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魔陣の織り手:Magical Weaver   作者: 永久 トワ
首都訪問編
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2

「騒がしいですね。あぁ、貴方の村へ行く日も今日でしたか」


 見送る職員達にまぎれながら、いつの間にか後ろに居たバオが尋ねた。


「バオさん、おはようございます」

「ええ。タモトさん、本来なら貴方もあの馬車へ乗りたいでしょう?」

「まあ、そう言われると……」


 今さら本音を言っても首都へ向かう事を諦めてくれそうにないだろうと思っていた。それに、簡単に当事者から話を聞きたいだけだと聞いている。それで、首都の方でも支援してもらえる様であれば俺にとっても、キイア村にとっても良いはずだと思う事にしたのだ。


「まあ、良いでしょう。準備は出来てますか?」

「ええ、荷物を持ってくれば行けます」

「ちょっと待ってくれないかタモト君。君に渡したい物が有るんだ」


 もう出発するのかと確認しようとした時、ルワンナさんに呼び止められる。


「良いですか?バオさん」

「構いませんよ。それでは、私は馬車の手配でもしてからまた来るとします。あぁ、タモトさんは、馬には乗れますか?」

「いえ、数回しかまだ……」

「ふむ、村の方では乗らなかったんですかねぇ?まぁ、分りました」


 そう言うとバオは馬車の手配に、ルワンナさんはギルドの中に再び入っていった。

俺も、馬に乗れるかと聞かれると自信が無かった。乗った経験が有ると言っても、スノウには乗せてもらっている感じが強かったからだ。もう一つの方の経験は、相乗りしていたに過ぎない。

 やはり馬には乗れないとはっきり言って良かったと思いながら、自分の荷物を仮眠室から持って来ておこうと取りに向かった。


「タモト君、もう出発か?」

「ガイス主任。お世話になりました」

「はは、もうタモト君から主任と言われるのも最後だよ。また、何かあれば遠慮せず来てくれ」

「タモト君、君に渡したかった物はこれだよ」


 ルワンナさんは、一枚のギルドカードを手渡す。それは、他の冒険者達のカードとは明らかに違って見えた。材質は白金が使われ、普通の冒険者には各種ランクが記載される所には『GuildMaster of Kiia Village Guild Branch』と刻印され記載されていた。


「これは?」

「本当は村に支店が建ってから渡そうと思っていたものだ。君の身分を証明するものだよ。しかし、キイア村に帰るならともかく首都に行くとなると渡さないでおくわけにはいかないだろうと思ってね」

「貰っていいんですか?」

「もちろんだ。むしろこれからはこの証明が無いと色々大変だぞ」


 そのカードをもう一度見てみると、小さな0.5㎜程の宝石が白金にはめ込まれているのを見つける。


「これは宝石ですか?」

「そうそう、それは魔宝石の小さいものだよ。タモト君は魔陣が使えるんだったか?意識を集中して宝石に触れてみたまえ」


 俺は言われる通り、極小さな魔宝石に意識を集中させると、今までは透明だった魔宝石にほんのりと青白い光が灯っている状態となる。俺の魔力が宝石の中に吸収されたのか?


「それで、そのカードは正式に君の者になった。その魔宝石の光がその証だよ。身分を問われた際には、そのカードに先ほどと同じように意識を集中すればいい。本人であると輝きが教えてくれるはずだ」


 カードにはめ込まれた宝石の役割をやっと理解出来た。この輝きは今後俺の魔力にだけ反応して輝くと言う。俺が身分証明の役に立つはずでは?と思っていると、魔宝石の欠片としても単価の値段が高くなってしまうそうだ。

 今現在は、ギルドマスターのみの所持として認可されていると聞かされる。


「ありがとうございます。でも、こんなカードがあるなんて知りませんでした」

「誰彼にと、公に言える物でもないだろう?小さいがそれなりに希少な魔宝石を使っているのもあるが、第1に身の安全の為にも言いふらしたりしない事だ」

「いえ、てっきり名前ばかりの職とばかり思ってて」

「確かに、今は支部も建っていないし本格的に仕事をするのもこれからだろうが、利益目当てに他の人間が近づいてくるとも限らないからね。まあ、危ない事には近づかず、合わない事を願うしかないさ」

「危ない事ですか……」

「ああ」


 ルワンナさんから忠告を受け、危ない事について想像したが、この世界での危ない事について想像し特定する事が難しかった。それなりに今までゴブリンの襲撃を受けたり、スノウに襲われたりと命の危険を感じてきたが、この街の周辺には、サオ達の以前の盗賊達はもう居ないと聞いている。それ程に危険に対して麻痺していたのかもしれない。

 しかし、いざとなれば、神の魔陣さえ短時間で有れば使えるだろう。だが、今は魔力の不調も感じている。依然、村で魔陣を使った時も続けて使用する事が出来なくなって来ていたからだ。その原因は分らないが、何度となく魔陣の図形を形作る手前で魔力の光が粉となって消えていく様になっていった。


「気を付けます」

「どうせ、キイア村による時はアロテアを通るんだろうし、また顔を見せてくれ」

「わかりました」


 ルワンナさんとガイス主任に別れを告げると、俺は待ち合わせのギルドの前でバオを待つことにした。

 ギルドの前は、先程までキイア村へ出発する馬車を見送っていた職員や近所の住民達の人垣は無くなっており、数組の依頼を受けた冒険者が横を通り過ぎていく。路を歩く組み合わせも、まだ、今の時間は商人達が多くなる時間帯では無かった。


「お待たせしましたか?」

「いえ、今出てきたところです」

「丁度良かった。それでは行きましょう」


 そう言うと、バオは中央の広場の方へ歩き出す。馬車を手配すると言っていたが大丈夫だったのだろうか。


「馬車は大丈夫でしたか?」


 馬車を手配すると言っていた割に、何処にも馬車の姿が無い事に気付く。彼に気付くのが遅れてしまったのも有った。


「あぁ、タモトさんは知らなかったですか?首都へは3日おきに馬車が出ているんですよ。それの手続きに行ってきただけですので」

「そうなんですか、定期便が有るのは便利ですね」

「まあ、そうですね。3日おきと言うのも、首都までその位の距離が離れている訳ですが……」


 どうも、3日程の距離が離れているのだろう。そう話しながら街の外門の所まで来ると、確かにそれらしい馬車が数台停車しているのが見えた。

 何が外見として違うのかというと、外のほろがたくし上げられ結ばれ開放感があるのと共に、急な雨の時には閉じられる作りになっていた。特に目を引いたのは、申し訳程度に綿入りの座席用クッションが備え付けられている事だった。


「バオさん、あの人達は?」


 馬車の少し離れた所に、馬を引いた冒険者達らしい5人組が準備をしているのが見える。それ以外では、同じ馬車に乗るのだろうか2人組の夫婦らしい組み合わせや1人商人らしい人物が居る。


「彼らは、護衛の冒険者ですよ。安全だとは言っても何が起こるか分りませんからね。ですが、タモトさんも居ますし帰りは安心ですね」

「そんな、買いかぶり過ぎですよ」

「そうですかね?フッフフフ」


 バオは、俺が神痣シュメリアを持つ者だと気付いている様子で、キイア村に起こした張本人だと言う事もあり、いざとなれば本気を出すだろうとでも思っている様な笑みをこぼしていた。

 そして、俺とミレイ、そしてバオの3人で首都へと向かう馬車は出発するのだった。

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