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魔陣の織り手:Magical Weaver   作者: 永久 トワ
運命の邂逅編
125/137

6

どうしたらいい?という疑問は、次々に浮かんでくるイメージによって疑問が解決し自信へと変わっていく。

 ユキアに引き出された魔陣の力、自分の工夫してきた魔陣の数々、女神から教えられた魔陣の神髄。

 自分は魔陣について少しづつ、成長をしてきたのだと実感していた。


「タモトさん……お願いします」

「時間が惜しいので、任せて下さい。今やれるだけの事をやってみます」

「わかりました。ココも良いですね」

「……はい」


 マリーナの問いかけに、一瞬思考する表情を見せるが、視線をこちらへ向けると、承諾の返答を答えた。


『んーそれで、うちは何をすればいいの?』

『俺が治療をしている間、アリシアの様子に気を配ってくれないか?おそらく、全身の状態まで気を向ける余裕が無いと思うんだ』

『そっか、うんうん、わかったよぉ』


 ミレイの理解した返答を聞くと、アリシアの手を握ろうとするが一瞬自分は考えてしまう。

 魔陣の織り手は、初めて魔力を引き出される際に両手を用いて身体の奥に眠る魔力からの魔力路を構築される。

 しかし、今必要なのは魔力路を形成することではない。体の奥、下腹部にあるアリシアの魔力の活性化とそれをもちいた治療にあった。


「アリシアさん、失礼するよ」


 アリシアも分かっているのか、うっすらと目を開け、こちらを向き頷いた様に見える。

 声掛けをして衣服を捲り腹部を晒すことに、周囲に居た面々はもう何も異論を言う事は無かった。


「すみません、タモトさん。私が手を握っていても良いでしょうか?」


 マリーナが今までそうしていたのだろう、アリシアの手を握って居てもらうことに支障は無いように思えた。


「分かりました。キア、マリーナさんに場所を譲ってくれる?」

「もちろんです……頑張ってねアリシアちゃん」


 キアはマリーナと場所を交代し入れ替わる。キアの声掛けやマリーナが触れた事でわずかにアリシアの力みが抜けたような感じがした。


「すみませんが、説明しながらの余裕がありません。ポイントはアリシアの魔力を引き出すこと、魔陣の構築、治療の部位への実施の3つです。それぞれが順調にいくように頑張ります」


 一同にそれぞれのタイミングで説明しながら実施していく事は、さすがに集中が途切れる可能性が高かった。

 周囲の一同も了解したのか黙して見守っていた。


コンコン

「団長、良いですか?」

「どうした?」


 クルガーに団員の一人が報告に来た様子だった。緊張した雰囲気のためか聞き返すクルガーの様子もやや緊迫した口調になっていた。


「すみません、獣達が落ち着かないです。こんな事は、久しくなかったんですが」

「気付いたのはいつ頃だ?」

「半刻くらい前から、しばらくしたら落ち着くかと思ったので様子を見ていたんです……この様子はまるで」

「わかった。獣達の直感は信じないわけにはいかないな。シス、村の周囲をもう一度確認してくれ」

「わかりました」

「お父さん、私は……」

「キアはここに居てやりなさい。戻ってきてまだ休んでもいないだろう?色々心配だろうが、少し休んで欲しいが……そうもいかないなら、何かあった時には直ぐにでも教えてくれ。タモトさん、よろしくお願いします」


 クルガーは部下の団員に指示をしながら部屋を出ていく。

 手の空くココには少しでも部屋が少しでも暖かくなるようにできないか相談してきて欲しいと伝えた。

 レーネは、唯一自分以外の治療の魔陣を使える巫女なのだから、緊急の時に居てもらった方が心強い。


『それじゃあ、始めようか』

『うん!』


 アリシアの下腹部に両手を当て、自らの魔力の銀糸を浸透させていく。


「あっ、あぁ」


 そう、他者の魔力の浸透は熱いくらいに暖かい。アリシアの次第に上気していきピンクに染まった頬が、順調に始められたことを示していた。


 魔陣によって知覚するアリシアの体内の情報は、今まで感じた中でより鮮明に感じることが出来た。

 腹壁の筋肉の緊張。腸管の張りや蠕動の動き。走行する血管の拍動まで知覚することが出来た。もちろん、実際に視覚情報として見ることが出来ている訳では無い。

 身体情報を知る魔陣に加え、自分の中で何か変化が起きているのを感じたが、悠長に思案している程の時間は無かった。


『どうしたの、お兄ちゃん?』

『いや、何でもない。ミレイはアリシアの魔力を感じるか?』


 先程は、皆に治療方法について検討があると言ってみたのはいいものの、自分の魔力消費にも限界がある。治療途中に魔力が切れてしまったでは、言い訳にもならないのだ。

 恐らく、治療は可能だ。しかし、衰えた体力や起きた炎症後に状態が悪くなる可能性の方が高いと思えた。


『うん、大丈夫感じれるよ。小さいけれど……どうするの?』


 そう言うミレイの言葉通り、ピンッと研ぎ澄まされた感覚の中に、唯一暖かさを感じる部位が臍の下あたりにある事が分かる。


『分かった。これさえ分かれば……これか』


 体内へ伸ばした魔力の銀糸がアリシアの魔力の源へ触れた途端、ほんのりと暖かい温もりを感じる。

 あとは、この魔力から経路を患部へ導く方法は、2重の銀糸が螺旋を描くようにアリシアの魔力を導きながら経路を形作る。


『me-zn(水で)zo-kt(清める)cu-rn(治す)』


 何がという理由があった訳では無い。考えるよりも先に、魔陣の文字形成がアリシアの魔力と共に形作られる。


「あとは……」

「タモトさん」


 隣で呟くキアの声も、アリシアへの不安というよりも不意に返事を返した様子だった。

「大丈夫……、何か……、凄く、良い」


 レーネもまた、何かを感じている様子だった。

 しかし、根本として炎症を起こしている患部は、まだそのまま手付かずだ。


『くっ、燃やすわけにもいかないよな。どうすればいい』

『体の中で燃やすのー?』

『それが出来ないから、どうしようかって悩んでるんじゃないか。だいたい、燃えるのか?人の中で、体内だぞ……』


 火を付ける魔陣は使ったことがある。まさにボッと燃える感じだった。

 ユリアさんが患者を止血し治療した時でさえ、血液を凝結させるというよりも出血していた部分を焼いてるといった方が良かったのだ。

 そんな実験的な治療はさすがにできそうにない。あとは患部を取り除くだけなのに上手い手段が思い浮かばなかった。


「開い、て……切り取る?しか……」

「くっ!」


 レーネが考えを読み取った様に呟いた。

 それに答え、戻ってきたココが表情を曇らせる。もはや、一国の姫に残る傷と瀕死の命の前では制止の言葉も飲み込んだ様子だった。


『どうしようもないの?』

『……まだ試してない事は、ある……でも』


 試していない手段とお腹を切ってショック状態となる危険を犯すよりもと思考の中で苦悩する。


「タモト……さん、……お願い……します。私は、大丈夫、です……」


 不意にアリシアの声が発せられる。

 そうだ、彼女も必死に耐えていた事を思い出す。

 自分の中で何かが振り切れた気がした。それは、決断の天秤がどちらかを選択した様に明確に決まった気がした。


「分かった……」


 決断した後の動作は素早かった。右手を一度アリシアより離し、自らの魔力のリミットを解除する。何分、いや、何秒持つかわからない。しかし、自分に出来る最上の治療には、神の魔陣を使うほか無かった。


「何だ!?」

「……眩しい」

「タモトさん!」


 輝くほどの魔陣の光に驚くココの声が聞こえる。

 頭部の視界を遮るレーネでさえも、魔力の輝きに不意に腕で目の前を庇う様子を見せる。

 もう、言葉さえなくても、うっすらと瞼を開くアリシアの瞳には理解の輝きが見えた。


『何?何!?なにぃ?えっ、えぇーええええぇぇぇぇ!!』


 ミレイの五月蠅いまでの声が鳴り響くが、何故かミレイの声が遠くなっていく気がした。

 右手の手背には魔陣の模様me【水】fr【火】の文様が浮かび上がる。そして、ゆっくりとアリシアの腹部に沿わせながら、ここだという所で指を伸ばすように差し込んでいく。


「アリシア様!」

「破壊……と修復」


 ココは、腰に帯びた剣の柄に手を当て、不安で剣に手を沿えるしかない様子だった。

レーネが言ったように、今自分が試みていないと言ったのは、神の魔陣による魔力の重複使用だった。

限定的に患部を燃やせないのであれば、取り除くしかない。しかし、取り除くために外科的に切除すれば、数日の内に悪化し脱水状態や体力の落ちたアリシアには激痛によるショック死もあり得た。

 今まさに、右手に作りだした神の魔陣によって、腹部表面を【火】の魔力によって破壊し、同時に破壊した周囲の組織を【水】の魔力によって治癒させていく事で、右手をアリシアの体内へ文字通り貫くように潜り込ませていった。


「痛くないかい?」

「はい……少し」


 全く痛くない筈はないだろう。しかし、治癒を同時に行う事で激痛までには至らず、また、流れ出る出血も幸いな事に全くなかった。

 これか……手の甲まで差し入れた時、患部に到達したことが分かる。どうすれば?という疑問はもうない。破壊と治癒、それを患部をとらえ行うだけだ。


「いくよ?」

「ハイ……」


 何が?とは、もう周囲に居る皆は聞かなくても分かっていた。

 確認した患部を指先で掴みゆっくりとアリシアより引き抜く。

 差し出した手を抜く間も、徐々に治癒を行いながらだ。


「もう、大丈夫だ」

「え?」


 隣で心配そうに眺めていたキアは、何がどうなったという表情をしていた。

 その直後、アリシアを突いていた手を完全に抜き出し、腹部にわずかに濃ゆくなった痣が出来てことに気付く。


「ごめん、痣は残るかも知れない」

「ハイ……」

「終わったのか?」

「……」


 アリシアの微笑を見たココが緊張が切れたように聞いてくる。レーネもまた思う事が有るのか黙ったままだった。


「アリシアちゃん!」

「ん!キア……ちゃ、ん」


 キアが治療が終わったのを実感したのか、治療を終えたばかりのアリシアへと抱きつく。

 アリシアもまた、キアの肩へ手をまわしていた。


「あ、やばっ」


 右手の魔力が銀糸から魔力の粉となって散っていく。同時に、魔力切れの意識が遠のく感じが急激に起きてくる。

 視界が暗くなり、四肢の脱力、体を支え切れなくなり。保てなくなった意識がそこで無くなった。

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