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魔陣の織り手:Magical Weaver   作者: 永久 トワ
首都訪問編
99/137

9

 ラソル国の首都から西へ馬車で2日ほど進んだ所に、アブロニアス王国に繋がる街道が伸びていた。上空には星が輝き、見回せる周囲は森に囲まれている。

 ラソルでの巡業(依頼)を終えた私達は、馬車や動物達を乗せた荷台で隊列を組みながら、もう後1日程でアブロニアスの国境を越えれそうな所まで来ていた。

 日が暮れだした頃から、わずかに広けた土地を探し馬車を扇状に停車させ野営の準備が始まっていた。団員達が数箇所に分けて焚き火を行い。そのわずかばかりの明かりが森の暗闇を照らし出していた。


「キアさん、何か手伝えることはありませんか?」

「マリーナ様、気を使われずどうぞ座っていてください」

「でもシスさん・・・・・・」


 私とシス姉が夕食の準備をしていると、必ずとマリーナ様は何かと声をかけてくる。今朝などは団員の洗濯や野営のテントの片付けさえ手伝おうかと言ってきたのだった。

 他の団員さえ困惑するのを、私とシス姉が二人して説得するのが毎回のやり取りになっていた。


「マリーナ様方のお世話をさせて頂くのが、私達の役目ですから、それにあまり出歩かれませんように。姫様方がアブロニアス王国へ向かわれているのが知れ渡っている訳ではありませんし、何処の誰に見られているか分かりませんので」


 シス姉がほとんど説得しているのだけれど、私も頷くくらいはできる。


「マリーナさ、様。もうほとんど出来てるので、アリシアちゃんとレーネちゃんを呼んできてください、ませんか?」

「キア!言葉!」

「あっ、アリシア様、とレーネ様です!」


 私とマリーナ様達との再会から2日が経ち、上手くしゃべれたのは再開した夜だけだった。気を抜くと今みたいな話し方になってしまって、シス姉には叱られて大変恥ずかしい。

 また、それを綺麗可愛いマリーナ様に微笑んで眺められると、顔だけでなく耳まで真っ赤になってしまう。

 今日のマリーナ様は特に長い髪を邪魔にならないようにアップにしていて、2割増しに可愛かった。私も髪を伸ばそうかな・・・・・・。


「良いのに、様なんて付けなくてもって言ってるのに」


 私とお姫様達の間では、微妙な関係が出来てきていた。シス姉さんや他の団員達はきっちりと立場を考えた話し方を通している。しかし、私達アーク一座がアブロニアス王国まで護衛する役割をしなくてはいけないとは言え、この2日間何も襲撃など事件が起きる事は無かったのである。

 その為、昼の時間には歳の近い私と今まで訪れた町の話や、劇の話などをしながら馬車の移動の時間を過ごすのがほとんどで、護衛というよりも姫様達とは友達と化していたのだ。

 シス姉が改めて、二人を呼んできてくださいとお願いされ、調理を諦めしぶしぶ呼びに行ってくれたみたいだった。


「これが初任務って、どうなの?」

「護衛や世話をするのも立派な任務よ?」

「もっと、こう飛竜アルクに跨って、ハッ!とか、ホッ!とかないの?」


 私は鍋をかき混ぜるお玉を剣に見立てて振って実演する。


「ふふ、キアの戦ってるのが何なのか分からないけれど、それ、アルクって空を飛んでるって感じ?ドラゴンで無い事を願うわね。もし、そうなら私達じゃ無理だわ。ハハッ」

「むー、私もナナみたいなの方が活躍できそう」

「アルクも強いじゃない。アルクの乗り手はキアだって決まってたみたいだし、それに、団長の親心もあると思うわよ」


 むう、孤児院で育ったシス姉に親心とか言われると何も言えなくなる。悪気は無いだろうが、家族と思っている団員やシス姉に距離をとられていると感じてしまうからだ。


「そうかなあ」

「そうよ」

「キアちゃん!シスさん!お疲れ様です」


 呼び声に振り返ると、マリーナ様の手を引いてアリシアちゃんが声をかけながら歩いて近づいて来ていた。フリルのスカートしか持っていなかったアリシア姫様には、私のお古だがズボンタイプの服を一式貸していた。

 ショートボブの銀髪を遠目で見ると、可愛い男の子に見えなくも無い。それに私の服でも、私と同じで凹凸も無い、いや・・・・・・・控えめな方の仲間だったのもそれを選んだ理由だった。


「もうできますから、座ってお待ちください」

「アリシアちゃ、様。どのくらい食べ、ます、か?」


 うう、シス姉の睨みが怖い。


「少なめでお願いします」

「私は大盛り・・・・・・・汁だくで・・・・・・・」

「私は普通で」


 レーネさん、あまり豪華ではない夕食、いや、半分以上が汁物なんだけれど、本当は見えているんじゃないだろうかと思うような事を言ってくる。あの細い身体の何処に吸収されるのだろう。謎である。いや、その分出て・・・・・・下品だやめておこう。


「やっぱり、私も多くしてもらって」


 何故かアリシアちゃんがレーネさんの方を向いて「やっぱり、あそこに」だとか呟いているけれど、多くしたいってこの二日聞いたのも初めてで珍しい。


「アリシア。おなか痛いんでしょう?無理しちゃだめよ?」

「お姉様・・・・・・そうします」


 ん?アリシアちゃん具合でも悪いのかな。水でも合わなかったのかもしれない。私も巡業で他の町に行くと時々あるんだよね。

 やっぱりそうだよ、レーネちゃんは少し背が高くて細いけれど、私もアリシアちゃんも色んな意味で少しづつ大きくなるはずだから、無理しなくて大丈夫だよ。きっと。

 それに、アリシアちゃんのお姉さんであるマリーナ様はあんなに豊かなんだから、期待持てるでしょ?と心の中にだけに留めておく。

 そんな、思いを抱きながら楽しい夕食を食べるのだった。


 食べ終わったら、それほどやることも無く。明日の予定や簡単なカードゲームも1時間もすれば飽きてきて早々に休む事になった。その間、初めは明るかったアリシアちゃんがだんだんと言葉少なになってきたので、眠くなってきたのかと切り上げたのだった。

 まだ、私にはまだ子供だからと言う理由で、夜の見張りなどの役割は割り振られることも無いので、何もいつも通り寝る準備をして就寝する事に変わる事は無い。

 シス姉も、今晩の夕食担当で明日の食事も担当という事で、今晩は見張りをする事は無いと言っていた。

 そして、いつも通り姫様方の休む馬車の横に私とシス姉はテントを張り、いつの間にか寝ていた所を起こされる事になった。


「キア!起きて!」

「んぁ?何?もう朝?」


 まだ寝むいと言えない剣幕で、シス姉に起こされたのだ。

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