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魔陣の織り手:Magical Weaver   作者: 永久 トワ
首都訪問編
96/137

6

「そうか!ワング達を知っているのか?」

「ええ、この前アロテアの街へ向かう際に護衛をしてもらった事があって」

「そうか、そうか。運が良かったな。ワング達は俺達に次いでベテランだからな。そりゃあ旅も安全ってもんだ」

「ワングさん達と知り合いなんですか?」

「そりゃあ、活動拠点の街が同じだからな。自然と顔を突き合わせるようになるさ。それにしても、確か今度は首都を経由して東の方へ行くって言ってた気がするがな」

「パルマさん、ケイル村じゃなかったですかね?」

「そうそう、ケイル村だったか。おい!名前で呼ぶんじゃねえ」

「へい、兄貴アニキ


 パルマと呼ばれた護衛の冒険者のリーダーは、仲間の頭をジョッキの角で小突く。パルマって女々しくて嫌いだとブツブツ言いながらお酒を口にする。

 小突かれた方の冒険者仲間は、酔いが少し回ったのか顔が赤くなっていた。

 今、俺と冒険者の合計5人は絶賛食事中だ。早めに運ばれてきた簡単な肉の照り焼きから始まり、少し時間のかかる穀類の蒸かしたものに胡椒の香りのするジャーマンポテトの様な炭水化物が運ばれ、男たちが好むような献立が運ばれて来ていた。

 それも、料理を作る女将が俺達の欲求を満たすべく作り出した料理である事が、配膳してくる女将の笑顔から分かった。


「ケイル村って遠いんですか?」

「ああ、何だったか。取引の材料が足りないって言う商人の護衛について行くって言ってたか。確かに、この前までギルドにろくな仕事が無かったからな。少し遠くに行くが報酬の良い護衛の依頼だって言ってたよな」


 キイア村の様に遠く辺境にある村以外に、東にも似たような村が有るのだと知ってアブロニアス王国の規模がどの位かをだいたいだが予想出来た。

 馬車の速度がだいたい10㎞/時くらいでアロテアからの道を進んできた。もちろんその速度も自分の体感からの計算である。そして、朝9時から夕方の5時頃まで進み、その中で休憩を省いても7時間以上は馬車に乗っている状況だった。

 3日だけで200㎞前後を進んだことになる。それでも、地図の端にあるというキイア村から首都へは、アロテアまでの峠を越えなければいけない事を考えると。単純に東京から愛知県名古屋までの250㎞程を馬車に乗ってきたと単純に考えても良いかもしれない。実際は路面や峠の起伏の事もあり、直線距離より短いかもしれないが。


「飛べたら早いですよねえ」

「急にどうした?3日の馬車旅で疲れたか。誰しも思うもんさ、飛べたらなあってな」


 距離の事を考えると、やはり前の世界の飛行機を思い出す。飛行機だと東京と名古屋間ならば1時間程で到着できるのだ。この世界では、もちろんジェット機並みの高度や速度で騎乗できるとは思えないが、あの見世物小屋の騎獣部隊に居た兄妹達の乗っていた竜を思い出した。


「飛竜とかに乗って旅する人は居ないんですか?」

「それは、何処の騎士だよ?ってもんさ。それにまず飛竜に乗れる奴を見るなんて、何か急いで解決しなきゃならない不味い事が起きてるとしか思えねえな。それか、誰かを急いで探してたりな。結局は、近寄らない方が良いって事さ」

「なるほど……」


 飛竜の活用も便利だが普及には至って無いのだろう。それだけ、あの兄妹が特異の存在だと言う事に改めて認識した。


「興味で聞きますけど、護衛って儲かるんですか?」

「おいおい、包み隠さないで聞くな。まあ、嫌いじゃないが。実を言うと、何かに襲われない限り儲けは少ないな。だが生きていけない訳じゃない。物が取引され運ばれるのは無くならないからよ、俺達の仕事も無くなりはしないさ。たまには、客を引っかけてこうやって羽目を外せるしよ」


 ニヤッとパルマは笑うと、空になった酒を女将に注文する。うん、彼らの様な護衛の冒険者ばかりならば、客も気持ち良いだろうし襲われたり被害が出る事も少ないだろう。

 以前のキイア村からの街道はともかく、アブロニアス王国の治安は良い方なのかもしれない。スノウに襲われたのはトラウマだが、キイア村は辺境にある分だけ危険度は高いのかも知れないと気付く。


「それじゃあ、そろそろ俺は休みます」

「おっ?そうか。ちゃんと飲んだか?」

「ええ、階段を上るのに手すりが要りそうなほどには」

「そりゃ結構!階段が上がれなかったらベッドまで抱えてやるぞ?ガハハハハ」


 また明日と言う冒険者の声を背に、手すりを使い何とか自分に与えられた部屋へと着く。

いやあ、手すりが付いていて良かったと意味も無く苦笑しながら部屋へと入った。

 酔っていると、色々パルマに抱きかかえられている自分の姿を想像したりするものだ。部屋へ入った後も、すぐにベッドへ腰かける気にはなれずポケットからミレイの入った瓶を取り出し机の上に置く。

 いやに静かだと思って、わずかに腰を屈めて瓶を覗きこむと……。


『寝てるか……』


 ミレイは見つめ返し返事する訳でも無く、瓶の中ほどで膝を抱え目を閉じて寝ていた。

 起こして、新しい水に変えてやるのもミレイが起きてからにしようと考え、俺は服を脱いでいつもの通り魔陣にてシャワーを浴びる為に部屋に備え付けられた浴場部分へと入る。

 しかし、俺はその時に気付かなかった。しばらくミレイを観察していたならば、気付けていたかもしれない。瓶の中に浮かぶミレイの胸の部分には微かに青く輝く光が、ゆっくりと拍動するかのように明滅していた。



 翌朝目が覚めた時も、ミレイは昨晩と同じ姿で寝ていた。姿が見えている分だけ安心できる。きっと疲れが貯まっていたのだろうと自分を納得させて出発の準備を始めていた。

 あまりにも眠り過ぎるならば、少しばかり心配になる。最近は特に疲れた様子を見せていたからだ。首都キアーデに到着すれば、精霊の容態に詳しい人に合えるかもしれない。バオのつてを頼って紹介してもらいたい思いが強くなっていた。


「タモトさん、用意できましたか?」


 ノックと共に部屋の外からバオの声が掛かる。この二日、ほとんどの予定にバオが声を掛ける事から行動していた。その理由としては簡単で、バオの行動する予定の方が効率が良かっただけである。


「お待たせしました」

「いえ、昨夜は休めましたか?今日は首都にも着きますから、忙しくなりますよ」


 ミレイの休む瓶を、腰のポーチへ入れバオの待つ廊下へ出る。バオは、昨晩自分達が飲んでいたのを知っていたのだろうか。二日酔いをするほど残ってはいないが、気遣ったように聞いてくる様子だった。


「首都に着いたら、すぐに何処か行くんですか?その何とか調査機関ですか?」

「調査機関か……ククク。そう言えなくもないな。王都学術院だが好きなように呼べばいい。まあ、そうだな。報告すれば上も納得するだろう。後は観光でもして戻ればいいさ」


 何かが気に入ったのか上機嫌に階段を降りていくバオを先頭にして、俺達は宿の前に停められた馬車へと乗り込む。

 後ろを見ると、護衛で付いてくる冒険者達が手を振って朝の挨拶をしてくる。皆二日酔いでダウンしている者は居なかった、やはり飲む量を調整していたのだろう。そういった点を見ても、統率と自制がきちんとされたパルマをリーダーとした冒険者達だった。

 集合に遅れる事も無く集まった客達と御者は、新しく首都へ向かう追加の客も居なかった為同じメンバーで出発する。


「順調にいくなら、ウヅ時(16時頃)には着きますんで、よろしくお願いします」


 ウヅと言うのは、黄色い手足の長い獣の事らしい。前々から思っていた事だが、獣の名前と時間を結びつけるなど、昔の日本の様で妙に親近感を感じてしまう。ウヅについてのバオの説明に耳を傾けながら、御者の操る馬車は出発した。



 天候が崩れたり、馬車や馬の調子も快調で予定よりも早く首都へ到着しそうであった。一番の違いは路面が石畳に舗装された所を走るようになってから、幾分か速度が速くなったように思える。そして、馬車上からは左右に1m程の石壁で遮られた農場が広がっていた。

 この情景だけを見れば、現代の欧州へ観光に来ただけの様にも思えてしまう。石畳がアスファルトの様にも見え、ふと懐かしく感じてしまう理由だった。

最近、アロテアの街を離れ親しんだ人達と離れてから、少しばかり現代を懐かしく感じてしまう回数が多いように感じる。それも、人と離れただけが原因では無い。いつも話し相手となっていた精霊のミレイが不調で有る事も大きいのだと思う。


「タモトさん、見えますか?あれが首都キアーデです」

「あの城壁?ですか?」

「あの壁は街を囲む壁ですよ。長年平和とは言え、いつまでも安心とは言えませんしね」

「そうですか。でも、城らしい物が見えませんが?」


 バオに質問した通り、見える範囲に壁は見えても城らしきものが見当たらない。もしかすれば、近くに行けば見えるかも知れないが。


「タモトさん、キアーデに城は有りませんよ。正しくは城塞は……ですがね。しかし、もちろん王族は居ますが、王族の邸宅と統治する属州地が首都キアーデなのです」

「ああ、勘違いしてました。王国と思っていたので、てっきり大きな城が有るものとばかり思っていました」

「なるほど、しかし、その点では現国王は賢王だと私は思いますね。王族の誇示に民の力を使わず土木治世に尽力しているのですから。それも、我がアブロニアス王国の歴代王族も我々と同じ平民からの王が誕生している事も影響は大きいと思いますが」

「平民が王にですか?」

「ええ」


 バオはそこで言葉を区切ると、チラッとこちらの額の痣を見た後話を続ける。


「今から百年ちょっと前ですが、その時に治めた平民出身の若者が神痣シュメリアの力による功績が認められ女王と結婚したんですよ。正確には、王配となった訳ですがね」

「ああ、それなら何となくわかります」


 現代の昔の欧州においても、女王が統治し夫となった物が王配殿下として称される事があった等学校で習った事を思い出す。


「それで、その子孫が現在の王族に繋がる訳ですが。タモトさん、もし神痣シュメリアについて聞かれたとしても黙っている事をお勧めします」

「それは?なぜ……」

「皆さん!首都キアーデに着きましたよ!お疲れ様でした」


 バオへ、なぜですか?と質問を返そうとした時、御者の男性が首都到着を告げ遮られてしまう。そして、馬車を降りる客の移動にバオと話を続けるタイミングを逃してしまった。


「さあ、行きましょうか」

「え、ええ」


 バオの忠告に引っかかる事があったが、馬車を降り周囲を眺めると丁度城壁を通り抜けた場所に自分達は立っていた。門の所に居る門番の確認も馬車の御者がまとめて対応してくれたらしい。改めて、身元を尋ねられる事も無かったのは手間が省けて良かったと感じる。

 また、ゆっくり話せる時間でも有れば詳しく先程の話を聞こうと決めバオの行く先へついていく。ここでバオとはぐれれば、迷子になるのは間違いない。それ程に、道幅も広く人の流れも多い。

 首都の入り口でこれだけの賑わいをみせる中、着いていく事だけを考えようとした時不意に呼び止められる。


「おい!兄ちゃん!……こっちだこっち!」


 まさか呼び止められるとは思ってもいなかったので、違う方を向いてしまう。すると、呼び止めたのは、首都までの護衛に着いて来てくれたパルマ達冒険者からだった。


「すまねえな、呼び止めちまって。いやなに、せっかく首都まで来たしよ今晩どうよ?」


 そう言いながら、飲む仕草をされ酒場に誘われている事に気付く。


「どうですかね?バオさん」

「今からは用事を済ませなければならないですが、それが終われば構わないんじゃないですか?」

「だそうです」

「おう、それじゃあ予定が空いたら『暁の黒茶亭』って所に来てくれな」


 そう言い残すと、冒険者達はまた後でと言い去って行った。

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