来るまで悩み続け、悩んだあげくにショートケーキを頼んだ。

向かい合う形で席に座り、いただきますの声の後に一口頬張る。


「「おいしい」」


二人ハモって同じ感想。


「そっちのイチゴおいしそうだね」


「・・・・はい」


俺はイチゴをフォークで刺して響の口元に持って行く。


「カズ君。はい、アーン」


同じように響からされたので、口を開ける。


幸せと美味しさを味わいながらケーキを平らげた。


「凄くおいしかったね。また来ようね、カズ君」


「ああ。次来るんだったらテスト終わりだな」


「そうだね。じゃあ、テスト終わりにまた来ようね」


「ゆっくりその辺見てから帰るか」


「うん」


再び手を繋いで歩く。

この時知る由もなかった。

そのテスト終わりの日が、いつもの日常ではなく。


―――絶望の日に変わることなど。


到底思いもしなかった。










全ての複線がやっと張り終わりました。

次話からが本編といった感じです。

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