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魔陣の織り手:Magical Weaver   作者: 永久 トワ
王女マリーナ編
86/137

9

遠くで戌ノ刻(20時)を告げる街の鐘が響いて聞こえてくる。場所は街の北外れにある館の前に来ていた。街路から眺める屋敷には明かりは無く空き家にしか見えない。しかし、我々騎士から言わせると、この場は『石商の別荘』と秘匿される国の重要施設だった。

別荘というには荒れた庭が広がり、すでに日が落ちた今はわずかに光を反射する窓輝きも暗闇が占めていた。


『ココ隊長!』

『どうだ?中に居るのは間違いないんだな?』

『5名のを確認、商品を物色・・していると思われます』


 今自分達が居るのは、屋敷の向かいにある住宅の空き部屋の一室である。今この部屋には小隊の部下5人の騎士が待機し私の到着を待っていたのだ。


『隊長、どうして今夜、客が来ることが?』


 本来、待機状態の時に発する質問ではないが、張り込んでいた施設に当たり前の様に侵入者が来た事が腑に落ちなかったのだろう。


『昼間にあまりにも間抜けな人たちが居たのよ』

『はあ?』

『さあ、皆準備は出来ているわね?包囲は?』

『共に2小隊が裏を包囲しています』


 部屋の中に居る5人がそれぞれ頷く。屋敷へは合計2小隊の10名での突入となる。相手は5名、一介の盗みの人数とは思えない。何としてでも捕獲し背後の組織を割り出す必要が有った。

 今まさに窓から離れ突入するために一階へ移動する時だった。振り返った途端、轟音と共に窓の木枠が衝撃によって吹き飛んだ。


ドオオォォン!

「くっ!」

「「「うっ!!」」」

「行くぞ!!」


 先手を打たれた。そう思った。まずは体勢を整えるのにも一階へ急いで降りる。私がまず見たのは、屋敷の入り口がなんらかによって吹き飛んでいた状況だった。破壊された壁には炎が燃えている所もある。すぐに鎮火しなければ大事になる可能性もあった。

 しかし、屋敷の破壊された状況よりも、眼を引いたのは入り口付近に立つ5人の人影だった。


「動くな!建造物への不法侵入、破壊の疑いで捕縛する!ゆっくりと出てこい!」

「……」


 ピクッと5つの影が動きを止めると、無言のまま、その内の3人が前庭の薄明りの中へと姿を現す。表情までは見えないが中背で3人共にローブを纏っていた。


「その場に膝をつけ、他の二人も出てこい!妙な真似はするな!」


 私が左手をあげると同時に、後方に列を成した騎士たちが魔石銃を構える。しかし、制止も聞かず、3人のローブの男達は懐から青い液体の入ったアンプルを取り出す。


「撃てぇ!!」


 振り下ろした手の合図と共に賊達へ銃の魔陣効果が発動する。捕縛の為に雷撃に合わせてあった稲妻の瞬きが3人のローブ男達へ襲い掛かる。しかし、私はその瞬きの直前に見たのだ、アンプルに入った青い液体をそれぞれの男達が飲み干したのを。


「どうだ?」


 いくら何かの薬を飲んだからと、雷撃の魔石銃の直撃を受けたのだ。無事である方が可笑しいと思える。

 しかし、巻き上げた土埃が晴れるにしたがって、直撃を受けたはずの3人の男がいまだに立っているのに気付く。しかし、ローブ自体は所々破け、当たった一部は赤黒く変色しているのが見えた。避けたわけで無い事に気付く。


「いいか!その場に伏せ……」

「グルルルッルァァァアアアアァ!!!」


 赤く輝く瞳へ変わり、犬歯と唾液を剥き出しに3人の男は駆けて襲い掛かってくる。


「各自対処!制圧!!」

「「「「「オオオォォ!!!!!」」」」」


 一番前に居た自分に腕を振り降ろしてくる。刃物は所持してはいないが、明らかに賊の精神は正気では無い。それを銃剣を縦に腕が振り下ろされるのを防ぐ。

 次の瞬間、拮抗したとは言い難い想像以上の腕力で銃剣と体ごと後方へと吹き飛ばされる。


「グッ!気を付けろ、魔石甲冑を着ている!」


 攻撃を受ける瞬間、敵の腕の防具に魔宝石が埋め込まれているのを見つけたのだ。2射3射と雷撃を狙い撃つ騎士達にも迫る男達の姿に焦りの表情が浮いてくる。


「前衛!剣で押しとどめよ!その間に陣式を炎へ変えるんだ!」

「ガァアアア!」

「うぁぁああ」


 倒れるまま出した指示に、何とか賊の勢いを殺そうと、騎士の一人が長剣で切りかかる。しかし、防具を装備しているとはいえ、素手で長剣の勢いを受け止め手の平の根本まで長剣がめり込んだまま賊は剣を片手で剣を掴み騎士ごと横へと払い投げる。

 後方では魔石銃のボルトアクションを引き、銃に装填していた雷撃の陣式金属:ビュレットを取り出す。その金属毎に施された細い溝を魔力が流れる事で疑似的に魔陣を銃身内で構築し効果として敵に放つのだ。その為に、使いたい内容によって弾を交換する必要があった。


「くそっ!化け物め!」


 剣ごと薙ぎ払われる騎士を見た後衛の騎士が慌てる指で炎のビュレットを押し込む。そして、今まさに二人目が薙ぎ払われるタイミングで引き鉄を引いた。

 入れ替えた炎の弾へ魔力が流れ、銃身内に魔陣が形成される。そして現れた火球が賊の一人へと放たれた。


ゴオォォ!

「グガァ?」


 賊の左手を振り降ろした状態へ火球が当たる。気付かれていたならば避けられていたかもしれない。しかし、運よく左肩から腕へと直撃し火球が爆ぜた。


バァン!


 先ほどの雷撃と比べて身体の内側から爆ぜるような音が響く。直撃を食らった賊は、左腕が垂れさがり、挙上する部分の筋肉が火球の爆発によって損傷した事がわかった。


「やった!効いたぞ!」

「バカ!気を抜くな!」

「え?」


 気を抜いた騎士の横にもう一人の賊が襲い掛かる。殴られる訳では無かった。銃を持つ手を怪力で握られそのまま外側へねじ切るように捻られる。

 周囲にその騎士の手首の骨が折れる音が響き、握れなくなった銃はそのまま落ちるかに思われた。


「ギャアアァ!!」

「やめよ!撃つな!」


 いまだに手を握られている騎士への同士討ちになる事を懸念して後衛の術を制止する。賊はその落ちるかに思われた魔石銃を牙でくわえ大きく後ろへと飛び去った。

 他の二人の筋肉が化け物と変化している賊も、一人のその行動を確認したのか一気に後方へと飛びのいた。


「今だ!撃……」

『なかなか良いですね』


 射撃を命令する言葉を邪魔され、予想外に屋敷から出てこなかった残りの二人が暗闇から出てくる。遠慮せず魔陣を放つべきタイミングだが、放つタイミングを少しでも逃してしまえば、避けられることは必至だった。


『全く、まさか罠に掛かっているとは思いもしませんでしたよ』


 その男が何かを放り、化け物の賊と騎士達との中間あたりへ落ちる。落ちたそれは、魔石銃の銃身の部分だった。しかし、落ちたそれには肝心の劣化魔宝石がはめ込まれていない。


『まあ、おかげで一戦する羽目になってしまいましたが、お目当ての物も手に入りましたし良しとします』

「何が目的だ!?」


 うっすらと分ってはいたが、相手に話す気が有るのであれば言ってもらうに越したことは無かった。


『フフ、これですよ?』


 明かりの元に出てきた痩身の男は、賊の一人が咥えた魔石銃を手に持つ。その時、わずかに銃身の魔宝石が鈍く光るのを確認した。

 しめた!もしや、相手は銃に仕掛けられた細工を知らないのかも知れない。我が国が戦場で魔石甲冑の技術を盗まれた教訓から、予防策を魔石銃に施しているのだ。


「貴様らは一体?それにその男達は?」

『おっと、時間稼ぎですか?裏に居るお友達たちも加わったら、いささか面倒ですからね。早々においとましますよ』

「待て!」

『あーそうでした。確かここをこうやって』


 魔石銃のボルトアクションを引き、装填されたビュレットを取り出す。


『知らないと思いましたか?全く、持ち主から離れると、蓄えられた魔力で鍵となる弾を自壊する仕組みとは敵ながら少しは考えたものです』

「くっ」

『まあ、この屋敷に忍び込んだあと、嵌められたとは思いましたが、残念詰めが甘かったですよ。さあて、この狂人バーサーカー達相手にその人数で勝てますかね?まあ、健闘してくださいよ』


 そう言い終わると、痩身の男は屋敷へと引き返していく。この場で、逃がす訳にはいかなかった。賊の狙いが魔石銃の技術の要というべき、術式のビュレットを盗まれたのだ、すぐに複製されるとは思わないが。敵勢力にこれ以上力を与える訳にはいかなかった。


「う、撃てぇ!逃がすな!」


 体勢を立て直した騎士達の魔石銃から一斉に炎の魔陣が解き放たれ賊達へと襲い掛かった。

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