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魔陣の織り手:Magical Weaver   作者: 永久 トワ
召喚編
7/137

6

 日は徐々に暮れる頃には、暗くなると危険だからと集められた人達は解散となり。俺は土木作業を終えて、ようやくユキアの家に戻ってきていた。

 作業自体は途中遠くで崖崩れがあった以外に問題も無く完成し終えることができた。しかし、一番簡単な作業を割り振られたが、慣れない作業を一日やるだけで肩と腰が筋肉痛になっていた。防水用のコートを着ていたが中に着ていた洋服も、汗と振り込む雨で不快極まっていた。今はただ無性にお風呂にはいりたい欲求にかられていた。


「あぁ、風呂に入りたい。」

「おにぃちゃん、フロって何っ?」


 俺が湯に肩までつかるんだよと説明すると「何が良いの?」と笑っていた。防水のコートを玄関脇に干しながら、ユキア分のコートが無い事でまだ帰ってきていない事に気づく。

 この3日の間、村の中を案内してもらっていたが、いまだにお風呂のような物を室内にも野外にもキイア村で見たことは無かった。

 変わりにユリアの家では、大人が入って座れる程の大きいおけに湯を張ったものを貸してもらえ、腰周りまでしか湯が無いがそれで汗を流しお風呂代わりにしていた。さすがに、湯船に入ったりシャワーで全身を洗う事に慣れていた自分には凄く違和感があり、この数日使わせてもらっているが違和感ばかりで慣れていない。


「ねえミレイ、せっかくだから魔法の練習していいかな?」

「急になに?改まって言われるとむず痒い」

「いあ、せっかく水の精霊の大先生がいるからさ、水のことはベテランに聞けってね」

「キャハハ、ウチが先生!?おっほん、何でも聞いて!」


 えへん、と小さい胸を張りながら上機嫌にミレイは俺の肩へ移る。


「じゃあ、先生ぇの言う事は聞くんですよぉ?」

「はいはい」


 などとミレイは冗談を言いながら嬉しそうに飛び回り、すると玄関から俺達の笑い声が聞こえたからだろう、奥からユリアがタオルを持ってきてくれ手渡してくれた。


「ただいまです、ユリアさん。すみません体を流したいので桶をお借りします」

「大変だったみたいね。全然かまわないわ、ユキアも帰ってくるころだと思うから湯を沸かしておくわね」

「あ、俺の湯はまだいいです」

「そうなの?」


 でわ、と言いながら台所の横に立てかけてあった桶を部屋に運び持っていく。


「あれ、おにぃちゃん、湯は今から沸かすんじゃないの?服脱いじゃうの?」

「あー試してからの方がよかったか、まあいいや」


 試してみてからが良いなとは思っていたが、さすがに肌に張り付く衣服の不快感にすぐにも脱ぎたかったのもあった。

 まあ、だめな時はミレイにお願いしよう。昨日の午後からユキアの父親の書斎にある魔法書を読み漁って、試してみたいことがいくつかあったのだ。


「なあ、ミレイ大先生。魔法って自己暗示による魔力の活性化と言葉による魔法イメージの強化なんだろ?」

「えへんーよく知らないけど、精霊はこうしたいって願うだけで魔法が使えるよ?」

「そうなんだよな、俺はユキアとユリアさんしか知らないけれど。なんで人は魔法の詠唱が必要なのか不思議に思ってたんだ。魔法陣は、現象を起こす呼び水にしてもね」


 俺は考えていることがあった、最低魔力での魔方陣の形成は必要なのだろう。しかし、詠唱は二つに役割が分かれ、これから魔法を使うという自己暗示と現象のイメージである。俺にとって、魔法は未知の現象だったが、魔法を使うというスイッチの開発と現象のイメージを工夫することでより短くできるのでは無いかと思うのだ。


「で、ミレイ大先生にお願いしたいのは、今から描く魔法陣におかしなところは無いか教えて欲しいんだ、出すイメージは温かい雨って感じで」


 そう、俺は魔陣でシャワーを出そうと思っていた。たぶん、今まで魔法をそのような使い方をした本の記録はなかった。水を出す、お湯を出す、水の塊を投げる、他の役割には治癒系の役割も水魔法には多かった。

 唯一、今一番俺に不安な事は魔力の銀糸がうまく操れるかどうかだった。

 本を読みながら感じた不安のほとんどがその事だった。だから、昨晩は、ベッドに寝ながらミレイを空中で銀糸を使って追いかけるように遊んでいたらなんとなく感覚をつかめるまでになった。

 練習という名の魔法の銀糸で飛んで逃げるミレイを捕まえる遊びになったことは内緒である。それを部屋が騒がしく様子を見に来たユキアに見られたときは「そんな練習はしません!」と凄く呆れられていたけれど。


「こんな感じか?」

『水魔法、適温、流水』


 桶の中に胡坐をかきながら。空中に魔方陣をたどたどしく銀糸で描いていく、初めての実践と創作魔法は時間がかかるがワクワクする。立ちながらだとおそらく周囲は水浸しになりそうだし、でも、早くしないと裸な俺は風邪をひきそうだ。


「あーそこ、水を細かくしないとドバーって出ちゃうよ。あと、一瞬で終わっちゃう」


ミレイが魔方陣の一部を指差しながら教えてくれる。


「そっか、水の大きさと、時間ね。時間5分位ってどんな字だっけ?」


 ミレイに聞くと、えーとと少し悩み空中に文字を描き始める。読み取った文字は『時間:5分間』おー、精霊も魔力の光が出せるんだな。手元が小さくて糸なのか光なのか見えないが。今度時間の文字も習う必要があるなとしみじみ思う。


「じゃあこれでやってみるか。詠唱はどうするかな」


ユキア達に習って、自分も魔法の文を考えようとするがイメージなんてすぐ沸きそうもない。慣れ親しんだ言葉でやってみようと思う。


『水魔法、適温、流水、5分、拡散』

「じゃあいくぞ、『魔力よ!ウォーターシャワー!』」


 やはりシャワーの言葉が一番だ。たぶんユキアにとっては「シャワー??何ですかそれ?」だろうが。俺にとってはなじみのあるイメージだ。魔力を使うときの言葉はもう気合いしかないだろうと思った。ドクンと膨れ上がる下腹部の魔力が両手を伝わって魔力の銀糸へ満ちるのがわかる。おぉー、こんな感じか。

 そういう間に水蒸気が頭上に集まっていきポツポツと水滴が落ち始める。次第に水量は増えていきシャワーの様だと言うより雨のようになった。しかも、現代の様に配管の水圧が無い分温かい雨である。時間を設定したことで、その分の魔力を消費したのか倦怠感はあるが、両手を下ろしても魔方陣は消えなかった。


「うぉーこれ良い!良いわー!」

「おにぃちゃん、部屋の中に雨を降らせて喜んでるなんて、変なの、キャハハ」


 ミレイにはこの素晴らしさがわからないようだ、俺は始めての魔法が完成したことの嬉しさと。久々のシャワーで気分は絶好調だった。さすがに5分では短く感じたが、2回目の魔方陣は割りと早めに完成できたそれでも、「そこ違う」とミレイに指摘を受けながら、文字の部分は練習しないとなと自己反省である。



 しばらくして、シャワーを終えて初めて魔法が使えましたとユリアさんと食卓で雑談し「今度見せてくださいね」と話をしていると、ガタンと扉を開けてユキアが帰ってきた。


「お帰りなさい」

「お帰り」

「ただいま、お母さん。タカさんも無事終わったんですね」

「ユキアも遅かったわね?」

「避難誘導だけじゃなくてね。夕飯の準備まで手伝ってきたから」


 と雨に濡れ顔に付く銀髪を掻き分け、俺が先ほど干した場所の隣に同じくコートを掛けている。


「お湯を沸かしてあるわ。先に体を拭いてきたらどう?」

「うん、そうする」


 ユリアさんはタオルを渡しながら、俺は先に済ませたと伝えていた。


「俺が運ぶよ。」


 湯桶を先ほど終わって台所の脇へ立てかけた所から、俺はユキアの部屋まで運ぶのを手伝う。意外とこの湯桶は重いのだ。日頃ユキア達はゴロゴロと転がしている。水を捨てるときは二人でやっているらしい。


「ユキアの方は、宿屋の仕事は大丈夫だった?」

「はい、避難誘導だったので危険なことも無く。いま40人くらい宿屋に避難してもらっています。2人部屋に4人ずつ、最悪もう少し増えると満杯になりそうですね」

「そっか、何も無いといいけれどね」

「ええ。あ、タカさんここで良いです」


 ユキアは振り返り部屋の前で止まる。ふと、ユキアの顔を間近に見えぬれた服が体に張り付いてスレンダーな体躯を浮き彫りに引き立たせているのに見惚れてしまった。

 後姿からはわからなかったが、服は厚生地だったので肌が透き通ることは無かったが、胸やおへそ、太ももにいたるまで肌に張り付いて綺麗というか艶かしい。表情は疲労のためか上気して赤みがかり、掻き分けた銀髪が数本まだ張り付いている。


「ュ、ユキア、はっ、早く温まった方が良いよね」

「ん??そうします。じゃあまた」



 ▲



 私は部屋に入ると、先ほどのタカさんの様子がおかしかった事に疑問を感じていた。普通に話をしていたのに途中、視線が泳いでいたし、何だろう私をチラチラと見ていたけれど?変な物も置いてないはずなんだけどな。着替えの準備をしているとお母さんが、湯を持ってきてくれた。


「ユキア、早く暖まりなさい。タカさんが目のやり場に困っていたわよ。フフフ、若いっていいわね」

「うん??」


 フフフと笑いながら去っていく母親を見たあと、ふと部屋にある鏡に視線を移し驚いてしまった。まだ、服を脱いでいなかったが、服が体に張り付き不快感はあったが体のラインを浮き立たせ。濡れた髪は上気した頬と可愛さよりも大人の雰囲気を漂わせている。これをタカさんに見られていたかと思うと、カァー、っと全身に恥ずかしさがこみ上げてきた。


「ひゃ~、はずかしぃ。でも、タカさんもこんな私にドキドキしてくれたんだ」


 自分の秘めた魅力に気付いたユキアと今まで胸の小ささに少し不安を感じていたが、嬉しさがこみ上げてくるのだった。


 タカは初めて魔法の使えた嬉しさと、ユキアは自分に秘められた魅力の発見とかすかな成長の期待とでワクワクしながら2日目の夜が過ぎていくのだった。

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