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今日は仮眠を取りながらの執筆でした。
勢いで書きましたので、表現の修正は後日になると思います。
さまざまな伏線を入れるのって楽しいですね。
馬の引っ張る馬車の中に座りながら、俺は天蓋からかすかに見える、隣町につながる街道に視線を向ける。自分たちの乗る馬車の先頭には、冒険者グループの乗る馬車が先を行っている。今回の村の依頼のような討伐以来であれば、冒険者自身に馬車を利用するかどうかの選択権があったのだが、村の危機的状況でもあり、村からの出費ということで隣町で貸し馬車を移送手段として用いていた。昼間は、野獣に襲われる危険度も低いことから、冒険者達は分けて乗ることもなく、後方を進むこちらの馬車には俺とユキア、護衛のオルソンさんが御者を勤めていた。荷馬車といっても村にあった一番上等なものである。積荷が濡れない様に、天蓋のついた仕組みになっていた。天蓋の中では大人二人十分に横になれるほど広さがある。
「タモト君、大丈夫か?」
「はい、何とか、横になったら少し楽になりました。」
「おにぃちゃん、だいじょうぶ~。」
「タカさん、すみません。まさか馬車で酔うことは考えてなくて。何も薬を持って来てないんです。」
もう一人、いや一匹か・・・同乗者がいたな。ミレイも俺に取り憑いている理由から、必然的に付いてくる事となっていた。しかし、今はいつも通りの元気は無く、俺の顔を心配そうに覗き込んでくる。
俺自身も、馬車で酔うとは思っていなかった。今まで自動車やバスに長時間乗車してもなんとも無かったからだ。しかし、予想以上に悪路の街道から直接伝わる振動は、俺の許容範囲を超えていたようだ。
「もう少しで休みだろう、次はココ、御者台に座っているといい。少しは違うと思うが。」
「ええ、そうしてみます。」
前傾姿勢になりながら、天蓋より顔を出し周囲を見渡す。今通っているところは山肌に沿うように出来ている街道だ。右側にはなだらかな斜面の下には沢が流れている。先日までの雨でまだすこし水は濁っているようだった。
「ちょうど、隣町との中間地点付近に広場がある。今日はそこで一晩過ごすことになるだろう。」
「それほど離れていないのに、2日もかかってしまうのは山を越えるからなんですね。」
「ああ、そうだ。あとは、道の問題だな。」
確かに、言われるとおり馬車がぎりぎり1台半ほど通れる程しかない。ところどころ離合できる幅があるが、これだと速度が早く出せない理由でも有る。依頼とはいえこの悪路を駆けつけてくれた冒険者達には感謝の思いを抱いてしまう。しばらく、風に当たっていると、少し開けた道に差し掛かり馬車が十分に止められる位置に先頭の馬車が停止する。中より、冒険者のリーダーであるワングさんが降りてきて近づいてくる。
「もう、昼も傾き始めたからな。昼の休憩をとろう。このペースだと十分野営地に間に合うだろう。」
「わかりました。」
「ユキア、休憩だってさ。」
「ハイ。」
ミレイは、冒険者達やオルソンさんは苦手なようだ。俺のポケットに入りながら、俺の気分の悪そうな表情を見てくれている。俺はそれに笑顔で答えながら、馬車の後ろから地面に降り立つ。
「さすがの魔陣の使い手も、馬車はダメだったかい?」
横から、やや笑い声の含んだ声が掛けられる。冒険者の一人、唯一の女性のミーシャさんだ。俺やユキアと同じく魔法を使い治療を行うらしい。言葉からはやさしさと言うよりも、からかい半分という感じで話しかけてくる。身長は高く見ても160cm程と小柄だ、動きやすいショートな髪型で、ポケットの多いロングスカートを履いており見るからに後方支援専門だろう。年齢はさすがに聞けていないが、10台ということは無いだろう。俺が魔法を使えることを知っている事は、朝に出発
する前に、簡単にワングさんより皆に説明がしてあった。オニボ団長からの説明を、どこまで話してあるかは紹介からはわからなかったが。
「馬車は実は初めてでした。自分でも参ってますよ。」
「まあ、慣れるわよ。きつかったら言って。眠り薬ならあるわ。」
「ええ、そのときはお願いします。」
「おーい。こっちに来な。」
冒険者の人達は。昼の食事の準備を行っている。準備といっても火は起こさないようだ。干し肉を切り分け、朝に宿屋で分けてもらったパンを切り配っていた。冒険者の人数は全員で7名、ワングさんをリーダーとしているグループに追加でミーシャさん数名が加わったようだ。
「何か手伝いましょうか?」
「休憩だから気にしなくて良いぞ、夜には火を起こすから薪拾いとか、見張りをお願いするがな。」
ユキアも俺の横に来て、何か手伝えないかと思っていたのだろう。手伝いが必要ないと言われ、食事を貰っている。
「ところで、タモト君は魔力は何糸出せるんだい?」
「え?」
「タカさん、魔力の糸の事です。私が4本みたいに。魔法を使える者の力を大体知ることが出来ます。」
「あ、秘密なら別にいいんだぞ。」
「いえ、まだ2本しか出せませんし、そもそもどうやって増やすんですか・・。」
きっと興味本位から話題を振ったのだろう、見るからに近接系の剣を帯剣している青年が聞いてくる。他のメンバーも興味があるようで視線を俺に向けてくる。
「普通は、魔法の師匠から、私が始めタカさんに行ったみたいに魔法力の糸を引き出すんです。私の場合は、お母さんですね。冒険者の方は確か・・・、信仰されてる寺院とかと聞いたことがあります。」
「そうだね、私の場合は一定の金銭を払えばやってもらえたさ。でも、有る一定の魔法力が十分じゃないと失敗するよ。」
「失敗したら、どうなるんです?」
「どうもならないさ、自分にまだその実力が無いってだけで。払ったお金も戻って気やしない。」
何か昔に嫌な思い出でもあるのだろうか、ミーシャさんは苦笑して教えてくれる。
「タカさんも魔力自体は十分あると思うんです。夜に少し疲れが取れたらやってみましょう?」
「ああ。ありがとうユキア。」
「おお。そうか、俺初めて見れるぞ。楽しみだな。」
「いやぁ、まだ成功するとは・・・。」
そう言いながら、俺は苦笑するしかなかった。
意外と、魔法の話で賑やかになった休憩を終えて、俺たちは再び出発することになった。馬車酔いも少しは落ち着き、休憩前に言われていたとおり、御者台に座っていると酔いはさほど酷くならなかった。
「良い機会だ、馬車の使い方を習ってみるかい?」
「え?大丈夫なんですか。」
「ああ、心配ない。慣れれば子供でも出来る。」
「ユキアもできるの?」
「いえ、私は苦手でできません。でも、タカさん良い機会だと思います。」
言われるとおり、慣れるまでが心配なのだが。まずは、手本を見せてもらえるようだ。確かにそうだ、すぐ手綱を渡されてもスパルタとしか思えない。
「まずは進むと停止だな。停めるのは今はできないが、早すぎるときは両手をやや引き気味。思い切って引かないほうがいい。逆に自由に進ませるときは緩める。そこら辺の感覚は馬のほうが慣れてるさ。今ここは一本道だが違うほうに進み始めたら、クイクイっと顔を向ける感じで引けばいい。」
「もっと思い切って引っ張ってると思ってました。」
「速度が出ると、有る程度引かないと気が付かないがな。のんびり進んで行く分にはこっちも力を抜けばいいさ。」
そう言うと、オルソンさんは手綱を手渡してくる。俺はやや緊張しながら受け取り、手綱の緩み具合に手をグーパーしていると。
「もう少し、短く持って・・・そう、そのくらいで良い。・・・少し引いてみな。」
クッと手綱を引くと、ガクッと馬車の速度が落ちる。
「じゃあ、早くしてみるぞ。」
俺の両手で握る手綱を、オルソンさんは片手で握り、ピシッと手綱で馬の首を打つ。すると先ほどとは逆に速度が速くなり元の速度に戻る。
「どうだ?簡単だろう。」
「え、ええ。」
俺は緊張しながら、それでも嬉しさでいっぱいだった。初めて原動機付き自転車に乗ったときの気分だ。ドキドキと若干の加速感。しかも、馬という生き物が答えてくれていることに俺は感動していた。
「また、機会があれば練習するといい。」
「ええ。ありがとうございます。」
そういうと俺は手綱をオルソンさんへ返し、もう少し広い道で練習してみたいと思う。
「お兄ちゃん、もうだいぶ気分良いみたいだね。キャハハ。」
「本当、良かったですねタカさん。」
そう言われ、気がついてみると馬車に酔っていた気分も無くなり。頬に当たる風も爽快感を増していた。
俺たちは野営地に到着したあと、食事を終えてようやく一息つける時間になっていた。
「じゃあ、タカさん良いですか?」
「ああ、よろしく。」
ユキアは俺の両手を自分の両手と重ね、向き合うように座りながら目を瞑っている。周囲には息を呑む冒険者達もいるが俺はそれも気にならないほどに、ドキドキしていた。周囲は夜になり闇に包まれ、近くにある焚き木の炎しか明かりは無い。俺も同じく目を瞑り、ユキアの魔力を感じるように集中した。
「ほお。」
「シー。」
冒険者から漏れる驚きに、ミーシャは黙らせるようにしてくれる。その驚きの理由はユキアの両手に集まる魔力の光だ。俺と両手をつないでいるため、魔力の銀糸は見えない。しかし、両手からの光がだんだんと俺の腕から体を伝わって行くのが見えた。目を瞑った俺自身はその光に包まれるとともに、ユキアの魔力の暖かさを身体に感じて満たされて行くのがわかる。おそらく、かなりの魔法量をユキアは消費しているだろう。それでも、俺の魔法力を引き出そうと満たしてくれる。
「ありました・・・。大きさは十分だと思います。あとは・・これを引き出せば・・・。」
「「「「・・・。」」」
皆、息を呑み結果を待つ。
「くっ・・・。」
ユキアの表情がやや険しくなる。しばらく、ユキアが頑張っているように周囲からは見えたが、次第にユキアから魔法の光が弱まり・・・ついには。光自体も消失してしまう。
「ふう・・・。」
「どうだ?」
俺が聞く前に、リーダーのワングさんが結果を気にしていた。
「タカさんすみません。魔力は十分にあったと思います。でも、私には引き出すことができませんでした。」
「私がやってみようか?」
「いえ、あれは・・・そう、魔力の塊というより絡み合っているんです。きっと、次は解いてみせますので。」
「そう?なら任せるわ。」
俺は複雑な気分だった。少し残念な気もするが、まだ数日前に魔法を使えるようになったのだ。すんなりと魔法の銀糸がでて嬉しいかと言われると複雑だった。しかし、希望が無いわけでは無いらしい。今はいつかは引き出せるだろうと納得する。
「ありがとう、ユキア。疲れたろう?」
「いえ、だいじょうぶですよ。」
「タモト君、気を落とすなよ。」
「「ドンマイ。」」
冒険者の皆も魔力を引き出す儀式を見れたことで十分だったのだろう。結果は出なかったとしても、皆の表情は晴れやかだった。
「よし、それであ、各自警戒の交代を頼む。ユキア君もタモト君も気落ちせず、無理せず頼んだよ。」
ワングさんから事前に夜間の警戒の順番が伝えられていた。素人であるユキアと俺は寝入りばなと明け方に順番が振られており、その時間になれば起こされる。各自2時間~3時間を警戒するらしい。今はまだ時間として夜の8時くらいだろう。朝まで11時間ほどあるのだ。2人組みの5組に分けられ、それぞれが担当することになっていた。初めはユキアとオルソンさんのようだ。俺は馬車に戻り寝ることになる。俺の順番は一番最後の朝の4時~7時という事だ。
「おにぃちゃん、残念だったね。」
「ああ、でも、希望が無いわけでもないさ。」
「ウン。」
ミレイにつぶやきながら、俺は内心自分の中にあるという魔力を不思議に思っていた。
「・・・・何が絡まってるんだ・・・。」
「・・・ン?」
「いや、なんでもないよ。」
俺は毛布に包まりながら、眠りの中に吸い込まれていった。
読んでいただきありがとうございます。
次は少しの戦闘シーン、ファンタジーにしてはどんどん書きたいところですね。




