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魔陣の織り手:Magical Weaver   作者: 永久 トワ
キイア村受難編
26/137

7

 ギルド内は仕事を求めに来た冒険者や日雇いの人達で賑わいを見せていた。

 しかし、今[新規掲示板]に張り出された内容を眺める3人の表情は、一様の焦りを浮かべ眺めていた。しかし、時々ギルドに出入りする人間をチラッと眺めすぐ掲示板に戻すという不審な行動をとっていた。


「なあ、この二日変わった事もないよな?」

「ああ、さっき小耳に聞いたけどよ。キイア村のゴブリン騒動って解決したんだとよ」

「俺も聞いたぞ、そうなんだってな。ギルドが大慌てで送り出したって酒場じゃその噂ばかりだったからな。変わった事って言ったらそれくらいだよな?」


 2人の青年が話す中、一人が掲示板を熱心に眺め討伐依頼やそれらしい情報が提示されていないかを眺める。

 3人の格好とも商人風の服装を身につけ、周囲からは仕事を探している様にしか見えない。この二日間、掲示板を眺めに来て依頼を確かめるふりをしながら、出入りする人物を観察し盗賊討伐等の招集がされないか見張っていたのだ。

 それが、逃亡したサニー嬢を見つけるのに効果的だろうと3人の日課になっていたのだ。そして、朝の段階で新規の依頼追加が無ければ、一人が冒険者ギルドの入り口を見張り。もう二人は、街の入り口から目当ての人物が入ってこないかを見張っていたのだ。


「にしても、サニー御嬢はどこに行ったんだか」

「まったくだな。かしらと何があったか知らねぇが、捕まえるか、最悪殺れっつてのはなぁ」

「おい、これを見てみろ」

「なんだぁ?」


 二人が話す中、一人熱心に掲示板を眺めていた男が二人を呼ぶ。


キイアが、河川や家の修復の為に依頼を出してるぞ」

「ホントだな」

「それがどうした?ゴブリンに襲われたんだ。壊れたものは直すために人でもいるだろう?」


 呼ばれた二人は、あまり気にしていないようだ。でも、熱心に掲示板を見ていた男性は、サニー御嬢の事とは別に伝えるべき重要な事では無いかと思ったのだ。


「気づかないのか?御嬢の行方の事も大事だが。俺達は、この前までキイアをどう(襲撃)するかを話し合っていただろう?」

「ああ、そうだな」

「先日、村に冒険者が行ったばかりだ。これ以上、河川の修復に金が動いたら、俺たちが得るものも無くなっちまうだろうが?」

「ああ!そう言う事かよ」

「そうだな、もう二日たっても御嬢の姿は見えない。報告に一度戻るか。二人だけ、街に残って、一人がかしらに伝えに行こうや」


 3人とも同意見の様子だった。猶予は二日したら一度何かしら知らせに行かなくてはいけないのだ。また、誰が知らせに行くかも、暗黙の雰囲気で先程掲示板の依頼に気づいた男性と決まったようだ。

 3人が顔を見合わせると、軽く頷きギルドを出て行く。二人は街の入り口へ向かい。もう一人は、宿に街から出発の準備を行いへ向かうのだった。



 一日後、盗賊団のアジトに知らせに向かった男性は、以前のアジトの一室でガールに報告を行っていた。説明の内容は、目当てのサニー御嬢が街では見つからなかったこと。また、それらしい人物も門では見かけなかった事をだ。後は、ギルドに動きがあればと掲示を見ていたが、ギルドが自分たち盗賊団に対して討伐や調査など、何も動こうとしない事だった。それに加えて、キイア村の新規の依頼の掲示があったことを話していた。


「そうか、で。サニーは見つからなかったんだな?」

「はい、街にそれらしい人物も見かけません。隠れていたらわかりませんが。自分たちが街に入ってからは出た可能性も少ないと思います」

「どこに行きやがった……。まあ、見つけれなかったのならしょうがねえ。引き続き、街を監視しな」

「わかりました」


 一礼して報告を終えた男性は洞窟の部屋より出て行く。報告を受けたガールは、しばらく黙り込んだ。


かしらどうしますか?」

「まあ、サニーの事はしばらく保留だな。ギルドもこっちには動いてないなら大丈夫だろ」

「ええ」


 ガールは後ろに控えるタロスの表情がすこし緩んだ事に気づくことは出来なかった。


「しかしだ、キイア村から金が流れるのはいただけねえ。今襲うか?」

「先程の報告で、ゴブリンを撃退したと言っていました。冒険者がいたからかもしれませんけどね、まともに襲っても被害がこっちも無傷では済まないと思います」


 再び、ガールは黙り込みすこし考えた後、一転、引きつったような笑みを浮かべる。


「いい手があらぁ。様は村に怪しまれなきゃ良いんだ。キイア村の依頼をうまく使えば良いんだよ」

「どういう意味ですか?」

キイアの依頼通り土木作業の仕事人として俺たちが紛れるのさ、村は俺たちを知らないうちに歓迎してくれるだろうよ」

「……なるほど」

「おし、決めたぞ。来るかわからねぇ。ギルド討伐にビクビクするよりも、村の依頼を使ってどうどうと襲うぞ!人数を集めろや!」


 確認するタロスは、かしらであるガールの、時々奇抜なまでの案に驚きを隠せない。


「ロイドを待たなくて良いのですか?」


 ロイドの報告だけが、村を襲わせない為の最後の頼みの綱だった。彼の報告があればもしかしたら襲撃を中断するのではないかと言う期待がある。


「ああ、問題ねえ。あいつは今村キイアだ。村で会えばいいだろう。向こうで何か問題があって襲撃が無理なら、難癖つけて帰ればいいんだ。なんせ村に仕事をしに行くんだからな。ガハハハハ」


 ガールは残忍な表情のまま、今後のことを考えている。

 タロスはその表情を見ながら、もうこの男を引き止めておくことは無理だと諦める。脳裏の中に思い浮かぶのは、涙を浮かべながら別れたサニーの姿だった。


「……ぉ嬢、もうしわけありません」

「んぁ?なんか言ったか?」

「いえ、それでは、召集を掛けます」


 一礼すると、洞窟の部屋を出て行くタロス。その表情には、悲しさとひとつの決意が混ざった表情を浮かべていた。

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