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魔陣の織り手:Magical Weaver   作者: 永久 トワ
召喚編
9/137

8

 その獲物(人間)を見つけたのはまさに偶然だった。数日前から降る雨で貯めていた食料が少なくなり、動物の狩りは期待していなかったがすこし山を降りて来たあたりで腐肉や実を捜していたのだ。今は偶然から見つけた獲物を、両手をだらりと前後に揺らし走り追っていた。見つけた獲物はすばしっこく木々を隠れるように移動しなかなか姿を見せない。日ごろは敏感な鼻も雨で匂いが消えている。見つけたことが偶然だっただけに、せっかくの獲物を逃がしてしまうのかとイライラし始めていたのだ。


「グァア」


 不意にニヤケてしまった。見つけた。降り止まない雨が獲物の足跡をはっきりと残していたのだ。先ほど打った弓矢も手ごたえがあった気がした。後ろに続く仲間も近くにいる気配がある。確実に獲物を追い詰めているのを実感した。この夜の森は自分たちの領域なのだ。腰に付けていた笛を吹き鳴らす。


 ピィィィィーーーーー


 これで仲間も気づくはずだ、イライラから次第に楽しくなってきた。まだまだ楽しくなるのだろう狩りは始まったばかりなのだから。



「はぁ、はぁ。何でっ!、何でこんなところにゴブリンがいる!」


 サニーは森の木影に隠れながら、ゴブリンアーチャーの矢で受けた腕の傷を押さえていた。

 雨の中を盗賊のアジトを逃げ出し、かつては家族、そして仲間だった追っ手の有無を確認しながら。1日中西の方角にあるキイア村の方へと進んで来たのだ。逃亡を手助けしてくれたNo3のお陰か、追っ手らしい気配もなく丁度村との中間地点を越えたあたりで休憩をとっていたところだった。

 サニーの知っている知識では、ゴブリンはもう少し北の森に住んでいるはずで、よほどの森の食料が不足しないと人里へ降りてこないはずである。

 そんな中、ゴブリンと遭遇したのは、岩場の影で仮眠をとっていた時に先に気がついたのはサニーの方だった。動物の狩をしているという様子よりも、木の下や何かしらの食料を探している様子に近かった。連日の雨で狩が出来ず食料でも不足したのだろうかと思う。

 見つかる前に場所を移動した方が良いと判断し、夜ということもあり移動を始めたサニーにとって視界が悪かったのが不幸だった。見つからないようにと移動する時に、1つのグループに気を向けるあまりに別のグループのゴブリンに見つかってしまったのだ。

 先ほど受けた傷も矢じりに毒や痺れ薬が塗ってなかったのが幸いだった。もしそうなった場合の治療手段がサニーには持ち合わせていなかったからである。


「しょうがない、このまま隠れていても見つかる。一気に村を目指すしか」


 そう思いながら、夜通し急げば明け方には着けるはずだと考え、木の陰から走り出す。そうして、丘を越え、遠くの山を2つほど越えた先に村の明かりがかすかに見えるところへと出た。


「何これ!?」


 夜の暗闇になれた目が目の前に広がる木々の惨状を目の当たりにする。土砂が木々を倒し、一直線に村の端まで押し流れている光景だった。


ピィーーーー!


 かすかに後方から笛の音がする。まずい、ゴブリンに見つかったかと思うがすぐ後ろにはまだ追いついてない様子だった。きっとぬかるんだ足跡でもみつかったか?


「まずい、この土砂を見つけられると村まで一気に」


 自分も村までの最短な道を見つけたのだ。ゴブリンもそれを活用しないとも限らない。足場は悪いが、考えている暇はなかった。


「早く村の人に知らせないと!」


 自分がゴブリンを村に近づけてしまった罪悪感と共に抱きながら、サニーは村へ向けて走り出す。

雨が降り出して3日目の夜、雨は次第にやむ気配を見せ始めていた。



 湿った土砂の足場を降りていた。雨は小雨となり、視界も悪くはない。気をつければいち早く村に着ける道筋だったからだ。だか、まだ緩い地面があることに変わりはない、もう一度土砂が崩れる可能性もあったが、ゴブリンの群れに囲まれることを考えると多少の危険はしょうがなかった。

 念のため木の根や倒木といった姿勢を踏ん張れる場所を選びながら歩を進める。それでも何度か足を滑らせ、衣服や髪や肌には泥がついていた。


「もう少し、もう少しで村に」


 ガァア


 不意に後ろから野獣のような声が上がる。振り返る余裕もなく、身の危険を感じ身をよじる。冷たい感覚が右肩から背中にかけて斜めに走った。


「ッグ!」


 急にその部位が熱を帯び、冷えた素肌に生暖かい感じが右脇に伝わる。切られたのだ。すぐに左手で体を倒木に支えながら相手を睨む。傷は浅いのか右手の動きには問題なさそうだが、肩まで上げるのは無理だった。

 目の前にいたのは一匹のゴブリンの姿があった。弓を持っておらず、短剣を片手に持つのみである。

 相手も姿勢は不自由しており両足と左手を地面に支えながら何とか対峙している。足場が不自由だったのが傷の浅い理由だろう。まず考えるのは、仲間を呼ばれるのは厄介だと言う事だった。雄叫びでも上げられると山間に響くのは間違いがない。

 一瞬でしかも声を上げさせず倒すのが一番である。それに戦闘が長引き相手に不利だと思わせるのも仲間を呼ぼうとするだろう。相手の油断を誘い、仕留めに来たところを致命傷で殺すしかない。そこまでのことを考え、時間を与えず行動に移った。


「いやぁっ……」


 私はワザと表情を恐怖に彩る。誰が見ても三文芝居である。大げさぐらいがちょうどいい。後ろに数歩後ずさり、こちらの不利と恐怖している様子を見せる。あまり痛くはないが左手で右肩を抑える芝居もする。


 グァア


 ゴブリンが笑った、優位を確信したのだろう。

じっりと、後ろへ後ずさる、あとはタイミングで私が逃げようと振り返ればいい。

 振り返りながら、横目でわずかに一瞬ゴブリンが飛び掛って来るのが見える。これを待っていた!


 ガァァァァ

「ふっ!」


 力を込めた吐息と共に振り向きながら左手で右腰の短剣を抜く、自分は振り向きざま前方に飛び体をひねりながら勢いをつけた短剣を投げつける。


 ドッブッ


 驚きの表情のままゴブリンは飛んでくる短剣を振り払うことはできなかった。不意の投擲と飛び掛る空中の中で払い落とす思考さえできず、短剣は喉から顎の柔らかい部分に突き刺さった。


 ドサササ

「ぐうう。」


 背中から土砂の地面につく際に、先ほど負わされた傷に土砂がめり込むが苦痛に耐える。今、ゴブリンに命を奪われるよりましだった。苦痛に耐えながら、前かがみに倒れたままのゴブリンを確認し右手に短剣を握りながら左手で体を支え立ち上がる。死んでいるかも前かがみではわからない。

 前盗賊の仲間が確認しようと、返そうとしたときに襲い掛かられたのを知っている。そう考えると、予備の刺突針を太ももから抜き出し一気に後頭部へ向けて投げる。


 ドシュ

「ギェェ!」


 虫の息だったのかは知らないが、確実に止めをさせただろう。ふぅ、と息を吐き周囲を見渡す。良かった。ゴブリンの味方は集まってないようだ。

 短剣と針を抜き、ゴブリンの持っていた短剣は遠くに投げる。本当に食料を探していたようだ。あまりにも軽装だという印象だった。互いに不運だったのだ。右肩の傷は一人では止血が難しいと思うと、アジトより持ってきた痛み止めの小瓶を一気に飲む。もう少し歩けば村のふもとに着くだろう。徐々に下山していくにつれて倒木や岩が多く歩きやすくなったのが助かった。



 キイア村は夜の間に激しい雨の降り方から小雨に変わっていた。俺はこちらの世界に来てから暗くなったら寝る準備をする生活で寝る時間が長くなり、実を言うと前世界での朝4時にあたる時間には目が覚めてしまっていた。それで何をするかというと、ぼーっとしたりユリアさんの家にいたときは本を読んだりしていたのだ。今は、宿屋に移っているということもあり何も読むものも無く、一階の食堂兼酒場にも自警団の青年達が隅で寝ているくらいである。まだ外は薄暗い、食事を作る人たちもまだ起きていないようだった。

宿屋が基本24時間営業なのかは知らないが、キイア村に夜に訪れる人は少ないというか全くいないのかもしれない。呼び出しのベルはあるが、誰も起き続けている人はいなそうだった。


「起きてるのは俺一人か・・・」


 ミレイも寝るのかは知らないが、返事は無い。あの精霊が話しかけてこないのなら寝ていることもあるんだろうなと考えてしまう。

俺はふらっと宿屋の入り口から外へ出る。小雨で冷えた空気が体にあたり寒いというよりも涼しい。結局、ユキアにはまだ村を全部案内してもらってなかったなと思う。まだこちらの世界に来て1週間も経っていないが、特にこの宿屋周辺はゆっくり回ったことも無い。昨日の昼間に見た風景から数件の店が集まっているところらしいが、今は薄暗く店も空いていない。今日時間があったらユキアに案内をしてもらおうかとも思う。


「すまない、村の人だろうか?」


 ふいに女性の声に呼び止められる。


「はい?」

「軒並みたずねたが人と会わなくてね。見えた明かりを頼りに来たんだが?」


 確かに宿屋の前にはかがり火が灯され周囲を照らしている。確かに遠くからも見えるかというとそうでもないとは思うが、本人が言うならそうなのだろう。そう聞きながら視線を向けると、20歳前後ほどの女性が右肩を押さえながら歩いてくる。


「急いで伝えないといけないことがある。村長はどこに?」

「今は、避難が必要な人は宿の方に居るんですよ」


 この宿に自警団長が泊まっていることを言うと、安心したのか表情を緩めたが、次第に近づきその姿を見える範囲まで来ると、今度は俺が驚いてしまった。全身は泥や土に汚れ、右肩から脇にかけて血で染まっているのである。すぐ肩を貸そうとすると。


「大丈夫だ」

「そう、ですか。でも、座って待っててください」


 介助を断られ、俺はすぐにユリアさんと自警団長を起こしてくると伝え、椅子に座らせ意識ははっきりしているのを確認して2階へと二人を起こしに行ったのだ。

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