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魔陣の織り手:Magical Weaver   作者: 永久 トワ
召喚編
12/137

11

 白で染められた空間の中を、音もなく一滴の蒼色の雫が落ちていく。


 どの位落ちていただろう、その雫がピチョンと俺の額に当たり俺はぼんやりと意識が覚醒していく。

 俺は夢の中にいた……。なぜ夢だと感じるのかというと、水に浮き横たわっていたからだ。それに周囲は水で満たされ見渡す限りの水平線な上空にある雲を鏡の様に反射している場所であり。現実ではありえない光景を物語っていた。


「異世界の青年よ」


 ふと頭の中に女性の声が響く。懐かしい、どこかで聞いたことのある声だった。

 いつ、どこでだったか思い出せない。最近のような気もするし、遠い昔のような気もする。どこで聞いたのか思い出そうとしたが、懐かしさだけが残り、思考の中に霧がかかった様に思い出す事は出来なかった。


「ようやく言葉をつなげることができました」

真理マリ……なのか?』


 視線を横に向けると、すぐ真横に女性が立ちゆっくりと微笑で語りかけていた。

初め見間違えた妹の姿も、徐々に視点が定まってくると同時に別人である事に気付く。そう、真理とはもう、夢でしか会う事は出来ない。

 薄く青い直線的な髪、一枚の衣を体に纏う女性は美女というには一言で表現できず、誰もが始め息を呑み言葉を忘れるだろう、その透き通る、蒼色の瞳は吸い込まれる見惚れてしまう眼差しを持つ女性だった。


「無理をしないで?まだ語りあうだけの繋がりを持てません。今はただ耳を傾けるだけ」


 俺は誰?と思う疑問を言葉に出せず、ただ言う通りに聞き若い女性を見つめる。いや、俺は直感的にこの女性が自分の年齢の範疇を超えた存在であることを感じていた。


「私は貴方をこの世界に(いざな)った女神ユルキイア。まずは私の都合でこの世界へ貴方の同意無く召喚した事を申し訳ないと思っています。ごめんなさい。そして、精霊をそばに使えさせたとはいえ、十分な助力もできず、それでも村への災厄を払い、その結果、私に仕える巫女を助けてもらう事ができました」


 女神という女性の目には憂いの輝きが見え感謝を俺に伝えていた。でも、俺は誰かに言われたから助けたんじゃない。


「幾日の昔から私達は、世界の全てに対し差別無く接しなければいけないと考えるようにして世界を見守ってきました。しかし、私達も心を持ち愛おしく思う種族がいるのもまた事実。今は廃れた地となっても、私が愛した土地。そして住む人々と私を忘れず仕えてくれる巫女達を愛おしく思う気持ちは誰とも違いません」


 平等にと考えていても、信仰してくれる人達には無下に出来ないって事か。


「ええ、……本音を言えば。しかし、私はそれらが汚され破壊される夢を見たとき、私の心は悲しみに支配されました。唯一の頼みの綱も今ではもう声さえも届かない。そして、彼の世界への直接的な影響を行使できない今では、私の行える方法には、遥か昔に繋がりのあった貴方の世界の古き遺跡を使い助けを貴方に求めるしか方法がありませんでした」


 何か思いつめた表情をしながら、女神は再び顔をあげる。


「しかし、急ぐ中ようやく見つけた貴方はその魔力の素質の反面、貴方の魔法への成長は追いつかず制限させざる負えませんでした。そして、私は成約を破り(シュ)(メリア)を授ける事しかできませんでした。癒しを司る私には破壊の力は与えられず。悩んだ末に、全てを見通す『状況を認識する』力しか授けられず申し訳なく思います。しかし、貴方の想いと行動は数多くの予兆(夢)を現実にせず幼子を助け巫女を脅威から救った結果を導いてくれました」


 女神はそういうとソッと俺の左手を握って手を添える。


「私が見た夢は途中で終わりこの先がどうなるかは見えません。しかし、貴方は前の世界でもそうですが、こちらでも多くの者の命や心が支えられ助けられたと思います。どうか、これからもそのままの心で私の代わりに救いを広げて欲しいと願っているのです」


 俺は返事を返すことはできず、元の世界に戻れるのか?という疑問も発することはできない。しかし、女神はその思考が伝わっている様だった。


「存在が前の世界から居なくなったことで、世界の不均衡を修正する為に、貴方の存在の忘却が作用しています。どうしても戻りたいと願うのであれば再び私は貴方の前に姿を現し、願うとおりに力を尽くでしょう」


 俺は一瞬ためらったが、ユキアや村の人たちの事を思い浮かび今元の世界へ戻ると後悔するだろうと思いが浮かぶ。


「ありがとう……まだ、短い時間しか関わりを持っいない人々の心配を願う思いを抱いてもらえてうれしく思います。本当に、貴方を選んで良かった……そして、いつの日かまた再び会える時には言葉をつなぎ語らいながら互いに笑える事を切に願っています」


 女神はそう言うと、握っていた手を俺の瞼にあて目を閉じさせた。そう、はるか昔にかざされた母の手のひらのようにそれは暖かかった。


「さあ、深く眠ってください。たとえ夢で忘れたとしても、私はあなた達を見守っています」


 そう言われ瞼に手を添えられると、俺の意識は次第に深く眠りに落ちていくのだった。

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