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魔陣の織り手:Magical Weaver   作者: 永久 トワ
運命の邂逅編
127/137

8

 意識を失ったタカを横にした後、手の空いたレーネが団長のクルガーへ報告をしに行った後だった。

 広いとも言えない2階の客室の廊下を数人の荒い足音が団長の部屋をノックし入っていくのが分かった。


「どうしたのでしょう?何やら慌ただしいですが」

「そうね。何かあったのかしら」

「マリーナ様、少し休まれては?」


 治療が終わったらしい様子に、少しばかりかアリシアの表情も穏やかになっている様に見えていた。何より吐く息がか細くなく落ち着いている事が、治療の効果を期待させてくれた。

 ココが気にしたのは、マリーナが精神的な疲れのあまり呆然とタモトという女性を見つめていた様子を気遣って声かけたのだ。


「大丈夫、ありがとう」


 コンコン

 ココがこの場は無理にでもマリーナを休ませようと、歩を進めようとした時だった。ココを止める様に部屋の扉がノックされた。

 マリーナへ向かおうとした足を扉の方へ向け直し、扉を開ける。


「治療は無事終わったようだな。しかし、まずい事になった」

「クルーガーさん、どうかしたのですか?」

「つい今しがた報告が入った。この村がゾンビメーカーに襲われているようだ」

「ゾンビ?ですか?」

「マリーナ様、ゾンビはご存知ですか?それらは、無差別に動物や人間を襲います。もし、手傷を負うなどでも感染するため、慎重に討伐などされますが……」

「それならば、しばらく屋内に閉じこもるのですか?」


 マリーナが対策として最も事を言う。襲われない様にするためには、外に出ない事が一番だと言う事だ。


「ええ、幸い発見が早かったのかまだ十分には村中に入ってはいないようです。ですが、小さい村で有ればあるほど、家畜の被害が多い場合の村の損害が大きいらしく何とかして欲しいと依頼がありまして。それに、私達には獣達の事もありますので」


 クルーガーの説明では、閉じこもるのも手段の一つだが、村の存続に関わるほどの被害が容易に出やすいため、村側からは何とかして欲しいという事らしい。

 そして、彼らの部隊としても突発的ではあるが、見過ごす事も出来ないと言う判断の元で改めてマリーナへ伝えに来たという所だった。


「分りました。私達はここに居れば良いのですね?」

「お願いいたします」


 クルーガーはやや引き締めた表情でお辞儀をした後、部屋を出ていこうとする。


「あの、私も何か手伝えることが?」

「そうですね……、マリーナ様、他の方々をお守りいただけますか?」

「わかりました」


 他国とはいえ、部隊を率いた事のある隊長として何か出来ないかとココが質問する。呼び止められたクルーガーは部屋の中を一瞥すると、一瞬の思考ののち返答した。

 暗にこの部屋の方々をお願いいたしますとの、改めての確認でもあった。


「それでは(コレ)を」


 クルーガーがココに剣を手渡し部屋を出た後、ココはマリーナを休ませるのを一瞬ためらった後、部屋の窓側へ向かいわずかに木戸を開けて外を伺えるようにした。


「マリーナ様、大丈夫ですか?」

「ええ、私にはお父様から頂いたコレがあるから」


 体調を聞いたココの質問に、マリーナは見当違いに自らの荷物から細長い木箱を引き出す。それを見たココは僅かばかりに言葉を失うのが分かった。


「それは、まさか、それをお持ちとは」

「私も、お父様が言うには。お世話になるから?お土産?キョウヨ?って言ってたかしら」

「……なるほど」


ココは、出来ればマリーナ様に手渡された物を使わないで済むようにと思ってしまい、軽く息を吐いた。

ガタッと扉を開けて入ってきたレーネは、ココのやや困惑した雰囲気を感じ取った様子だった。


「……どうか、しましたか?」

「いや、何でもない。レーネも疲れただろう、寝れる状況では無いかもしれないが、少し休んだらどうだ?」


 目をターバンにて覆いながらも、数日に渡り看病をしてきた苦労は想像に難くなかった。やや、頬にも影が差しており、倒れはしないまでも疲労が貯まっているのは見て取れた。

マリーナはまだ休むつもりはないのだろう。横に寝かせたタモトといった女性に毛布を掛け、次にはレーネの休む床までも整えようとしようとしていた。


「マリーナ様、それは私が」

「いいの、させてちょうだい。私はただ見てただけ、何もできない自分が嫌なの。それに、昔をちょっと思い出しちゃってね」

「昔ですか?」

「……うん」


 詳しくは語ろうとしないマリーナは、それ以降黙ったまま眠りに入ったアリシアの額の汗を拭いたり、新しく着替えるための服などを用意していた。

 アリシアに付き添っていたキアは、マリーナ達が気付く頃にはアリシアのベッドにもたれかかり寝息を立てていた。皆気付かなかったが、アブロニアスの首都から戻ってすぐに治療を始めたため、誰もキアの疲れに気付く余裕も無かった様子だった。


「ココ、キアさんをお願い」


 さすがに、もたれかかり眠る彼女を抱えて横に寝かせる力はマリーナには無かったため、ココにお願いするしかなかったようだ。


「うぅん……」


 幸いにも起こすことなくココはベッドに横に寝かせ、レーネも端へ腰を下ろした。


「ココ……先程のは何だったの?」


 マリーナがふとキアへ毛布を掛けながら呟くように聞いた。

 その呟きに、ココもレーネもマリーナが聞きたい質問が何を知りたいのかすぐに分かった。


「治癒の魔陣でしたか……」

「そう言ってたわね」

「……私の知る、魔陣、と違う」

「レーネが知らなければ、自分たちに分かるはずもないな」

「そうね、私なんてほとんど見たことなんか無いんだから」


 3人居ても、結局はアブロニアス王国の魔陣の力や方法は、自分たちのラソル国とは形式が違うのだろうという結論しか出なかった。


「この方・、は神痣シュメリア、を持って……る?」

「シュメ、リア?」

「マリーナ様、神痣シュメリアとは神から授かる異能の様なものだと聞いています」

「ええ、ママル先生から習ったことがあるわ。絵本の中の話だけだと思ってたけれど、神様って本当に居るものなの?……あっごめんなさい。レーネ」


 マリーナはレーネが神宣を行う巫女である事を思い出し、それを疑うような言動を言ってしまったことに謝罪した。

 レーネ自身は気にしないとでも言う様に首を振る。

 しかし、何かレーネ自身も腑に落ちないという風に頭を傾げ、分かるようで分からないという感じであった。


「そうそう、それに変な事を言ってましたね。今はこういった姿をしてますがとか、団長のクルーガーは納得していましたが」

「そうね、キアさんとは前からの知り合いみたいな様子もありましたね」

「彼……?彼女?……」

「どうしました、レーネ?」

「分からない……」


 レーネはまだ、タモトへ視線を落とし何やら考えている様子だった。

 ココやマリーナもまだ付き合いは短いが、彼女レーネしか分からない事が何かあるんだろうと聞くのを諦めてしまう。何かあれば、言うだろうし。本人が分からないと悩むのを聞きだすほどレーネが悩む程の理由が分からなかった。


「……ぅ、……ん」

「あっ、タモトさん?」


 レーネが作り出した不思議な雰囲気の中、感じたのか気を失っていたタモトが覚醒し瞼を開ける。


「……この感じ?」


 タモトは声をかけたマリーナへ視線を向けたかと思いきや、視線が結ぶ先はマリーナを通り越し宿の外を見つめていた。


「タモトさん?大丈夫ですか?」

「……」


 起きたと思ったのは違ったのだろうか、まだ半覚醒のうつろな視線を外へ向けたまま、マリーナの声掛けにも返事をしない様子に、見つめていた3人が声をかけて良いものかと戸惑う雰囲気が部屋の中を占めてしまう。


「あ、あの。タモトさん大丈……」

『女-蜂、ど……に―居ま―か?』


 もう一度、マリーナがタモトへ声をかけようとした時。急に頭の中に声が響く。

 なぜという疑問より先に、音の無い声が反響するように不明瞭ながらも聞こえてくる。


「なんだ!この声は」

「声テレパス?……」


 マリーナは頭を抑えながらも、聞こえてきた声に集中しながら、その聞こえてきた声は自分だけでなくココやレーネもまた聞こえている様子に驚いた。


「レーネ?この声って……」

『あぁ、見ぃつけました……ククク』


 先ほど不明瞭だった声より、より鮮明に聞こえるような声に不気味に感じながら、マリーナは不安に両手を抱くように細かく身震いした。


「なに!?この声は」


窓から外を見ていたココも、突然響いた思念の声を聞いたように振り返り周囲を警戒し視線を巡らせた。

実際、声が聞こえた感じではない、マリーナだけではない部屋中の皆の頭の中に響いた男性の声、見えなくても気味の悪い微笑を含んだ声色に、彼女はおのずと不快感が背筋を這うような悪寒も感じてしまう。


「レーネ、大丈夫?さっきは声テレパスって?」

「……マリーナ様、気を、付けて……来る……」


 マリーナは何が?とは、レーネに尋ねたい思いは、彼女の苦痛の表情からは、質問したとしても答える余裕が無い様子であることを感じ取らせた。

 ココは警戒を強め、長剣を抜き、何事にも即座に対応できるように視線を配っている状況が余計にマリーナさえ気を緩ませるのは、まだ早いという事を本能で感じていた。


「来るって?ゾンビが?」


 マリーナの声掛けも明確な答えを希望した質問ではなかった。何が起きているのか分からない。不安な不気味さが続く不快感を何とか解消したかった思いからの言葉だった。

 マリーナはふと視線横に向けると、レーネの他に無言のままの一点を見つめたタモトの姿があった。


「タモトさんも、大丈夫ですか?」

「……」

「タモトさん?」

「えっ?あぁ、ごめん、ボーっとしてた」


少し強く呼びかけると、ようやく気付いてくれた様子だった。


「タモトさんも、声が?」

「ええ」

「さっきのは何だったんでしょうか」

「……ですね」

「一方的、な、声テレパス、でも、何か見つかった?……探した、ような?」

「テレパシーってやつか……」


 タモトさんは何か納得いった様子だった。

 マリーナは、この世界に生まれ変わって以来、前世と違う魔力の事については、成長する段階で自然に受け入れることが出来ていた、あぁ、そうなんだなという程の理解を出来ていた。

 おそらく幼少期からの普通にそこに有・った事で柔軟な思考と物心つく時期には不自然なく受け入れが出来ていた。しかし、先ほど起きた、思念の声テレパスという現象には、初めての体験であり直接頭の中に響く思念に正直驚き、また、不気味な男性の声という事もあり、まだ胸がドキドキしてしまっていた。

 彼女は、まだまだ、体験したことが無い事があるのだと、驚きと不安が混ざった感情を感じていた。


「タモトさんは平気なんですか?」

「あぁ、ちょっとまえに似たことを経験したことがあって」

「はぁ、そうなんですか?」


 アブロニアス王国の人の魔術様式ゆえなのか、それか、タモトさんの様な治療術を使える人にとっては、珍しい事ではないのかも知れないと考えてしまう。

 マリーナは、やはり転生してもなお、自分はこの世界について知らない事が多いのだと認識していた。


「マリーナ様、ゾンビメーカーということ以外にも何かが起こっているようです。クルーガー殿ならば大事ないとは思いますが、一応ご注意ください」


 マリーナがタモトと話していた様子に、ココが警戒を続けながら視線を宿の外へ向けていた。確かに、微かに開いた窓からこぼれてくる話し言葉の内容に、緊張を含んだ声色が聞こえてくる。


「うん、そうよね」


『――があった?むか――った―んらく――か?』

『わか――ん、ひのて――だけで』


 窓から聞こえこぼれてくる声にやや困惑の混じった声が聞こえてくる。

 明らかに、先ほど感じた声といい、動物たちが騒がしいだけの様子では無い様子だった。


『―-れ!!』

『やめる―だ!きこ――――シス!』

「お嬢じょうさま!」


 急に緊迫感のました声とともに、窓の外を眺めていたココが困惑と緊張の表情で室内の方を振り返る。


「どうしたの!?」


 マリーナは、ベッドに腰かけ座っていたタモトの横から、ココの困惑した表情に自分も窓の外の状況に興味が引かれ移動する。

 日が沈み暗闇となった宿の周囲に、かろうじて数名の団員と団長のクルーガーが居るのが見えた。皆帯剣に手をかけ一様に同じ方向を向いていた。

 しかし、団員の手をかけ構える様子を見せてもなお、抜剣までしていない様子に声は詳細には聞こえないまでも、判断を一瞬ためらう様子をうかがう事が出来た。


「どうしたのかしら?」

「お嬢様、あちらを!」


 ココがマリーナへ素早く示したのは、一様に団員が目線を向けていた先だった。


「え?あの人は……シスさん?」


 ぼんやりと暗がりに立つ姿は、右手に短剣を握り、左手に鞭を地面に引きずり立つシスの姿だった。

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