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魔陣の織り手:Magical Weaver   作者: 永久 トワ
村の復興と噂の毒編
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12

 木張りの廊下を踏みしめる力にさえ感情の苛立ちの矛先を向けるしかなかった。いくら忙しいと言えども、2週間に一度行われる商業ギルドの集まりに参加しない訳にはいかなかった。隣をあるく幼馴染もこちらの苛立ちからか先ほどから、どのように声を掛ければ良いか悩んでいる表情を見せていた。


「ルッツ、少し落ち着いたらどうだ?」

「くそ!隣町なら取引先が見つかると思ってたんだが、当てが外れた」

「厳しそうだな。大丈夫なのか?」

「親父には嫌味を言われるし、このままじゃあ冗談抜きで不味い」

「値段を落としてでも、ギルドに依頼を出したらどうだ?」

「原因のギルドに泣きついてどうする!?たとえ商品をさばけても利益なんてほとんど無くなってしまう」

「まあ、落ち着けその為の商業組合の集まりだろう?何か対策が有るかも知れないからな」

「ああ……」


 幼馴染のマンテロの言う通り、いつまでも腹を立てている訳には行かなかった。隣町へ出かけて探した取引先で売買が思う様に進まなかったのは自分の責任だからだ。

 少しばかり冷静に自己反省する事が出来はじめ、廊下の突き当りの話し合いの行われている部屋へ到着する。


「遅くなりました」


 一応部屋に入ると同時に礼儀として挨拶を行う。大手の主人のいる商店はすでに話し合いの部屋へ来ていた。まだ、開始時間前だが自分達二人が一番最後に来たみたいだ。すでに自分達以外の席には、各商店の主人達が座り一様に端に座っている面々に視線を送りヒソヒソと耳打ちを行っていた。


「うむ、ちと早いが皆そろったみたいですね。皆も気付いていると思いますが、今日は冒険者ギルドのマスタールワンナとギルド職員も同席します。よろしいですね?」


 司会役の男性が改めて話し合いの開始を告げる。確認した口調なのもわざわざ言わなくてもと思うが不用意な発言は慎めと自分に言われているようで気分が悪い。その声に、ざわついていた声をピタリと止み進行役に視線を送るもの、興味深そうに冒険者ギルドの面々を見る者達と様々だった。


「なあ、ルッツ?ギルドマスターと隣に座っている男性達を知っているか?」

「いや、一人は確かガイスとかいう部下じゃなかったか?もう一人は初めて見るな」

「同席するってなんだろうな?」

「さあな」


 薄々前に連名で提出した意見書への回答でもするのかと思いつくが、いまさら説明されたとしてサヒロス商店の厳しい現状を改善する事にはならないとつい睨んでしまう。


「ごほん!今日はまずは冒険者ギルドからの説明があるそうです。急ぎの討議が無ければこのまま進みますがよろしいですか?」


 いちいち確認しないでも良いと思うが、その質問に各商店は無言にて返答とした。


「それでは、ルワンナさんお願いします」

「ああ、ありがとう。今日は同席をお願いし承諾していただき、そして貴重な時間をもらいありがたく思う。幾人かは見慣れた人もいるかと思うが、私がアロテアギルドのギルドマスターを務めているルワンナと言う」


 大手商店の店主は頷くだけでルワンナの次の言動を待つことにしたようだ。ルワンナという女性は直接には面識は無かったが、眼鏡を掛けショートカットに髪を肩まで切りそろえていた。服装は女性には珍しく黒のスーツのズボンと上は袖がまくられカフスボタンにて留めてあるデザインである。第一印象は、性格のきつそうな女性だ。


「今日は、知っている人もいるとは思うが隣の村を盗賊が襲撃した事の経緯と、もう一つは競争取引法についての説明をさせて頂きたい」

「やっぱりな」


 マンテロの予想も当たっていたようだ。自分もようやく説明かとため息しか出てこなかった。周囲の商店の面々は自分と同じように落胆の表情をしている人も少なくない。


「本来なら、ギルドの責任者である私自身が説明する所だが、今日は当事者からの説明の方が理解されやすいと思うため別の者からの説明をお願いしようと思う。良いかな?」


 ルワンナの確認した先には、端に座っていた一人の男性が立ち上がる。先ほどルワンナの部下であるガイスの隣に座っていた男だ。自分と同じ歳の頃の男の手には幾枚かの紙が束になっていた。年齢的にはガイスの部下なのだろうか、やや緊張した表情で立ち上がると同時に商店の面々へ一礼した。


「彼は、この度キイア村の村長から選任された村のギルドのマスターをしてもらっているタモト氏だ」

「どうも、初めまして」

「タモト?」

「おい、タモト……って」

「キイア村の?ギルドマスター?」


 彼の紹介に、どこからともなく商店の面々が一気にざわつき始める。それもそのはずである。ここにいる商店の主達の中でタモトという名を知らない者は居ないはずなのだ。


「良いかな?それでは、説明をお願いする」

「はい」


 そう言うと、ルワンナと変わるように周囲を見渡す。その視線は先程までの緊張の様子はすでに無くなっていた。しかし、周囲は耳打ちし合う声が止むことが無く様々な彼への評価が囁かれていた。


「そ、それでは、皆さん良いですか?」


 司会を務める男性でさえ、突然の登場に周囲を鎮める事を上手くできないでいた。


「良いですかね?まずは今回のキイア村の盗賊の襲撃の経緯と結果の報告の方から」

「ちょっと、待ってくれ!」

「おぃ、ルッツ!」


 マンテロが止めるのも聞かず俺は司会の進行を止める方法でしか激情を抑えきれなかった。この男が考えたという競争取引法のせいで俺達は迷惑を掛けられていたのだ。


「襲撃の話は大体の噂で皆も知っている。ここにいる面々は、君の考えた競争取引の話が聞きたいと思うのだが?」

「あーえっと……どうします?」

「君に任せる」


 ルワンナは彼を信頼しているのか、それともあらかじめ話す内容をまとめて来ていたのか説明を変わるつもりや説明順番については気にしない様子だった。


「わかりました。それでは、まず自己紹介から。自分はタモトタカと言います。紹介に合った通りキイア村ギルドマスターを務めさせて頂いています」


 すでに周囲の耳打ちの囁きも無くなり逆に静けさが部屋をしめていた。参加している面々も一言も聞き逃すまいと鋭い視線を向けている。


「まずは、ご指摘のとおり競争取引方法を初めに取り入れましたが。そうですね……一方的に説明するよりも聞きたい事が有れば先に聞きます」

「ならば!なぜこのような競争取引を導入した!?」

「ルッツ君、少し冷静になりなさい」

「構いません。そうですね、これを配ってください」


 手に回ってきたのは、四角い線に×の様な図が書いてある。まるで子供の書いた落書きである。


「これは?落書きか?」

「これは、競争取引を簡単に説明するためのグラフです」

「グラフ?」

「縦線の横に書いていますが商品の金額と思ってください。横線が商品の個数です」

「ああ、確かに書いてあるが?」

「この線は商店が売りたい値段を高くすると、商品を買いたいと思う人は少なくなってしまう。逆に値段を安くすると人は多く買いたくなると言う事を書いています」

「まあ、そうじゃの」

「当たり前だ!それがどうした!」


 確かに言われた通り、その図には『需要』『供給』とそれぞれの線に名前が付けてあった。しかし、説明されたのは当たり前の事だ。


「良かった。ここさえ分かってもらえば話は早い。競争取引方法は商品の値段をどこまで商店が下げれるか、そして、ただ下げるだけでなくて商品を売った後も利益が得られるかが問題なんです」

「しかし、いま現にその取引が出来なかった商店があるんだぞ!?」

「そうですね、そう把握しています。でも、取引方法には期限を設けています。取引が出来た所は、今はただ貯まっていた在庫を減らせただけに過ぎないんじゃないですか?」

「言う通りじゃの、次は契約できるかどうか」

「競争取引の良い点は、アロテアの商業を活性化する作用が有るんです。でも、言われる通り商店にとっては価格競争は避けたい事です」

「分ってて、それでも取り入れたのか!」

「ええ、なぜなら個人商店に行くにしたがって雑貨屋の様に多様な在庫をそろえているようですね。売れれば悪い訳では無いですが、それぞれの店の得意商品があるにも関わらず余剰な在庫をそろえている店もあると聞いてます」

「そりゃあ、客が欲しがるから……」

「でも、安く多く仕入れた店が街中に有れば、そちらに客は向かうでしょう?」

「まあ、な」

「お伝えしたいのは、今回の競争取引方法は取引先が個人客では無い事です。多量に必要とする食肉店、治療院など多量の消費が必要となる所を取引先に選んでいます。なので、次の契約期日が来た時に必要な需要数を準備できる所が次の取引先になります」

「じゃあ、現に今売れない商品を抱える店はどうすればいいんだ?」

「個人客は買う人はいるんです。多量に在庫をさばけなくても、利益を減らし値下げすれば少しづつでも減るはずです。広告をすれば売れる数量は上がるはずです」


 同じく競争取引が出来なかった黙って聞いていた雑貨屋の店主が手を上げる。


「コウコクって何をだ?」

「決めた日に、特定の商品を安く売ることを伝えるんです」

「割引と違うのか?」

「ええ、割引は常時行っている印象を買い手に与えてしまうといけません、在庫一掃や棚卸整理など表現は何でも良いかもしれませんが、余剰な在庫を売り切ってしまう覚悟が有る事を買い手に伝えるんです」

「それで何が変わるんだ?」

「余分な在庫を整理できた利益分で別の商品を購入して、競争取引の準備にしても良いと思いますし、何より店の特徴の商品をそろえた方が良いと思います」

「ふむ」

「すまない、話が変わったみたいだが、結局は競争取引が出来そうにない小商店はどうすればいいんだ?」


 自分の周囲に座っている幾つかの商店の店主も聞きたくても聞けなかったのだろう、何人も頷き自分の発言に賛同していた。


「まずは余分な在庫を利益は少なくても処分した方が良いかと。それで、店の特色となる専門の商品をそろえれるならば買い付けた方が良いでしょう」

「俺は在庫を持って隣街に行っても、売れなかったんだぞ?」

「ええ、自分もアロテアの街にある商店の特徴を調べてもらいました」

「いつの間に……」


 横からルワンナの部下であるガイスの呟きが聞こえたが、すぐにタモトへ視線を戻す。


「必ず需要として必要としてくれる街や場所が有るはずです。買いつける前にギルドでの情報収集を同時に使いましょう。そうすれば無駄に売買してしまう事は無いかと。良かったですよね?ルワンナさん」

「あ、あぁ」


 結局は、先日依頼を取り下げたギルドに頼ることになるのか。しかし、まだ自分の心の中では完全にギルドを信用することが出来ないでいた。話し合いの初めに後回しにした盗賊への斡旋してしてしまったギルドのミスがあったからだ。

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