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「キイア村にはいつ頃行く事になるんでしょうか?」
「何だ?今すぐにでも行きたいのか?ところがまだ準備が整っていなくてね。ふむ、今日は昨日の事もあるからカウンターは別の者が引き継ぐ予定なのだろう?」
「はい、さっき先輩にそう言われました」
昨日、出張の件への驚きに意識を失ったことで他のスタッフに体を休め大事を取るようにと勧められ、午後からのカウンター業務は外されることになったのだ。そのため、ガイス主任との件が終われば、この後は雑務しか予定がなかった。
「ならば丁度良いかもしれないな。今日はキイア村へ行く準備として別の仕事をやってもらおうか、それ次第では出発も早まるかもしれないからな」
「なんでもさせて下さい。準備と言えば荷物の手配とか馬車の確保とかですか?」
思いつくのは村へ運ぶ物資を積み込む荷馬車や御者の手配なのだろうかと思ってしまう。自分とジーン先輩の他に支援の荷物を運ぶとなれば1台では馬車が足りないだろう。
「そうだな。それもお願いしたい件だが、アロテアに住む建築士の所を巡ってキイア村の復興に助力してくれる人材を探して欲しいんだが」
「え?人材って、それも建築士のですか?」
「あぁ、そうだ。君たちはギルドへの支援であり、村への実質的な支援は建築士の人材をと考えている」
建築士というと、村の主要な建物を設計したり改築修理を考える人達である。主に力仕事で実際に建築する大工とは異なり、各建物の耐久計算や建物のデザインもそれぞれの建築士の感性に任されるものになっていた。
建築関係に素人である自分にも、今回任された人材探しが難題である事がわかる。普通に依頼をしても、1月や2月以上先の予約で一杯の建築士が多いという噂を聞いた事がある。
「あのー幾つか候補に挙がっている人達が居たりしますか?」
とりあえず僅かな希望を持ってガイス主任へ聞いてみる。相手先へギルドからの連絡がすでに行っていたり、ギルドからの報奨金がある程度あれば話は簡単に進みそうだからだ。
「いや申し訳ない。つい昨日にギルドの方針が決まったものでね。急いで君たちに声を掛けたのもその為なんだが」
「はあ」
「結局のところ、ようやく建築士のリストが出来たところだ。この人たちの所へ訪ねて意向を聞いて、良ければ話を決めてきてくれて構わない」
ガイス主任はそう言うと、一枚の紙を渡す。その一面には6人の名前が記載してあり、恐らく建築士の人名なのだろう。6人であれば今日中に巡る事が出来るだろうが、果たして上手く契約してくれるだろうか。
「あのー、ところで建築士の方を雇う報酬はいくらまで可能ですか?」
「今までの案件の報酬から計算したが、20~30金が平均的みたいだな。今回は出張でもあり、期間も不明ではあるし一応当初1ヶ月期間の45金で当たってくれ」
「分かりました」
「期間が一ヶ月以上になる場合は、その後はタモト君へ任せる事にする」
お辞儀をしてガイス主任の机を後にする。手渡された紙に書かれた6人が多いのか少ないのか分からない。しかし、何十人訪ねたとしても腕の良い建築士を村へ連れて行きたいと思ってしまう。ひとえに、タモトさんが喜んでくれる姿の為である。
期待に緩む表情のまま、雑務を手伝うと言っていた同僚の所へと断りに向かうのだった。




