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魔陣の織り手:Magical Weaver   作者: 永久 トワ
首都訪問編
114/137

24

「ぷっ、変態へんたいね……。そうよね変身したものね」

「まったく、好きで変わった訳じゃないんだけど?」

「ごめんなさいね。シャーリーのあの困った顔が頭から離れないのよ。ぷっ、ふふふっ」

「クリス笑いすぎ」


 シャーリーは日頃からあまり表情が豊かではないらしい。その点、困惑した表情が余程に印象的だったらしく、先を歩くクリスは部屋を出てからずっと笑ったままだった。

 シャーリーの手を引いているクリスと共に、エカードの執務室へ俺達は向かっていた。扉の外に居たバオは、クリスへ言伝を伝えると早々と自分の部屋へ戻っていった様子だった。さすがに、俺自身が女性になってしまった事には気付かなかったようだ。

 初めシャーリーも部屋で待っているかを聞いたクリスだったが、昨日部屋に一人で待っていたのが嫌だったのか俺達と一緒に行くと言い出し、俺が説得できる訳も無く今現在クリスが手を引きながら廊下を歩いている所だった。


『おにぃちゃん、おねぇちゃんになったの?』

『ミレイ……いいから、頼むから早くどうにかしてくれ』

『ははは、ちゃんとやってるよ。案外ここって心地よくて、もうこのままでも良いかなーって』

『頼む、早く融合を解けるようになってくれ』

『キャハハハ、ミレイも頑張るよーおねぇちゃん!』


 俺はミレイの言葉に念話も返事する事が出来ずに自然と頭に手がいってしまう。別に頭痛がする訳では無いが、頭が痛くなりそうな錯覚を覚えてしまう。


「そう落ち込む事無いわよ。世紀の大発見第一号かも知れないんだから。何ならそうね、提案者である私が論文でも書きましょうか?」

「いや、やめてくれ……」

「そう?もったい無いわね。これでアイツの悔しがる顔が見れるかもしれないのに」


 クリスはそう言うと、誰の悔しがる顔が見たいのかは明確だった。俺がやめて欲しいと言ったのも、その論文の為にどんな調査や検査をされるか分かったものでは無い事が想像できるからだった。

 基本的には、体の魔力路の損傷が起きた理由から始まり女性化した体を自分でも出来ない様な事を他者に調べられる事に拒否感しか浮かばない。


「それにしても、朝早くタモト君に用事って何かしらね」

「さあ?」


 エカードとは、今日の夕方に家に訪問する予定だったはずだが、それを前に自分を探していたとなると、やはり話を聞きたかったからだろうか。そう思ううちに、俺達三人は執務室まで到着していた。


コンコン


「どうぞ……入ってくれ」


 クリスのノックに部屋の中から声が聞こえる。話し声からするにエカード一人だけでは無い様子だった。もしや、国の偉い人に俺が神痣シュメリアを持っている事を言ってしまったのだろうか。それならば、朝から俺を探していた理由には他に心当たりが無かった……。


「失礼します」

「……失礼、します」


 クリスに遅れて言葉を言い執務室の中へと入る。明らかに、クリスの他に入って来た自分へと視線が向けられている事を感じる事が出来た。


「おはよう、クリス君、シャーリー」

「おはようございます。先生」

「おはようございます……」

「えぇと、そちらの方はクリス君の知り合いかな?」


 エカードの問いかけにも、説明と返事をするつもりでいた自分は、執務室に入った途端に自分達以外にも同席していた人物を見て驚きに言葉を失ってしまった。

 そんな!なぜこの場所にハントが居るんだろう?エカードとは対面に座っているハントとの繋がりに想像がつかず、そして、その驚きに聞かれた言葉も理解できていなかった。


「ちょ、ちょっと、言わないの?」

「あ、あぁ。うん。」


 沈黙に心配になったクリスが小声で確認してくるが、ハントが居たからと説明を躊躇う理由にはならなかった。何よりもそこに居るはずのないハントが居た事で混乱してしまったに過ぎなかった。


「彼女は大丈夫かね?」


 エカードは、体調不良でも有るのかと心配してくれた様子だったが、その言葉でも余計にこの場に居る人達の視線を集めてしまう。

 何気ない雰囲気で視線だけを向けてくるハントとその横に座る女性の騎士。向かいには困った表情で見つめてくる。

 隣に居るクリスとシャーリーでさえ何を言うのかと自然に視線が集まっていた。


「す、すみません。大丈夫です」

「なら良いが」


 何とか言葉を言うと、これからの説明内容に自分でさえ軽く眩暈めまいを覚えかけた。しかし、何かしら上手く説明できないかと一瞬の間で考えれた事を話す事にした。


「おはようございます。様々な事情で昨晩女性の体になってしまいましたが、私……いえ、自分はタモトタカです。ハント、久しぶり左腕の傷は良くなった?」

「はぁ!?」

「ぶふっ!ゴホッ!ゴホッ!」


 どうも「私」と言うとハスキー声とはいえ、女性面が強く自分にも聞こえてしまい。「自分は」と言い直した。

 当然のごとく、エカードは珍しく驚きの表情のまま固まってしまい。噴出ふきだしたのは、無関心を装いつつも出されていたお茶を飲んでいたハントだった。


「大丈夫ですか?」

「ちょ、ちょっと待ってくれ!貴方が、いや君がタモト君だと?」

「ええ、先生。その通りですわ」


 クリスが質問に間違いなく肯定する。シャーリーでさえコクコクと頷いているのを見るエカードの視線は二人を見つめた後、再び自分へと向けられた。


「本当にタモト君なのか?」

「ええ、不本意ながら残念な結果ですが。間違い無く、タモトタカシです」

「いや、残念と言うか、むしろ良く……いや、しかし何が起こったんだ?クリス君が君を騙していよいよ禁忌に手を出したのか?」

「先生!心外ですわ」


 クリスが簡単に事情を説明している間、ハントは咳き込む様子から立ち直ると驚愕の視線でこちらを見つめて来ていた。何だ?手でも振った方が良いのか?


「タモトさん?……」


 何やら腑に落ちないのか、説明がされている最中でも視線は自分に向けられたままだった。


「キアは元気?」


 熱の入ったクリスがエカードへ俺の女性化の経緯を説明している間、何気に聞いてみる。もちろん親しみを込めて手をひらひらと振ってみた。


「ああ!タモトさんですね!」


 キアと聞いた言葉よりも、ハントの視線は、俺の左手に付けていた狼の彫刻された腕輪バンクルを見つけ出しそこへ注がれていた。ああ、そうだった。これは、アロテアでの彼らハント達との思い出の腕輪しなだったのを思い出す。

 これを買った時も、確かハントも同じバザーでキアにスカーフを買ってあげていたはずだ。腕輪に注がれた視線からは、先程までの不信感の視線から、何故かハントは憐れみを含んだ視線を向けて来ていた。


「ほお、精霊と融合を……」

「そうなんです。決して私が実験したいが為に提案した訳では無いのです」

「ふむ、そうか。シャーリーも証人の様であるし、理解するしかないか」

「変態したの!」

「へんたい?か……」


 コクコクと頷くシャーリーは、全て説明し終えたとフンと鼻息を出す勢いで言い終えると、ソファーの空いている席に着席した。


「あぁ、すまない。まずは空いている所に座ってくれたまえ」

「わかりましたわ」

「はい」

「どうも、全く知らない関係でも無いようですが?ええと、こちらは私の学院の生徒でクリスとシャーリーです。そして、先程まで探していた……タモト君……いや、さんか?」

「すみません……君でお願いします」

「そ、そうか」


 エカードまでも、女性化した俺の事を理解してくれたのだと思う反面、どの様に扱ってよいか思考がまとまっていなかった様子だった。

 唯一初対面となる女性騎士は、女性となった俺に興味の有る様子の視線は向けてくるもののクリスやシャーリーの自己紹介に簡単に挨拶を返しながら、それぞれの紹介を聞き流す事はしない程に礼節のある人物の様だった。


「私は、アブロニアス王国第3騎士団の団長を務めさせて頂いているエミルと言います。今回、先生と共に所用で同席させて頂いています」


 国の騎士団長?やはり、王国へ神痣シュメリアの事を話したのだろうか?ハントにも明言はしていないが、薄々はキイア村の一件で気付いているはずだ。

 そう思いながら自然と彼等の方へ視線が向いてしまうが。特に一同からは、何かを質問される様子は無かった。


「先生?私達は……」

「そうだな。探していたタモト君も予想外だったが見つかった事だし。朝早くすまなかった」


 クリスは、王国の騎士団長が同席している事で、自分達が加わってよい話かどうか迷いサージェンさんへ声をかけ挨拶だけ済ませ退室しようとする。

やはり、呼び出した用事と言うのは、自分を探していたらしい事を確信できた。


「あぁ、クリス君。話が終わったらタモト君のフォローをしてやって欲しいが?」

「はい、分りましたわ。それでは失礼します。さっ、行きましょシャーリー」


 腰かける一同に礼をして退室していくクリスと、手を振りながらシャーリーは退室していく。すんなりとシャーリーが退室して言ったのも、テーブルの上にお菓子が無く皆にはお茶が出されていたのを知ったシャーリーの関心は、既に執務室には無く退室する事に未練は無かった様子だった。


「タモトさん、全く貴方には会うたびに驚かされます。キイア村と言い、今回キアーデと言い」

「ふむ、お二人はお知り合いでしたか?」

「ええ」


 ハントは詳しく説明するかを悩んだ表情を浮かべ、これ以上聞いても良い事柄かとサージェンと女性騎士エミルとの間に微妙な雰囲気へと執務室内の空気が変わりそうな時だった。

 入り口とは違う扉から、ノックの無いまま開き入ってくる少女の姿があった。まだ眠いのかふらつく頭に手を当てている様子だった。


「キア……起きたのか?」

「ハントお兄ちゃん?ここ何処?」

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