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「それで?ねえ、どうなってるのよ。全く映らないじゃない」
「あっ、お姉様。お早いお帰り」
「うん、着替えに戻っただけだからね」
一旦自分の居室に戻っていたフレイラが、堅苦しいヒラヒラの衣服から着替えを終えて再びユルキイアの元を訪ねた時には、前の状況と何も状況が変わっていなかった。いや、ユルキイアの眉間に皺を刻んだ表情が余計に深刻さを増している事を物語っていた。
「……切れました」
「切れたって、そりゃあ、写ってないわよね。それで?どの位で見れるようになるの?」
「繋がりが、切れたんです」
水鏡の鏡面を波立たせたり、枠をゆすったりしていたユルキイアは呆然と呟いた。
「はぁ?切れたって、それってどういう事よ」
「お姉様、死んだということでは?」
「いったい何が起きたら死ぬっていうのよ?さっきまで飛竜に乗ってたんでしょ?まさか、苦手だったみたいだし、驚いてあっけなく空から落ちたとでも言うの?」
「さあ、私には分かりませんけど。繋がりって神痣を授けた繋がりでしょう?それが切れたって事は、やっぱり死んだんじゃありませんこと?」
「タモトさんが……死んだの?」
ユルキイアは話し合う二人の様子を呆然と眺め、繰り返す様に呟く。
「そ、そうと決まったわけないじゃない。ほら、リークも!ねえ、心配しなくても何か調子が悪いだけでしょ」
「はぁ、お姉様、何の調子ですか……」
「そりゃあ、あれよ。色々あるやつよ」
「分からないです。お姉様」
「……」
乱暴に自分の髪を掻くフレイラは、ふさぎ込むユルキイアに何と声を掛けてよいか躊躇い、自分もまだ繋がりが切れたというタモトとの繋がりも切れている事に改めて確認し、大丈夫と言いながらも不安を感じていた。
傍らで見つめるリークは、何処か他人事の様に黙る二人を見つめているだけだ。
「……会いに行きます」
「えっ?何て言ったのよ?」
「タモトさんに、会いに行きます」
「ちょっと待ちなよ。ユルキイア!もう一度降りる事なんて許されるわけないじゃない。今度は何を言われるか、分かったもんじゃないわよ」
「分かってるわ。でも、何があったか確かめないと」
「だからって直接行くわけにはいかないじゃない。私達の行いが他の神々のバランスにどんな影響を与えるか」
「お姉様、直接降りなければ良いのでは?ただ、状況が分かれば良いのでしょう?何も私達女神の力を示さなければならない事態でもありませんし」
「でも、それなら、どうするのよ」
「……あの子、そう、ユキアの助けを借りれれば」
「ユキアって、ユルキイアが贔屓にしている村の子だっけ」
「贔屓……一応、あの子も巫女なのだけれど」
「ああ、巫女の助けをねえ」
「お姉様方、巫女と交感するという事ですか?」
「まあ、そう言う事よね」
「ええ」
確かめる様に問いかけるフレイラにユルキイアは頷きながら答えた。
「交感ですか。可能性はあるのではないでしょうか。他の神様たちにも1つの理由付けにはなるのではないかと」
「そうよね、私たちはいつも通り巫女との語らいをした……。いけそうね。それに、面白そうじゃない。ユルキイアだけに任せてたら心配だから、私も行ってあげるわ」
「ふふふ、私だけ置いてけぼりなんて無いですわよね?」
二人の女神も同じく付いていくという言葉に、ユルキイアの表情が和らぐ。
「はぁ、フレイラも全くの無関係じゃないし、二人が何よりも来てくれるのなら心強いわ」
「そうでしょう?」
「でも、お姉様達とは、それぞれ遠く離れてますでしょう?特に私なんて、どうやって集まれば良いのですか?いったんどこかの街にとやっていても、より時間ばかり掛かりますわ」
「そこは任せてくれていいわよ、ゆっくり……いいえ、すぐに迎えに行くから、待ってなさい」
「え?ええ」
「じゃあ、そうと決まったら、すぐに行きましょう」
「分かりましたわ」
3人の女神たちは、不敵な笑みを浮かべながら、それぞれの居室世界に戻っていくのだった。