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魔陣の織り手:Magical Weaver   作者: 永久 トワ
キイア村受難編
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「何だ!この炎は!?」

「団長ぉ!火が!火がぁ」


 オニボ団長がガールを組み伏していた自警団員に駆け寄り炎を消そうとするが、自警団員の袖に燃え移った異様な炎は、小さくは成るもののなかなか消えなかった。


「早く、服を脱ぐんだ!」

「は、ハイ!」


 小さな炎ではあったが、オニボ団長の袖を叩く消火にとうとう消す事を諦めた様子で衣服を脱ぐように伝えている。自警団員の脱いだ後の衣服は、降る小雨の中濡れた地面の上でも消える事なく燃え続ける。


「タカさん、あの火は?知ってるんですか?」


 俺とミレイの言葉が聞こえたのか、周りに居たユキアやサオ、サニーの視線も俺を見つめていた。しかし、なぜガールが魔宝石を持っていたのか、ましてや、ガールのとった行動でこの惨劇を招くなど想像に出来なかった。


「あれは、恐らく魔宝石が作り出した炎だと思う」

「タモトさん、魔宝石と言うとこの前見せてもらった物ですか?」


 ハントもまた、盗賊達の制圧をシス達へ任せ燃え続けるガールだった姿を見つめていた。


「ええ、最後にガールが口に含むのを見たんです。まさか、こんな事になるとは」


 ガールから燃え広がった炎は、傍に居た自警団員だけで無く、四方にあった民家へ飛び火している。今もなお雨の降る中、徐々に炎は大きくなろうとしている。


「しかし、なぜガールが魔宝石を?」

「もしかすれば、アジトから持ち出していたのかもしれません」


 ロイドはサニーの傷を介抱しながら、思い出したかのように言った。


「以前、ガールが宝石商の荷馬車を襲った際、良いのが手に入ったと自慢していたのを聞いた事が有ります。まさか、それが魔宝石だったのかもしれません」

「そんな事をしていたのか!?」


サニーは初耳の様にロイドの告白に驚いている。恐らく宝石商の荷馬車を襲った事は知らなかったのだろう。


「お嬢、すみません」

「う、うん」


 サニーは、急なロイドの告白に動揺を隠せず言葉を濁し頷くしか出来ない様子だ。


「しかし、雨も降っている。しばらくすれば鎮火しそうじゃないか?」

「そうだと良いんですが」


 オニボ団長の期待的な言動に、俺は果たして消えてくれるだろうかと思ってしまう。何せ、ガールの最後の言葉が耳から離れないのだ。


『燃えろ!全て!』


 今にも叫ぶガールの姿を思い浮かべることが出来る。魔宝石の生み出した炎に怨念が篭っているとは思えないが。今もなお、濡れた地面で燃え続ける衣服や、周囲の家々で燃える炎が不気味に思えてならなかった。


「オニボさん、広がる前に念のため消火しましょう」

「そうした方が良いか?まあ、何とか盗賊達も駆けつけてくれた人達のお陰で落ち着いて来た所ではあるが。おい!手の空いた者は、避難した村人に下山準備をするように言ってくれ。ハントさん、申し訳ありませんが、村の中に盗賊の残党が居ないか確認をお願いできますか?」

「わかりました」




 しばらくして、ハントやシス達の確認によって村の中の安全が確保された後、村人達が下山をしてくる列を俺は見つめていた。自警団員の面々は、次に消火するための準備のため大小の木のバケツや桶を集めている所だ。

 傷を負ったダルとサニー達は、念のため近くの家屋のベッドを借りている。それぞれに、サオとロイドさんが付き添っていた。魔陣の使えないユキアはそれに付き添って看病している。


「おい!来てみろ!この火、ただの火じゃないぞ!」


 ようやく近くの民家を全焼し、火の勢いは小さく成るかに見えた。初めは、互いに民家同士が離れていた事で燃え移ることは無いだろうと思えていた炎は、舞い上がる火の粉が意思を持つように移る可能性の低い隣の民家へ飛び火したのだ。

 今まさに、その火災を鎮火しようと水を掛けていた自警団員の声が聞こえてきたのだ。


「どうかしたんですか?」

「あぁ、タモト君。見てみなよ、まだ、こんな小さい火なのに水をかけても消えやしない。おかしくないか?この火は」


 自警団員の言うとおり、まだ炎の大きさは10cmを超えた位である。しかし、水を使って消そうとするが、一時的に炎は小さくなるものの完全には消えず再び元の大きさへと戻るのだ。


『コレハ魔力ノ炎ダ』

「スノウ」


 盗賊制圧後、しばらく見かけないと思ったスノウは、思考に響く声が聞こえたかと思うと、俺は気配を屋根の上に感じ見上げる。いつからその場に居たのか、今は屋根の上から四方で燃える家々を見つめている。


「どういう事?」

『普通ノ水デハ消セヌ、ソレコソ、同ジ魔力ノ力デナラバ可能ダロウガ』

「おにぃちゃん、魔力でなら消せるの?」


 ミレイがポケットの中から、上を見上げるように訪ねてくる。


「そうみたいだね。なら、俺かユキアの魔陣でならば消せるってことか」


 俺の呟きにスノウが頷く気配が伝わる。スノウ自身も、自分では鎮火出来ないと判断したからこそ、俺へと告げたのだろう。


「タカさん、どうかしたんですか?」

「あぁ、ユキア。どうやら魔宝石での炎は魔力でしか消せないらしくてね」

「そうなんですね。それじゃあ、皆に伝えないと」


 そう言うとユキアは、消火の指揮をとっているオニボ団長の所へ駆けていった。しかし、そんなユキアの後ろ姿を眺めながら、一つ心配な事を思い出す。散々に魔力を使い切ったユキアも俺も、これだけの炎を消すだけの魔力が残っているのか……。


「タモト君、話はユキア君に聞いた。すまない君達ばかりに頼りにしてしまって」

「いえ、しょうがありませんから。でも……」

「どうかしたのかね?」

「いえ」


 やって見る前から魔力切れの可能性が高い事は言えないだろう。やるだけやってみるだけだった。


「それじゃあ、やってみます」


 俺は、意識を集中すると通常の魔陣で水の模様を描き始める。何とか魔力が形になってくれた事で、一安心ではあるが一瞬立ちくらみの様な視界が暗くなり膝を尽きそうに力が抜ける。


『魔力よ!ウォーターフォール(水滝)』


「「「おおー!」」」


 飛び火した魔宝石の炎の一つを水流は何事も無かったかの様に消し去る。放たれる魔陣に自警団の面々の感嘆の声が聞こえる。しかし、俺はその数々の声も遠くに聞こえ、額に冷や汗を感じる。


「タカさん?大丈夫ですか?」

「あぁ、次に急ごう」


 ユキアだけは、俺の不調に気がついた様子だった。しかし、次の瞬間には平然と歩こうとする俺の姿に二の句は告げず後ろから付いて来ていた。


「次はあそこ」


 俺は返す返事も言葉少なになりつつある、俺の言葉にユキアの不安そうな表情は一層深まった。俺は彼女の表情さえ見る余裕は無く、いち早くガールの呪いの言葉ごと消し去りたいと次に選んだのも一番に燃え広がっていた民家だった。

 既に半焼している状態だが、次に燃え移るのを待つ余裕は無かった。次に燃え移るのが一軒だけとは限らないからだった。


「タカさん」


 ユキアもその思いが分かったのか、「無理しないで」と言う言葉を言わず飲み込んでいる。俺は一層の気力を込めて、両手を前に差し出した。


『魔力よ!……クッ』


 先程は上手く行っていた魔力の銀糸も空宙の途中で形を無くし粉となって消失する。それと同時に目の前が完全に真っ暗になり、次の瞬間には片膝を地面に付くしか無かった。


「タカさん!!」

「はぁ!はぁ!はぁ!」


 俺は返事さえ返せず、荒く呼吸を続ける。まだ、目の前は立ちくらみの酷い様に瞼を開けていても暗いままだった。既に膝だけではなく、両手で地面を支えていなければ倒れていただろう。


「タモト君!!」


 後ろで様子を見ていたオニボ団長もただ事では無い雰囲気に駆け寄ってくる。しかし、何を言われても、ユキアの声もオニボ団長の声も耳栓をしたように遠くに聞こえた。


「タカさん!?大丈夫ですか?」

「タモト君しっかりするんだ!ユキア君彼はどうしたんだ!?」

「恐らく、魔力が切れたのだと。今回の事でかなりの魔力を消費したはずですから」

「そんな!彼は大丈夫なのか?」

「休ませれば、大丈夫だとは思います。けれど……」


 俺は膝を付き呼吸を整える中、ユキアとオニボ団長達自警団員の面々は、笑うように燃え盛る魔宝石の炎を見上げ途方に暮れるしかなかった。

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