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「戻って来たか、タモト君休み日にすまない」
「主任、キイア村に何かあったんですか?」
「ああ、聞いたのか。先日ユキアさんへ託したギルド連絡用の鷹から知らせが届いたんだ」
なんだろう、普通の連絡があったのでは無いのか?カウンター受付嬢や職員一同が事情説明に集められている。仕事を受けに来た冒険者達も、今にも何かしらの説明があるのではと聞き耳を立てているため、言えないのだろうか。
「ガイス主任、職員皆揃いました」
「わかった。タモト君も中に入ってきなさい。その、後ろの方達は友人かね」
「お邪魔しています、自分たちは見世物の劇団員ですので気にされないでください」
「そうか、それじゃあ申し訳ないが待っていてもらっても良いかな?」
「ガイス、その方達もお通ししてちょうだい」
不意に、ガイスさんの後ろから静止する声がかけられる。珍しい、ギルドマスターのルワンナさんが2階の執務室から1階に降りてきているのは、自分が研修をすることになってからもあまり見ない様な気がする。
「しかし、一般の方にはあまり詳細な事情は・・・・・・」
「君、確か以前に劇団の座長クルガーさんと挨拶にきた人よね?」
「はい、クルガーは私の父です。こちらは、妹のキアと劇団員のシスです」
キアは静かに成り行きを見つめていたが、兄に紹介されたことで簡単に挨拶だけ返す。
「へえ、貴方達がそうなのね。そうね・・・・・・手間が省けるわ、タモト君と一緒に私の部屋に来て頂戴。案内してジーン。ガイス、ロビーへの説明は任せるわ」
「わかりました」
「え?入っていいのお兄ちゃん」
ガイスの後ろに控えていたジーンさんに案内されてカウンターの中へと進む。キアはまだ、事の成り行きについていけてない様子でカウンターの中に入るのも躊躇っている。
「ハント、キアちゃんは団長に怒られるんじゃない?」
「お兄ちゃん、私聞くと怒られるの?」
「聞いてしまったって事で良いんじゃないか?父さんは良い顔しないとは思うけれど、そろそろ事情くらいは聞かせても良いと思うんだ」
「そう?私は良いけれど。まったく妹には甘いんだから」
ギルドマスターとクルガーさんとは知り合いなのだろうか、手間が省けるという意味も分からないけれど、今はキイア村の事が気になる。ルワンナさんが同席してもらうのを自分が止める権利も無いし、知られて悪いことではないだろう。
「どうぞ腰掛けて」
先日、手紙を届けた執務室と同じ部屋へ案内され。3人がけのソファーに左右に分かれて座る。俺は1人で、ハントたち3人は向かい側に座る形になった。ルワンナさんは机から一枚の用紙を取ると1人掛けの椅子に腰掛け足を組んだ。ジーンさんは案内だけの様で、前のようにお茶を準備するようには言われず、1階に戻ったのだろう。
「手間を取らせたわね、非常召集の理由はコレ。先ほど届いたばかりのキイア村から手紙よ」
「キイア村がどうかしたんですか」
「ええ、聞いたところ先日にギルドに依頼した内容で冒険者がキイア村に向かったそうね」
「はい、ちょうど自分も依頼を受けに来た人達に会いましたので、ギルドの馬車で向かったと聞いてます」
「それで、今回、その依頼を受けた冒険者の中にキイア村を襲撃する可能性のある盗賊団が紛れ込んでいる事を伝えてきたわけ」
「そんな!キイア村は大丈夫なんですか?」
「今の現状がどうなっているかはわからないわ。キイア村は盗賊団を警戒しつつ、もしもの時は金銭的解決と村人のアロテアへの脱出を考えてるみたいだけれど、正直、金銭での解決は無理でしょうね」
確かに、今のキイア村に盗賊団が満足するだけの金額を準備するのは難しいのではないかと思う。それこそ、盗賊にとっては村から根こそぎ奪うことを選ぶほうが簡単でわかりやすいだろう。
「それで、非常召集って訳。状況は最悪に悪いわね。キイア村に急いで出発しても1日弱かかる。そして、もう一つはこの手紙の内容が昨日の日付だということ。実際盗賊団へ対抗する応援が出発しても4日間で村に何が起こってるかわからないわ」
俺は何も言うことができなかった。あのカウンターで対応したのが盗賊達だったのか。ユキアや皆は無事なのか。いくつもの不安な考えが浮かんで来て何も思いつかない。
「それで、何か対策があるんですか?」
「そう、対策をお願いしたいから貴方たちに部屋に来てもらったの」
「失礼ですが、ギルドマスターは私達の事をご存知なのですか?」
「ええ」
ハントやシスの疑問に簡単に答えているルワンナさん。何の話だろう、ただ単に劇団長と知り合いなだけではないのだろうか。
「言っていいのかしら?」
ルワンナさんの言質は、明らかに俺に内容を伝えていいのかをハントさん達に聞いている。
「しょうがないでしょう、キイア村が陥っている状況とギルドからの依頼となれば父もそう判断すると思います」
「ねえ、お兄ちゃんなんの事?」
「もうひとり、確認すべきかしら?」
「構いません」
「わかったわ、私達ギルドの対策案は2つ。1つは名目上はキイア村への応援人員の追加、人選は盗賊団へ対抗できる人材とすること。もう1つは、貴方たち独立遊撃騎獣部隊への先行したキイア村の情報収集と最悪な状況な場合の盗賊への抑止」
「へ?」
キアちゃんは不意に声を漏らし何を言われたのかわからないまま呆然としている。ルワンナさんは何を言ってるんだろう、ハントさんたちが独立遊撃なんとか部隊って?
「貴方たちが、タモト君と一緒にいてくれて手間が省けたわ。非常召集と一緒に応援をお願いしようと思っていたのよ」
「わかりました。了承かの判断は持ち帰ることになります。しかし、私達が向かってもそれほど時間が短縮できるとは思えませんが」
「フフ、知っているわよ。有名だもの、騎士様と姫様は翼竜で飛ぶんでしょう?」
ルワンナさんは、意地悪な微笑を浮かべ上(空)を指差して尋ねた。その言葉にハントは苦笑して頭を掻いている。
「要件はわかりました、急ぎ戻り報告します。タモトさん、すみません詳しい事は後で話します」
「クルガーさんに宜しくね」
「ほら、キア行くよ」
「う、うん」
まだ、キアちゃんは事の成り行きを理解できていない様子だ。俺でさえ、頭が混乱している上に早くキイア村に駆けつけたい。非常召集の人員の中に自分も入れないだろうかと思っていると。
「タモト君、一つ言っておくわ。君はアロテアに居なさい」
「なぜですかっ!?」
「冒険者でも無い貴方が村に行って何ができるの?それよりも、アロテアから村人が脱出してくる可能性が高い今は、受け皿のアロテアの準備を手伝ったほうが良いとは思わない?」
「・・・・・・すみません、ルワンナさん。ギルドの職員である以前に、キイア村には守りたい人達がいるんです。非力かもしれませんが、そばで力になりたいんです」
「そう、止めても無駄だったみたいね」
「すみません」
「良いのよ。半分断られる事はわかってたから。それにしても、タモト君、貴方ギルドの職員には向いてないわよ。でも、そんな君も嫌いじゃないわ」
ルワンナさんは、笑顔で見送ってくれて俺達は執務室を退室した。
ギルドのカウンターに戻った俺達は、執務室に上がる前の雰囲気と変わっている事に気がついた。ロビーの中央に特別に置かれた掲示には、翌朝、急遽キイア村への応援人員の選抜募集が決定した事が掲げてあり、一人当たりの報酬も破格の15金の報酬が提示されていた。
「タモトお兄ちゃんはどうするの?」
「今の俺に人員の選抜に入れるかは心配だな。それに、翌朝に出発って遅すぎのような気が」
「しょうがないでしょう。非常召集でも、冒険者にも準備が必要ですし早い方だと思いますよ」
何とかして、今すぐにでもキイア村に駆けつけたい気持ちでいっぱいだった。
「ハントさん、シスさん、キイア村に向かうなら俺を連れて行ってくれないですか?」
「まずは、戻ってからにしましょう。判断を父さんに聞かないと」
そう言うとハントさんの後を追うようにギルドを後にする。場合によってはこのまま出発するのだろうか。そう思うと、仮眠室に預けていた荷物を取りに行けなかったなと思ってしまう。まあ、着替えしか袋に入れていなかったし、金銭類はいつも持ち歩いているから荷物らしい荷物も無いのだが。そういえばパスポートも最近は着替えと一緒に袋の中だったか。まあ、魔法の覚え書きなので忘れた時に見直すくらいしか使っていなかったが。無くなると思うとさすがに寂しいが、何かの機会でまた取りに来れるかもしれないと考え直す。
3人の後を追いながら、中央広場を進んでいく。周りは鮮やかな衣服を並べてあったり、柑橘類の食物を販売してあり、それらを品定めする客で賑わっていた。その平和な雰囲気の中では、客の誰一人もキイア村が危険にさらされているなど思いもしなかっただろう。




