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魔陣の織り手:Magical Weaver   作者: 永久 トワ
キイア村受難編
39/137

20

「キア、ここに居たのか」


 キアを見つけたのは団員達の食事を作っている厨房だった。その隣には自分と同じ年齢である女性と昼食を皿に盛り付け手伝っている。


「どうしたの?何か用事でもあった?」

「いや、父さんからキアと遊んでこいって言われてさ。昼から何処か行くところが決まってたかい?」

「シスお姉ちゃんと一緒に、タモトお兄ちゃんとミレイちゃんに会いに行こうと思ってたんだけど、何?お兄ちゃんも一緒に行くの?」


 シスと呼ばれたのは、自分と同じ年齢の女性の劇団員だ。ミディアムボムのふわりとした髪型と体型も一般人と間違われる印象は、一件劇団員の中では華が無さそうに見えるが、演目の始まりに彼女が従えるグリズリー達の演技では逆にひ弱そうなギャップから力強さを印象づけている。今は、キアと普段着のまませっせと食材を盛り付けていた。


「私は構いませんよ?」

「ああ、シスが一緒に付いていくなら無理に行かなくて良いかな」

「そう言って、また部屋に閉じこもって(報告書を書いて)いるんでしょう?」


 シスも、同じく劇団のもう一つの役割である独立遊撃騎獣部隊の一員として2足のワラジを履いている。クルガーの実の子供である自分やキアとは違い、戦争孤児や奴隷として売られていた子供を保護し、希望者には劇団の仕事を与え一部の見込まれた子供に騎獣部隊としての教育がされている。シスは、妹の前では面倒事を嫌う兄を演じているのを知っており、先日の宝石の件での情報収集でも助力してもらっていた。


「そんなのダメだよ。ちゃんと息抜きしなきゃ。二日前タモトさんと街で偶然会ったら、次の休日の後には村に帰っちゃうんだって。だから、一緒に会いに行こうよ」


 何故キアが、タモトさんと精霊のミレイに会いにいくのかようやく理解できた。自分たちにとっても公演が終わる前の休みは今日と明日しかなく、残り3日が過ぎれば王都への移動準備の為忙しくなるからだろう。


「そっか、ならタモトさんには会いに行って公演が終わることを言わないとな。商談の事もあるし、忙しければ誰かに言伝を頼まないといけないだろうし」

「そこら辺は大丈夫だって、今日は仕事のお休み日だって言ってたし」

「ん?タモトさんは、キイア村からギルドに依頼を出しに来てたんじゃなかったっけ?」

「んーよくわかんない。ギルドで仕事をもらってるって言ってたから、何か依頼でも受けて稼いで帰るのかな?」


 そっか、と互いに話し半分に納得しながら、会って聞けばわかるかと思う。


「さあ、二人共話ししてたら昼食の準備ができないわ」

「そだね、もうすぐ準備できるから、お兄ちゃん着替えてきなよ」


 そう言われて改めて自分がまだ舞台衣装だった事に気付き、同年代のシスのいる手前照れ笑いを浮かべながら、自分の部屋に一旦戻る事にした。




 タモトさんを訪ねてギルドを訪れた自分とキアとシスの三人は、以前の契約の時に見知った顔のカウンターの女性が笑顔で座っているのを見つけ声をかける。時間は昼を過ぎており、ギルドのエントランスは人もまばらでカウンターに並ばずに聞くことができた。


「あのー、この前タモトさんとの契約でお世話になりました。ハントですが、タモトさんについてカウンターで尋ねればわかると聞いたのですが」


 キアが言うには、当日、ギルドのカウンターに自分の名前で訪ねてくれれば呼んでくれると聞いていたという。いったい、タモトさんとギルドの関係がどういったものなのか不思議に思ってしまう。


「ああ、先日のタモトさんと商談された方ですね。何か不都合な事がありましたでしょうか?」

「違うんです。今日はタモトさんの所に遊びに来たんです」


 キアがよそ行きの言葉遣いで即答する。


「そうでしたか、あ、アイナちゃん。タモトさんを呼んできてくれない?」

「はっ、ハイ!」


 隣のカウンターに緊張気味で座っていたアイナと呼ばれた女の子は、小走りでギルドの奥に走っていく。あんな背の小さなカウンターの受付の子もいるのだと、走っていく姿を目で追ってしまう。歳はキアと同じ歳か少し年上だろうか。


「すみません、あの子はまだカウンターの仕事に慣れてなくて、緊張しているのかすぐ走ってしまって」

「気にしてません。すみませんすごく若いなと思ってしまったので」

「そうでしたか、ところで劇団の公演はもうすぐ終わられるのですか?」

「ええ、私達をご存知でしたか」

「ハイ、ハントさんも有名ですから。うちの職員にもファンの子は多いんですよ」


 まだ、公演を見に行けていないというジーンと言う職員に、是非来てください等の話をしていると、先ほどのアイナと言う女の子と共にタモトさんが歩いてくるのが見えた。


「タモトお兄ちゃん。遊びに来たよ」

「こんにちは、タモトさん」

「ああ、キアちゃん、それにハントさんもこんにちは。そちらは、えーと」

「はじめまして、シスと言います。キアと同じ劇団で今日はご一緒してます」

「あ、はい。こちらこそはじめまして。それじゃあ、アイナ、呼びに来てくれてありがとう。ジーンさんそれじゃあ出かけてきます」

「「いってらっしゃい」」


 カウンター越しに見送られながら、4人でギルドを出て行く。前々に甘いものでも食べに行こうかとキアと話をしていたため、すぐ近くではあるが中央広場に面した軽食堂屋の雰囲気の店で食べたいねと考えていたらしい。


「ねえ、お兄ちゃんミレイちゃんは?」

「ああ、居るよ。街中では目立つって気がついて、部屋の中以外では最近はポケットの中に居てもらってるんだ」

「なあに?おにぃちゃん」


 名前を呼ばれたためか、タモトさんのポケットからミレイと呼ばれる精霊が顔を覗かせる。確かに精霊を見慣れていない自分にとっても、小ささとその存在の特異さにどうしても目が行ってしまう。彼の特に目立つという事の意味が確かに頷ける。


「わぁ、ミレイちゃん、こんにちは!」

「ぅん、こんにちは」

「どうしたの?元気ないね」


 確かにキアの言うとおり、数日前に見かけた時と比べて明るさに陰りが見える。あの時が、晴天の太陽だとすれば、今は曇が薄くかかったような太陽だ。寝起きなのだろうかと思ってしまう。


「最近気がつくと、こいつボーッとしてるんだよなぁ。精霊だからわからないけれど体調が悪ければ言えよって言ってるんだけど」

「だいじょぅぶだよ、少し眠たぃだけぇ」

「少し疲れてるみたいね」


 シスが確かにそう見て取れる風に言う。ミレイは、確かにポケットの縁に寄りかかりクテっと疲れてますという表現が正しいように見える。タモトさんが精霊を酷使しているようには見えないし、村とは違う環境で慣れていない疲れが出たのかも知れない。


「あああ!ここ。お兄ちゃん、宣伝の時見かけてこのお店のケーキが食べたかったの」

「店の中じゃなくて、せっかくだからテラスで食べさせてもらいましょう?」

「そうですね。天気もいいし、今は客も少ない時間みたいでミレイも少し自由にさせてあげたいですし」


 タモトさんは、ケーキとは別にコップに水を注文し4人とも注文を済ませて2階のテラス席へと上がる。確かに、店の外から見えた様に今の時間は客も少ない様子で、自分たち以外には2人だけ店内の席を使っているだけだった。


「わあ、広場が一望できて良いね」

「本当」

「ああ」


「お待たせいたしました」


 座る席が自然と決まり、キアとシスはテラスの柵から広場を眺めている。しばらくして、ワゴンにケーキ皿を載せた店員が来てそれぞれをテーブルへ並べていく。飲み物は基本紅茶のような飲み物の様であったが、気を聞かせてくれたのか人数分のコップと水差しを持ってきてくれていた。

自分は、タモトさんへ公演があと数日で終わることを告げながら、一旦王都へ戻る事を告げていた。


「おいしそうー」

「ほんとね」


 女性陣は、ケーキ皿が来たとたん席に着き劇団の中では機会の無い甘味に夢中になっている。タモトさんは、ケーキよりも先にコップに水を注ぎミレイ専用の席を用意しているようだった。


「ミレイ、移れそう?」

「ん~、だるぃ~」


 そっか、とタモトさんは、ポケットから精霊を引き上げコップに移そうとした時、同時にポケットの中から硬くコトンとテーブルに落ちるものがあった。


「うわぁ、綺麗!」

「ほんとう、綺麗な宝石ですね」

「「えっ?」」


 タモトさんの驚きの声と同時に、自分も思わず宝石の綺麗さに息を飲んだ。大きさは指先程の大きさだが、薄く透明な水色に輝く宝石だ。大きさや色であれば、先日に取引した宝石の数々の方が大きい物もあったが、今テーブルに落ちた宝石の特徴で魅せられたのは宝石の中に淡い碧色の輝きが瞬いていたからである。


「これは、ミレイに与えた宝石だった様な、でも、こんなだったか?」

「ぇへへ、キレイでしょぉ、ウチがずっと温めてたら、もっと、もーっと、キレイになったんだぁ」


 精霊のミレイはコップに浸かりながらニヘラと微笑わらっている。タモトさんさえその輝きに驚いている様子だが、精霊が気にいった様子だったからあげた物だと説明してくれた。しかし、あげた時にはこの様な輝きは無かったと言うことだ。


「これって、父親の言っていた魔宝石では無いのですか?」

「え?えーと、魔力の蓄積した宝石でしたっけ」

「そうです」

「へえーお兄ちゃん、ねえねえ見せて見せて」

「自分も初めて見るので、父親に見てもらわないとハッキリとはわかりませんが、言っていた特徴と同じような気がして」

「確かに、そう言われていた様な気がします」

「ウチが気に入った宝石は別のと違うんだぁ。なんかグッと一目惚れしちゃったんだぁ」


 精霊が一目惚れした宝石だというのも特徴だとは思うが、数日前には変わりなかった宝石に今は瞬く碧色の輝きが灯っているのはさすがに普通ではない。そして、精霊の珍しい疲労感や最近ずっと温めていたというミレイの言動から一つの仮説が思い浮かぶ。


「もしかして、ミレイちゃん。精霊が魔力を注ぐと魔宝石になるのかしら」

「ん~わかんない。ウチもこんな体験初めてだし」


 シスも、私と同じ仮説が思い浮かんだのだろう、魔力が枯渇した精霊がどうなるのかはわからないが決して楽観できる結果ではないように思える。


「タモトさん、詳しく分かるまでミレイさんに宝石を温めるのを止めさせたほうがいいと思います」

「そうですか?」

「ぇええ~」

「それで、元の元気が出てくるようであれば、おそらく精霊の魔力が宝石に溜め込まれていると考えても良いのではないかと」

「そうね」

「んー?よくわかんない」

 キアは話の内容についていけていない様子だ。話が理解できているのはおそらくシスだけのような気がする。タモトさんも半信半疑の困惑の表情をしている。


「今は、ミレイさんの疲れ具合がどこから来たのかを考えると、慣れない環境か、もしくは魔力を何かで消費していると思うので、その可能性の一つが宝石だという仮説しかないので」

「わかりました。ミレイ、売ったりしないからしばらく宝石は預かるよ?」

「ぇええ~そんなぁ~」

「元気になったらすぐ返すから、疲れが取れるためだと思って」

「ぅうう、わかった~売らないでねぇ」


 そうコップでうなだれる精霊を面々が微笑みながら見つめていると、早鐘が鳴らされる音が聞こえ広場一体へ響きわたる。


 カンカンカンカン  カンカンカンカン


「ん?何ですかこの鐘の音は、時報ではない様な」

「タモトさんは、初めてでしたか」


 キイア村から来たと言うことで初めて耳にするのだろう。


「アロテアの街に滞在する冒険者へのギルドからの非常召集ですよ。緊急依頼や街の周辺での獣の異常発生の時にしか鳴らないはずですけど、変ですね、先ほどのギルドはあんなに落ち着いていたのに」

「私達(3人)には関係がないけれど」


 シスがどうします?と目で聞いてくる。タモトさんもギルドに一旦戻った方が良いだろう。自分も冒険者への召集とはいえ、ギルドに行き情報を聞くくらいはすべきだろう。


「タモトさん、一度ギルドへ戻りますか?」

「ハイ」


 早々と店を後にして、ギルドに駆け足で戻っていく。ギルドの入口を潜った4人は、まだ、パラパラとしか集まっていない冒険者達を見渡した。今集まっているのはギルドに仕事を探しに来ていたか、近くにいた者達だろう、自分たちの到着も割と早かったようだ。まだ、冒険者も右往左往しており説明らしい説明も有っていなかった。


「あぁ!タモトさん!」

「アイナどうかしたの?何かあったのか?」

「大変なんです、キイア村が大変なんです!!」


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