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魔陣の織り手:Magical Weaver   作者: 永久 トワ
キイア村受難編
36/137

17

 馬車を降りギルドからの依頼で到着した冒険者(労働者)達は、わずかばかりに空いている宿屋の部屋を貸し与えられ休憩するように入口で伝えられていた。村にとっては賃金を支払い働いてもらう労働力ではあったが、他の事についての不満が増大しないようにという配慮のためであり、すぐに復旧の役割分担なども優先項目を考えて割り振られるため、村に到着したからと行ってすぐに仕事に取り掛かる訳ではなかったからだ。 


「そんな!なぜガールたちがギルドからの馬車に乗っているんだ!」

「お嬢、何か魂胆があるのかもしれません、私が確認してきますので、絶対に部屋から出ないでください」


 今私たちは、宿屋の2階の窓から玄関に横付けされた馬車から降りてくる冒険者(労働者)達を見つめていた。ロイドは、いくら男装をしていても、近づけば判ってしまうからと私に部屋を出ないようにと念を押す。ベッドに横になるクルトにも同じように注意し部屋を出て行こうとする。


「見えただけでも数名部下がいました。20人全員という訳では無さそうですが、私達の様に身分を偽っている可能性は高いでしょう。村の皆には、しばらくお嬢は疲労が溜まって体調が優れないと伝えておきます。良いですね?詳しくわかるまで出て行こうと思わないでください」

「あ、あぁ、わかった」


 そう告げるとロイドは部屋から出て行った。私の思考の中には、ガールが私を追いかけ探しにきたのか、予定していた村へ害をなすために来たのかと考えが巡り、力が抜けるようにベッドに腰掛けた。


「ガール・・・・・・さん、は、サニーお嬢さんを探しに来たんでしょうか?」

「わからないわ」


 部屋で治療中のクルトには、この数日の間にアジトで起きた事と私が盗賊の皆を裏切りアジトから逃げだしたことを説明していた。詳しく話を聞くとクルト自身は昔からガールの力に憧れていた面もあり、村を襲撃する話があることも知っていた。私が村に逃げ着いた時から、村の諜報としてロイドの指示で村に滞在していた事を打ち明けてくれたが、アロテアの街までの路で獣に襲われた経験が、村の皆から命を助けられた経緯から、今はガールの指示に従う思いや敬意も薄れているという。


「ロイドも今の村の状況を知っているからこそ、奪っても実りは無いと何とかガールを止めて欲しいんだけれど」

「俺は・・・・・・非のない村の人を襲うことなんてできません。命を助けてもらった恩をきちんと返したいと思います」

「私だってそうさ、まだここに来てそう日もたっていないのに、暖かく迎え入れてくれる人達が居てどんなに嬉しかったか」


 そう言いながら、あの雨降りの日に傷ついた背中から肩への傷を片手でなぞりながら思い出していた。ガールが自分を探しに来たのなら、村の皆に迷惑をかける訳にはいかない。ロイドの戻ってくるのを今かと待ちながら、その結果次第では急いで村を離れる覚悟を考え始める。

 クルトには悪いが、なぜ街道の獣はガール達を襲ってくれなかったのか、無事に村に来たんだと理不尽な疑問さえ思ってしまう。それだけ、今の村の現状は最悪でありようやく皆の表情に笑顔が戻ってきていた矢先だったからだ。


 トントン


 不意に、部屋の扉がノックされる。つい、返事をしそうになるが部屋から出ることを禁止され、ガール達に居ることが知られるわけにはいかない私は返事を堪えクルトへ視線を送った。


「は、はい、どなたですか?」

「ユリアです。入ってもいいですか?」

「どうぞ」


 クルトの返事に、部屋に入ってきたのはユリアさんと娘であるユキアさんだった。ユリアさんの手には、いつも通り飲み薬の瓶と包帯代わりの布を持ってきていた。ユキアさんはアロテアから戻ってきてからその手伝いをするようになっていた。


「クルトさん調子はどうですか?」

「だいぶよくなりました。少し熱っぽいだけです」

「そうですか、もう少し飲み薬を続けますので、食事の後に飲んでください」


 そう言うと、瓶に入れられた水剤をベッド横の机に置き、脈や腫れた傷は無いかを確認していく。傷自体は治癒魔法で完全に塞がっていたが、噛まれてできた創部は汚れた傷という概念から熱や腫れが出やすいという考えを元に確認されていった。


「サニーさんも少し具合が悪いと聞きましたけど?大丈夫ですか?表情が優れないみたいですけど」

「ええ、少し頭が痛くて」

「もし、薬が必要であれば言ってくださいね」


 心配そうなユキアに「ありがとう」と返事をしながら、廊下でロイドとでもすれ違ったのだろうかと思う。頭が痛いというのは大げさだったが、心配事があるのは確かで気分は落ち込んでいた。そうこうする内に、玄関先では馬車から荷物を降ろし終えたのか洩れ聞こえていた話し声も聞こえなくなり宿屋の中に入ったのだろう。すぐにでも廊下からガール達の声が聞こえるのではないかと不安な気持ちをより一層感じてしまう。


「あぁ、ユリアさん達もおられましたか」


 ノックもなしにロイドが部屋の扉を開けて入ってくる。もしかすると、その背後にガールの姿があるのではないかと一瞬疑いの視線を背後の入口に向けたが、入ってきたのは一人だった。診察を終えてユリアさん達はロイドに軽く会釈をして部屋を出ていこうとする。


「ユリアさん、お二人と、自警団長の方に後でお話があります。お時間を頂きたいのですが」

「良いんですか?」


 不意にロイドが再確認するように質問をしてくる。何を確認したいのかは十分にわかっているつもりだった。この村が置かれている状況を本当に伝えるのか?そうすれば自然と自分たち3人の素性を話すと言う事になるという確認だろう。心配するロイドの気持ちも理解できるが、ガールが私を探しに来たとすれば、村から逃げるという選択肢を選んだとしても、クルトや私の命の恩人である二人には真実を伝えておきたかった。


「オニボーさんの時間がいつ取れるかわかりませんけれど、今で良ければ時間はありますよ?ねえ、ユキア」

「ええ」


 そう言うと二人は部屋の扉の前から振り返り私の返事を待つ。ロイドは、私の決めたことだと決心しているのか自分からは何も付け足そうとはしなかった。クルトさえも、ベッドに横になったまま私の返答を待っている様子だった。その少しの沈黙の時間が、私に再度決心を促す。


「わかりました。少し長くなりますから、どうぞ腰掛けてください」

「時間は気にしないで、かまいませんよ」


 そうユリアさんは、椅子が足りないためベッドに腰掛けながら優しい眼差しを続けていた。


「まず、初めに言わせてください、ユリアさんとユキアさんのお二人には大変感謝しています」


 ゆっくりと一言一言吐き出しながら、今まで黙っていた真実を話し始めた。



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