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しばらくして、私とアリシアは二人で会議室の前まで来ていた。特に着替えたりした訳では無い。それだけ、城の中が広いのだ。警備の面から会議室や謁見室のある建物と住居が別になっていると言えば分かるだろうか。まあ、大雑把に言えば中等学校・高等学校位の敷地が家ですって言えば分かるだろうか?全国各地色々な規模の学校が有るとは思うけれど、まあ、建物が数棟と衛兵の練武が出来るグラウンドと思ってもらえばいい。そうそう、後は高い城壁位が特徴な様なものだ。
実際に前世で大学には行ったことが無かったが、城の中を散策している途中に怒られる事数回、大学の広さは分らないけれど建物の規模は通っていた中等学校位にこじんまりしている印象だった。
「姫様方、ここでお待ちください」
「「はい」」
会議室前の事情を知る衛兵が、ノックをして会議室へ入っていく。待つ暇も無く、戻ってきた衛兵が扉を内側より開き中へ案内をしてくれた。
「アリシアも良いんですか?」
事情によっては、会議室の前で待ってもらうか、時間によっては一旦部屋へ戻ってもらう事を考えていた。
「どうぞ、お伝えしてあります」
「分りました。アリシア大丈夫?」
「はっ、はい」
私も朝の会議に呼ばれるには初めての事だった。アリシアも緊張の表情に強張っているのが分かる。きっと腕を前で組んでいるのも、私の腕に掴まりたいのを我慢しているに違いない。
「来たか」
一番の出迎えの挨拶をしてくれたのはお父様だった。
「おお、姫美しくなられましたな」
「ガリント将軍、世辞を言っても予算は増えぬぞ」
「いえいえ、滅相も無い。本心が漏れただけでございます」
「お父様、それにお集まりの皆様おはようございます。そして、お久しうございます。貴重なお時間の会議に御呼びとの事で、妹アリシア共々お伺いいたしました」
「ああ、アリシアも構わないだろう」
アリシアも父親の言葉を聞き、いく分か表情が和らいだ様子だった。それに、入って直ぐに同じく後方に控えて立っているレーネを見つけてからは、笑顔さえ見えるようになった。
「どうぞ、こちらへお掛け下さい」
先ほど案内してくれた衛兵が椅子を2脚置いてある場所へ案内する。自分達二人が来ることになり、急遽アリシアの分まで用意したのだろう。
私達二人が椅子に掛けるのを見届けて会議は再開された。私の内心は、話の内容よりも礼儀作法は大丈夫かって所に頭がオーバーヒートしそうになっていたのだけれど。会議の内容を聞くにつれて、徐々に冷静になって背中に冷や汗さえ出そうになって来ていた。
「それで、昨晩に我が国の重要な施設に賊が入ったということか?」
「はっ、事前情報により4小隊が周辺を警戒中、5人の賊の侵入を確認しそれを2小隊にて強襲。3人の狂人化による反撃を受け、最新式魔法銃1丁を奪取され、残り2名が逃亡を図り、残り2小隊にて追撃を行いました!」
「それで、負傷者は30名だと聞いているが?4小隊では、20人じゃないのか?」
負傷者が30名って、1小隊に5人居たとして確かに20人である。ほぼ全員が負傷しているとしたら全滅していたとしても不思議では無い。
もしかすれば隊長であるココも無事ではすまなかったのかと思うと、すぐにでも容態を見に行きたい思いに駆られてしまう。
「はい、強襲にあたった小隊20名、応援にて逃亡を図った賊を取り逃がす際に10名の負傷者が……」
「馬鹿が!狂人化してわずか5名とは言え、対した20名で全滅に近い結果となった相手に、情報も無くまともに組して勝てると思ったのか?」
先ほどまで温和そうに見えたガリント将軍が激昂して報告する騎士を叱咤する。そうか、本来であれは報告するはずなのはココが役目のはずだと気付く。
「そ、それが、応援が駆けつけた時には、賊は2名しかおらず……他の3名は既に絶命しており」
「なお悪いわ!20名で3人しか倒せぬ相手ならば。なぜもっと応援を呼ばなかった!」
「……ガリント将軍、そのくらいで良いだろう、対応の反省は今はすべきでは無い。この状況ではまともな対応策が出るとは思えん」
「そうですな」
国王である父親と、叔父であるギレウスも相づちを打ち話を変えようとする。ママル爺は閉眼し、他に参加している財務職などは視線を他に向けていた。
アリシアも笑顔が消え、背筋を伸ばし彫像の様になっている。決して怒られている訳じゃないけれど、そうなっちゃうよね。
「それでだ、早急に街への門を閉じたが、ここまでやれる賊に効果が有るかどうか」
「まずは、その賊がどこの手の者にもよりますが?」
「そうですな。狂人化する薬もそれほど多く出回っている物でもないですしな。それに、狙っていたのが最新式魔法銃と言う事では、ほぼ相手は限られてくると思いますじゃ?」
「ブルーブか」
「「「……」」」
ブルーブって確か、昨日ママルが言っていた北の蛮族の国って言う。蛮族ってそんなに強いの?それに狂人化って何よ。ヤバそうな薬って事は分かるけれど、争いに卑怯ってのもおかしいのかな。
「まあ、長くは門も封鎖できぬだろう。とにかく全力でその2人を探し出すんだ」
「後は、最悪な状況への対処ですな」
「そうだなママル。提案を先ほど聞いたがそれで皆も良いんだな?」
投げかけた質問に沈黙が肯定の意思として受け入れられる。
「分かった。それでは、ギレアム。そして……マリーナにも関係する事だ」
「はい」
いよいよ、呼ばれた理由についての話らしい。
「ああ、それでは私から話そう。先日、後ろに控える巫女が神託を受け、内容を国王へ報告した。まだ、判明した神託もまだ全てでは無いが、ここにおられるママル殿にもご相談し2重3重にも対策を取る必要が有るだろうと言う結論へ至った」
うん、ギレアム叔父様が話している内容は昨日の様子から知っていた。ママルも呼ばれていたみたいだったし。
「ほお、神託が。で、対策とは?」
「最悪な場合、戦争が起こる事を考慮し、アブロニアス王国との紛争も含めた同盟強化と国の存続です」
「戦争ですか?本当に起こると?」
「これは対策としての話だがな。何事も無ければよい」
お父様も賛成している案なのだろう。でなければ、この会議に提案として出てくるはずもない。ここは方針の統一の会議でもあるからだ。
「それで、具体的には?」
「第1に第1王女マリーナ姫様を隣国アブロニアス王国へ留学させる事。第2に私の代理として養女である巫女レーネを随伴させる」
「王女ならまだしも巫女までも隣国へ向かわせるのか?」
大臣の一人が訝り質問する。確かに、今まで巫女の存在は秘匿し国外へ出た事は無かった。なるほど、私が呼ばれたのは隣国へ行かせようとしているからか。って!レーネって養女だったの!?関係だけなら従妹じゃない!
アリシアは、話が分からない様子にポカーンとした表情をしていた。
「アブロニアスが巫女の術をもし知っていても奪えぬよ。それに、神託を信じるならば話は別だがな」
「そ、そうなのか」
「あくまでレーネは私の代理として行ってもらう。代理とは言え神官の代理に危害を加えはすまいよ」
「なるほど、お二人が行ってくださるならば国の代理としては十分な方々ですな!」
「そういう事なんだが、ママルからもマリーナが外の世界を見てみたいと言っていると聞いていてな。しばらく会えなくなるのは寂しいがどうだ?」
急に降ってわいた隣国への留学の話だった。しかも、恐らく同盟親書を持たされて国の代表?(命綱)的な存在として扱われるのか。確かに、16歳と言うと貴族の社交界へデビューの話も有ったし、第1王女なので婿取りの話もあってもおかしくないなとは思っていたけれど。
もしかして、後々アブロニアス王国の誰かと結婚しろとか言わないよね?それに昔、確か御爺様の妹が恋愛で嫁いでるらしいし、今は大丈夫でも有り得そうで怖い。
「帰ってこれますよね?」
色々な意味を込めて聞いてみる。戦争で国(家)が無くならないよね?急に結婚しろって言わないでね?まあ、これはもしアブロニアス王国から何か言われても過保護ならたぶんお父様は渋る内容だとは思うけれど。
「もちろんだとも」
「お姉さまどこか行ってしまうんですの?」
「隣の国へ勉強に行ってきなさいって」
「えっ?本当ですの」
無言の返事が会議室の中をしめる。すると、アリシアの鼻をすする音がこぼれ始める。
「ぐすっ、わたし、も、いきたぃ。ぅぅ。お姉さまぁ、いやぁぁ」
周囲の大臣たちや将軍たちも腫物に触れるような表情でアリシアを見つめ、そして、国王を見つめる。
いやあ、泣かれるほど好かれているのも、私は何も出来ずアリシアの肩を抱いてあげる。
「あー、アリシアはまだ、小さいから……家に居よう、な?」
「いやぁぁ」
雰囲気はもうすでに厳重な国の会議室では無かった。お父様はアリシアも同席させて説得できると思っていたのだろうか。きっと事件とか難題続きで、一番重要な問題を簡単に見ていたって奴だ。
あるよね、これ簡単って思ってたら第1問からつまづくとか。国の会議がテストの解き方と重なってしまう。
「お父様、仕方ありません。一度アブロニアス王国へ私とアリシアとで行ってみてはどうでしょう?落ち着けば色々と思う所も有るかも知れないですし。お父様の顔を見たくなるかも知れません」
逆にホームシックになる可能性が高いと遠まわしに言ってみる。私でさえ城から出されずに育ったのだ。知らない土地にしばらく居ろと言われてホームシックにならない自信が無かった。
「うむむ、そうだな。それではアリシアに関しては期日は無い物として対応してくれて構わない」
「ぉ姉さま、私も、いっしょに行けるんですの?」
「ええ」
嬉しさのあまりか、涙をこぼしながらアリシアが抱き着いてくる。
周囲の大臣たちも、ほっと安心したような表情をしていた。なんだかんだでアリシアは愛されて育っているのを実感する。あれ、私はどんな感じで育ったっけ?周囲からいつもビックリされてた事しか覚えていない。
「それでは、護衛を何人程用意すればいいのか。馬車と人も確保しなければ」
ガリント将軍が、限られた予算から人員を考え始める。
「将軍、それは何とかなるだろう。一応、見積もりだけは考えておいてくれ」
「は、はぁ」
お父様の将軍に言う案がどういうものかは分らないが、確かに、馬車や人は必要だろう。まさか、歩いて行って来いとか言われたら、留学云々よりも家出してやると決めたのだった。




