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俺の言った提言に、ルワンナさんもガイス主任も冷静に考えている様子だった。確かに簡単にアロテア内での皮商品の生産拡大はイメージが付きにくい。
「今は一部防具加工や撥水性の良いものは靴や雨具には加工しているが」
「そうですね。皮の性質にもよると思いますけど、以前自分が居た所では色々な物に加工していたので」
「タモト君、急に皮の産業を作り出すと言い出したのも、何か策があるんじゃないかな?」
ルワンナさんは俺を試すように問いかける。確かに俺が考えていた一つの案を黙っているのはあった。しかし、それを実現するのにもアロテアで集められる皮の種類や総量が関係するため、それを補えるだけの蓄えが有るのかどうか不安が有ったのだ。
「ええ、でも自分が考えていたのは、まだアイディアの状態で実現できるかどうかも」
「いや、構わない。今は案でもいろんな意見を聞く時だよ」
「そう言うなら。俺が考えていたのは、冒険者ギルドの発行するカードの専用のケースを作れないかと思ったんです」
俺はなぜケースを思いついたのかを二人へ説明する。
「今回、ギルドの個人確認の方法とカードを見させてもらいました。確かにカード自体に加工や細工を施す事を考えたんですが、さすがに出回っているカードの総数を交換する事は出来ないと予想したんです」
「それはそうだろう。カード交換も無料ではない。それに細かい細工を施すのであれば安くは無いぞ」
「はい、それでカード自体に加工が出来ないのであれば、それに付随する物を付ければ良いのではないかと思ったんです」
「ほお、それでケースか」
「はい」
「そうすれば、カードの方の偽証の対応はどうする?何も手を加えないのだろう」
「そうです。それで皮のケースの方へ偽証が出来ないような細工を行う方が良いのではないかと思ったんです」
「それはどんな細工なんだい?」
「一番に考えたのはアロテアギルドのシンボルを刻印したり、とにかくアロテアで発行されたカードで有る事が分れば」
「ちょ、ちょっと待ってくれタモト君。君が考えているのは聖アブロニス王国全体のギルド全体への仕組みの変更を考えているのか?」
「あれ?そういう話では無かったんですか?アロテアだけカード対策やケース付きに変更しても意味が無いでしょう?」
ルワンナさんはいきなりの俺の言葉にこめかみを押さえ眉間に皺をよせる。ガイス主任さえ口を半開きにして愕然とした表情だった。
「俺は、それでアロテアで皮加工の供給量が国中のギルドへの対応できるかを心配してたんですが……」
「ハッ、ハハハ……聞いたかガイス?」
「はぁ、確かに偽証防止の為には、そう言われればその通りですが……」
「タモト君一応聞いてみるが、国中にいくつの冒険者ギルドが有るか知っているか?」
「それは研修の時に教えてもらいました。アロテアと首都も含め7つですよね?」
「そうだ。キイア村の様な村単位であれば30は行くだろう。冒険者の人数はここアロテアでも千人は超えるんだぞ?首都だともっと居るし簡単に考えても1万人分を超えるんだぞ?」
「そうなんですよね。なので、全員が一気に変更するのはさすがに無理があるんです。カードの新造という手も、加工に時間と費用が掛かり過ぎて」
「とにかくだ、現状ではタモト君の案が最良らしい事は理解した。まずはだ、アロテアの現状をどうにかせねばならない、偽証防止の件もアロテアだけで決めれる事ではないからな」
「マスター、二日後に商業ギルドの集まりに同席をお願いしていますが、タモト君も同席してもらってはどうでしょう?」
「そうだな、おそらく盗賊襲撃についての詳細説明を求められるだろう、襲撃を受けた当事者からの意見と村長の今後の対応を皆に説明してもらえると助かる」
一旦、ギルドカードの偽証対策は持越しになった様子だった。確かに、今の問題はアロテアギルドの噂や依頼の取り消しが行われる現状を解決しなくてはならない。アロテアギルドに居て、報告だけを受けていた二人には説明は出来ても商業ギルドの人達へ納得される印象を与えづらい事は想像に難くない。
「わかりました。わかる範囲で説明させて頂きます。あ、話が終わりなら一つ良いですか?」
「何か気になる事でも?」
ルワンナさんは冷めたカップを口に運ぶ手を止めて聞いてくる。
「倉庫にあった、アロテアギルドの収支報告を見せてもらいたいんですが?」
「だそうだ、私は構わないが?ガイスはどうだ?」
「私も構いませんが、何か気になる事でもあるのですか?」
「いえ、ぼんやりとしたアロテアの街のイメージが、はっきりと見えそうな気がして」
「そうか!まあ、やましい事は無いが口外しなければ問題ない。私はてっきりガイスのヘソクリ資金でも見つけれるかと期待したよ!」
「そんな物は有りません!」
「ハハハ!」
ルワンナさんの珍しい笑い声がギルドマスターの執務室の中に響く。1階でゴミを漁っていた職員は、とうとう気でも触れたかと心配そうに2階を見上げたのは執務室の3人は知る由も無かった。
「あのー?」
「なにタモト君!?まだあるの?」
「もう、寝に行って良いですか?眠くて眠くて……」
その日、珍しく依頼の報告に来た冒険者が見聞きしたものは、ゴミを漁る職員の姿と1階まで響くギルドマスターの笑い声だったという。




