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魔陣の織り手:Magical Weaver   作者: 永久 トワ
運命の邂逅編
133/137

14

 まだ暗闇が満ちた森の中を、枝木を折らず避けながら(サイアス)は木々の合間をすり抜けて駆けていた。

 ゾンビメーカーによって動物の死骸が起こした騒動から、身を守るためか虫の声も無く、不気味な静けさのみが周囲に広がっている。

 一度歩みを止め、追手や飛竜(ワイバーン)の追跡の気配を確認するように耳を澄ました。


「判断を誤りましたか……いえ、予想外も含めて、あのままでは目的の達成は困難になった可能性があります」


 時に思考や評価をする際、独白の様に声を出していた。

 ルミを残し時間をかせがせたのは、こちらの退く時間を確保するためにも必要だったと評価していた。

 ラソル国以前からパートナーとして共に動いていたが、敵地で共に倒れるのだけは愚策であると思いいたるからだった。

今回は、かの(ラソル)の王族を始末できる事が最大目標であり、最低でも所在を把握し不穏な国同士の協調への揺さぶりを行うのが自分達に任せられた命令だった。


「しかし、あの男。ラソルの?……いえ、アブロニアスの兵でしょうか?あの時に見たのは何だったのか……」


 飛竜(ワイバーン)、アブロニアス兵が到着する前、王女を仕留めようとした時にあの男が見せた動きと体に輝く魔陣の模様。思い出しても、今まで報告された事の無い現象だった。

 つい慌ててしまい、ルミへ強い口調で指示しまった事を自分らしくないと苦笑する。

 慌てる事は、冷静な判断を欠くとルミにいつも言っていたんですがね……。

 J(ジュエル)シリーズの人造魔宝石を埋め込んでいる自分やR(ルージュ)シリーズとして、生まれながらの高魔力を持つルミ達でさえ、あのような魔力の輝きを見せた事は無かった。

 あの時には、魔力からの体への負荷がどの程度なのかと、未知の現象に対しては一旦引く事を選んだのだ。


「妖精使役だけの力とは思えませんし、多くいるとは思えませんが、でも報告すべきですね」


 ルミはもし倒されても、身元の判別できるものは何も無い。

 しかし、自分の場合、体を調べられれば体内に埋め込まれた魔宝石が見つかり、相手への情報を与えてしまう事は避けなければならない。

 やはり、ルミとの合流や王族追跡の続行はあきらめ、一旦自国へ戻り態勢を整える事が重要だと判断するしかなかった。


「無口な子で良い話し相手だったんですがね……」


 苦笑を無表情に戻すと、ローブのフードを再び深くかぶり、ローブの隙間などで枝木が掛からないよう引き寄せると再び木々の合間を駆け抜けていくのだった。



 村に差し込む朝日は、いつもと変わらない様に山肌より森の木々を照らし始め、マリーナにとって今までで一番長い夜だったと感じながら、その日の光を眺めていた。

 頬や手に付く泥汚れが、昨晩の出来事が夢で無かった証として残っていた。

 あの後、安全が確保できるまで分かれていたアリシア達と合流し、治療の成果か立ち歩けるまで回復していた事を互いに喜んだのも一瞬だった。

 治療した兄の面影を持つタモトという男性をアリシアに再度紹介し、今は意識がない事に回復したアリシアは表情を再び曇らせていた。


「ハント、どうだ?」

「団長、見当たりません。恐らく近くには居ないかと。カインの眼でもそれらしいものは感じなかった様です」

「そうか、ハントとカインは今のうちに休んでおけ、休息後王都へ報告を頼むことになる。我々は、しばらくはここに足止めとなるだろうからな。しかし、姫様達は王都へ速やかに移動する必要が有るだろう、その手配も必要だ」

「分かりました」


 避難していた建物(はなれ)から外に出ても大丈夫だと安全が確認されたのは、1刻前(6時頃)だった。ようやく明るくなり始め、周囲の状況を確認し易くなってからだった。

 今も騎士であるココは傍に居て、危険がない様に周囲に気を配ってくれていた。


「ココ、大丈夫かな?」

「マリーナ様?村人は幸いにも無事と聞いております」

「そう……」


 今回の騒動と自分が狙われた事にショックを受けていた。

 ラソルに居る時は、ほとんど外出する機会も無く、最近になって機会が増えていた矢先、護衛されながらも初めて感じた自国(ラソル)の事や、急遽身の安全の為に隣国(アブロニアス)に行かなければならないなど、かなりハードな状況である事に気持ちが追いついてなかったと改めて感じる事になった。

 そして、明らかに自分の命が狙われた事が、じわりと染み入る様に心に響いていた。


「お兄ちゃん……」

「どうかされましたか?マリーナ様」

「うん……」

「御具合が悪ければ、一旦家の中へ戻りましょう?」


 朝日を見てホッと安心した半面、起きた事の現実がジワジワと思い出されていた。

 ココに促されるままに、再び屋内に入っていく。


(まだ、起きないの?)

「マリーナ様……」


 テーブルを繋がれた上にタモトが寝かされていて、何度見ても起きる様子は無かった。

 視線は眠る姿を見つめ、ココは心配そうにマリーナとタモトの姿を見比べる。

 神殿の巫女であるレーネが言う様に、魔力が枯れた状態だと言うのだが、それがいつまでなのか誰も答えをマリーナには教えてくれなかった。


「16年か……」


 マリーナとしてラソル国で生まれ、16年が経っていた。

 前世の記憶があると言っても、物心がついて思考力が追いついたのが3歳の時だ。

 今でもあの時の自分が生まれ変わったと気付いた衝撃は忘れられない。

 目の前にいる16年前の兄の姿に似た男性。あぁ、こんな感じだったなと懐かしさがこみあげてくる。

 でも、本当にもし何らかの奇跡か何かで兄ならば、今ではとうに30歳を超えているはずだ。前の私が死んだのが14歳だったから……。

 今はどう見ても、横に眠る姿は20歳前後にしか見えない。

 他人のそら似という勘違いもあるかも知れないが、タモト(田元)という私の前の苗字も、否定しきれない情報の一つだった。

 そうそう、昨晩は女性の姿でもあったのだ……、突然姿が変ったりして訳が分からない。


「お姉様、タモト様は大丈夫ですか?」


 即席の朝食の準備が始まり、団員と共にアリシアとリーネが共に食材を運んでいた。


「アリシア。もう平気なの?」

「はい、皆さんよりも私が元気なのが申し訳ないのでお手伝いを」

「リーネも休めた?」

「問題―ないです」


 リーネは淡々と返事をしながらも、顔色はやや悪いままだった。

 さすがに、昨日の疲れは直ぐには取れないと思う。


「無理しないでね」

「はい」


 コクンと頷きながらも、リーネの様子には気がけておこうと思う。

 リーネにはアリシアの治療から、襲撃と魔力の枯渇の症状を見てもらったりと休む暇も無かったはずだ。

 ここがラソル国なら、何らかの褒賞を貰えるんじゃないかと思うくらいだった。


「姫様……渇きも潤い―暖かい火―穏やかな風も私達と共にあります……」

「うん?そうなの?」


 確かに、村の水には問題が無さそうで、必要によって暖炉を使う事もできる。また、窓を開けると今は少し寒いがそよ風が入ってくるだろう。

 そういった身近な生活調整の事をレーネの神殿では教えているのだろうか?

 確かに、教養という学習よりも神殿の教えとして一般的に教えた方が浸透するはずだと思う。それに、確かに後で、少し空気の入れ替えをした方が良いだろう。やや埃も気にはなっていた。

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