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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

なろう的童話シリーズ

我がままな老婆と少女

作者: 風木守人
掲載日:2012/10/18

とある森に、老婆がいた。

老婆は病を治す不思議な力を持っていた。

その力は不治の病すら治した。


その力は魔法と呼ばれ、いつしか老婆は魔女と呼ばれるようになる。

死に抗うため、魔法にすがるため、魔女を訪ねる者は多かった。

しかし、魔女は大半の者の求めを突っぱねていた。


「薬を飲めば治るでしょう」

「私でなくとも、治せます」

いつも魔女はそう言っていた。


さる貴族の子息が訪ねた時も同様だった。

老婆はいつものように答えたが、貴族はこう言った。

「僕を治さなかった事、後悔させてやる。魔女め」


しかし魔女も人の子。情がないという訳でもない。

ある日森に倒れていた少女を見つけた。

転んだ拍子に足を切ったようで、足から血がとめどなく流れている。


普通に手当てをしても当分歩けないだろう。

このままでは、夜には森の獣に食われてしまう。

魔女は迷わず少女の足を魔法で治してやった。


「ありがとう……ありがとう、ございました」

少女は恩を返すため、魔女の世話を焼くようになった。

魔女は町へと帰るよう勧めたが、身寄りのない少女はそれを拒んだ。


「私も人のためにつくしたい。私の命を助けてくれた、貴女のように」

少女の真摯な訴えを受けて、さすがの魔女も、折れた。

「分かりました。しかし、帰りたくなったらいつでも町に帰りなさい」


それから二人はしばらく一緒に生活した。

魔女は少女が来ても相変わらず、治療に来る者たちを追い返した。

――そして彼らによって、少女の存在は瞬く間に町にも伝わる。


「魔女のところに若い女が一緒に住んでいる」

「どうやって取り入ったのだろうか、我々の事は助けてくれないというのに」

「噂では、貴族からの依頼でさえ突っぱねたらしいぞ。それなのに……」


一方少女も、魔女が彼女以外を治さない事を疑問に思った。

「みんなを助ければ、みんな貴女の事を好きになると思います」

少女いつからか、そう言うようになった。


「私も昔は、そうしていたのですが」

魔女は諦めたかのように、悲しいまなざしで言った。

「私は自分のために、生きる事にしたのです」


この意見の相違のために、少女は魔女とけんかをしてしまった。

少女は魔女の小屋を飛び出した。

魔女は追わなかった。


少女は怒っていた。

しばらく森を町に向かって突き進んでいったが、どうしても町に帰る気になれない。

森の中をふらふらと歩いて、ゆっくりと考えた。


「人のために怒って、そのために仲たがいするなんて、つまらないわ」

少女はそう思い直して、魔女の小屋に帰る事にした。

日が傾いて、空が血のように赤く染まっていた。


少女は小屋に着いた。

しかし、何か騒がしい。

胸騒ぎがして、ノックもせずに入った。


中には数人の男がいた。

魔女は床に倒れていた。

赤い血が、床一面に広がっている。


「お前が僕を治さなかったせいで、僕はあの後三日も寝込んだのだぞ」

男たちの中で一人だけ身なりのいい若者が言った。

彼は以前魔女に治療を断られた貴族だった。


最後に貴族は魔女の頭を思い切り蹴り飛ばした。

少女は目をつむる。

ガン、と大きな音がした。


貴族はそれで気が済んだのか男たちとともに小屋から出てきた。

入口で立ち尽くしている少女を見て、少しだけ顔を歪めた。

少女はどうしていいか分からず、動けない。


「ここで見た事は、黙っていろ」

すれ違いざま、貴族はそれだけ言って帰って行った。

男たちも、それに続いた。


静寂が下りた。

夕日が窓から、赤く差し込んでいる。

少女は金縛りが解けたように、魔女に駆け寄った。


「……ぁ」

魔女はまだ生きていた。

しかし、このままではあと僅かで死んでしまうだろう。


「どうして、魔法を使わないのですか」

「私の魔法は……私には効かないのです……」

魔女は息も絶え絶えに答えた。


急速に命が流れ出ていく中で、少女の腕の中で、ただの老婆同然となった魔女は言う。

「私の魔法は、私一人すら救えない」

そう言うと、魔女は少女に語った。


「昔は、私も魔法でみんなを救えると思っていました」

「けれどある日気づきました。この魔法が、私の寿命を代償にしているという事に」

「この魔法で人を救えても、私だけは、どうしても、救えないのです」


魔女はそう言った後、自分の年齢を告げた。

少女は魔女が自分と十も歳が離れていないことに驚いた。

魔女は諦めの混ざった顔で、それでも最後に伝えたい事を、伝える。


「貴女は貴女のために生きなさい」

魔女は震える手で、少女の頬をなでた。

「貴女が貴女のために生きないで、一体誰が、貴女のために生きてくれるというのですか」


魔女はしばらくして、静かに息を引き取った。

少女は魔女の亡骸を森に埋めた。

そして、少女は町に帰った。


魔女の存在は、いつの間にか話題にも上がらなくなっていた。

町では魔女など始めからいなかったかのように、平和な日々が続いていた。

少女はその中で、自分のために生きていく。


自分らしくない作品を書いてみよう、と思い書いてみた一本。


ハッピーエンド至上主義という訳ではありませんが、こういうバッドエンド気味なものはあまり書いたことないです。


感想批評などありましたら、お待ちしております。

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