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御手紙届きました  作者: 片栗粉
一通目
2/3

染まらない黒

カチ カチ カチ


時計が鳴り響く。部屋は相変わらず、暗い闇。


しかし、暗い闇の中には既に、男とそのペットの姿はなかった。


時計だけが鳴るこの部屋は、深い闇に呑まれてく。





暗い部屋を後に、男は外にいた。


部屋とは正反対に、街は明るい。


夜でありながら、人々の声は絶えず、車のライトや街の明かりが光り続けるこの光景は、この街が都会であることを物語る。


この街では、月は存在意義がないように見える。


月の明かりが演出する切なさも、神秘性も、この街では価値がない。


月の明かりよりも、街の明かりの方が明るいからだ。


月の古臭い神秘性よりも、街の夜景のほうがお洒落で綺麗だからだ。


だから、皆は月を見ない。


だから、この街は月を必要としない。


月もきっと、こんなちっぽけな街を必要としていない。


それなのに、どちらも光り続ける。


意味も分からずに。


もしかしたら、意味なんて最初から存在しないかもしれない。


そんな街の中、一際浮いたバイクが走る。


月の色にも、街の色にも染まらない、真っ黒なバイク。


そのバイクはどうにも、不思議なバイクだった。


形だけを見ると、それは郵便配達員が乗るバイク。


しかし、真っ黒だ。


月の真っ白な光や、街の無駄に彩られた夜景を嘲笑するかの様に、真っ黒だった。


その漆黒には、孤高の精神を代表するかの様な、凛々しさがただよっている。


その色からは、寂しさも感じられた。どこにも染まることの出来ない。そんな寂しさ。


それは、乗っている男も同じだった。


男は、相変わらずの黒ずんだ服と帽子を身に纏い、バイクに負けず劣らず、どこにも染まらなかった。


バイクは鈍く重い音を出しながら、走る。


その音からは、バイクがあまり良いと言える状態でないことが分かる。


「そろそろ買い換えたいですね、小次郎」


男が話し掛けた相手は、男のポケットの中にいた。


キュー キュー


賛同なのか、反対なのか分からない相槌が聞こえる。


小次郎と呼ばれたその動物も、また黒かった。


目だけが、薄い緑色に輝いている。


光りが交錯するこの街で男逹は、真っ黒な塊にしか見えない。


そして、人々の目は不思議そうに男達を見る。


しかし、男は気にしない。


バイクは走る。


どこか、目的地を探して・・・



男がバイクを走らせる理由は簡単だ。


仕事があるのだ。


男にしか出来ない仕事が。


だから、走る。


男を必要とする人間の下へ。


キュー キュー


バイクの鈍い音に紛れて、小次郎の鳴き声が男の耳に届く。


そして、バイクはスピードを上げていく。


街の人々の視線の中で。







バイクが停まる。


最後に大きく音を立てて。


バイクが停まった前には、大きなマンション。


賑やかな街から少し離れた目立たない住宅街。


そこの周辺では、目立つ一際大きなマンション。


男は、バイクをマンションの近くの駐輪場に預けると、マンションの中に入っていく。


手紙に目を落としながら、マンションの中を歩く。


「305号室、305号室、305号室・・・」


そう呟きながら、エレベーターに乗り込む。


男が見ているのは、仕事の依頼の手紙だ。


男の存在を知った人間から送られてきた手紙・・・


男の存在を知れば、誰もが仕事を依頼する。


せずにはいられない。


「305号室、305号室・・・」


男はやっと、目的の部屋の前に着く。


ピンポーン


インターホンを鳴らす。


はーい、と部屋の中から返事が起きる。


ばたばたと、急いだ足が部屋を駆ける音が聞こえる。


少し、鋭い音をたてながら、ドアが開く。


待ってました、と言わんばかりの顔で部屋の住人がドアから顔を出す。


「お待たせいたしました、黒山郵便局の黒山です」


男は住人に、黒ずんだ帽子の中に隠れた唯一の肌色である顔を見せる。


その顔は無表情で、色白くて、機械的なものだった・・・
















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