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『この人達が、ユルキイアと同じ神々なのか?でも、なぜこんな夢(景色)が見れるんだ』
明らかに子供や老人らしきシルエットの輪郭が、思い思いの姿勢で集まり話しあっている様子だった。
以前の自分のぼんやりとした会話とは違い、自分が周囲を見回しながらミレイから突然に融合された事の認識を強く覚えていた。そして、気が付けばこの場に立ってユルキイア達の話を眺めていたのである。
相変わらず、自分が他の神々に見えているのか、無視されているのかはわからなかったが、隣に腰かけているユルキイアの視線が少しもこちらを見上げない様子からは、見えていないらしかった。
『そもそも、この話し合いは今あっている事なのか?……』
初めは、自分が都合よくミレイに融合され意識を失った時に、神々の話し合いの場に意識が飛んだのかも知れないと思いながら眺めていたが、もしそうであるならばかなりの都合のよいタイミングである。
ここでもう一つの可能性を考えつくと、ミレイと融合した事で未来か過去かに行われた神々の話し合いの景色を自分は見ているのではないかという事だった。
そう考えれば、神痣で繋がりのあるユルキイアやフレイラ達に気付かれないのは少しばかり寂しく感じてしまうが、こちらが一方的に見ている状況であり。実際の話し合いの場には、自分は居ないのだろう。
何度目かで慣れてしまった感じがしていたが、実際は自分は夢を見ているのと同じだった事を思い出す。確か、ユルキイアも以前にキイア村の災厄を夢に見たから自分を探していたと言った事が無かったかと思い出した。
「それにしても、私達との誓約を立てながら。それでも、ユルキイアお姉様が神痣を与えた方はどんな方なのでしょう?」
「……」
女の子の姿影をした神が、ユルキイアに質問するも何故か黙ったまま、たぶん俺の事を言うのを躊躇っている様子だった。
「あら、お教えくださらないんですか?」
「まあ、いいじゃねえか。普通の男だよ」
「え?あらまあ、フレイラお姉様もご存知の方ですの?嫌ですわ、私だけ仲間外れですのね!」
「これ、リークまで現世の人間に関心を持つで無いわ」
「良いじゃありませんか。ノーベ御爺様、最近退屈でしょうがありませんの。それにお姉さま方が楽しそうな事をされていると、私も混ぜて頂きたいのですわ」
何故かその言葉を聞いた、ユルキイアとフレイラの表情が固まるのが見える。二人の頬の筋肉がピクっと引きつったのは流石にこの場所からは知る事は出来なかった。
「ふん、実の無い姦しい話は止めて頂きたいのですがね。これ程しか我々(神々)が集まらないのでは、話にならない」
「チッ……」
「何か?フレイラさ「何でもねーよ」」
「とにかく……皆さんも自己の行動には自重されてください。ユルキイアさんは、しばらく篭られてはどうですかな?」
皮肉気味に笑みを浮かべると、それぞれの返事を待たず踵を返し姿を消す男神。その行動に老人は溜息をつき、リークと呼ばれていた女子の神は興味なさげに思案気に指を頬に当てていた。
「たくぅ、余計なお世話だってんだ」
「しょうがないわ。今日は小言(注意)を言われる覚悟で来たんだもの」
「でもさ、篭ってろって何よ!言われなくたってユルキイアは、誘っても外界に出ないんだからね。すでに篭ってる状態なのに、これ以上どう篭らすのよ!」
「フレイラ、分ってて言ってるでしょ……」
フレイラからは、何んとかこの場を和やかにしようと無理をしている様子だった。それも、姿を消した男神が残していった澱んだ雰囲気を掻き消そうとするような明るさでユルキイアへ言葉を告げていた。
言われたユルキイアも、苦笑しながらも話し合いの終わりの様に立ち上がる。
「ふむ、水のお嬢さん。今回は忠告にもなりはせんかったが、神が無理を通す事で結果として世界が乱れたという過去の教訓から2度と同じことが起きないように我々も学ばねばならない」
「……はい」
「集まった神々の人数が少ないのも、また、その教訓から学ぼうとする我々の姿勢(思い)の低さかも知れんがの」
そう言い残すと、別れの言葉と共に老人の神の姿も消えて会議の檀上より去っていく。
残されたのは俺の意識と、ユルキイアとフレイラ、そしてリークと言われた女子の女神だった。
「さてと、私達も戻ろうかね」
「お姉様、久しぶりに遊びに行っても構いせんか?」
「良いんじゃないかしら?」
「ありがとうございます!ところで気になっていたんですが、こちらの方はどなたかの使役されている精霊か何かですか?」
リークが明らかに指でこちらを示して、二人に尋ねている。
『え?もしかして見えていた?のか』
「あ?誰か来てない神の使役している精霊じゃないの?」
『フレイラ、さすがに神痣を与えた人間だとは公言できなくてもそれは無いだろう?』
そう思念で返答しながらも、やはりリアルタイムでは無かった様子で会話は成立してない様子だった。
「ユルキイアお姉様?どうかされましたか?」
「いえ、前に見かけた気がして……気のせいだったかもしれない」
『いやいや、さすがにユルキイア自身にも他人の様な目で見られると悲しくなってくるな』
その様に3人の女神は、言い合いながらも俺の横を通り過ぎていく。俺自身も夢の中とは気付きながらも、これから何処かへ向かう予定も無く、夢が覚めるまで3人の後を追う様に着いていく事にした。
「……ねえねえ、お姉様。あの精霊、後を着いてきますわ?」
「リークが気に入ったんじゃない?」
「まあ、そうでしょうか?」
「いや、冗談だって。ねえ、ユルキイアの知り合い?」
「……んー似てると言えば、でも、あんなに大きくないはずだし……やっぱり分らないわ」
ユルキイアも一瞬悩みながらも本当に俺の事が分かってない様子だった。それにしても、ただの夢を見ただけに思っていたら、実像は彼女(女神)達に見えていたりと分らない事ばかりだ。
それに、ユルキイアやフレイラは俺の事を知らないと言い。リークと言う子供の女神は精霊だと言う。もしかすれば、夢見ている姿は精霊の様に見えるのか?
『わからないな』
「なんでしょう?私達と友達になりたいのかしら?」
「リークだけで私達は十分よ。たとえ精霊でもこれ以上女性達が集まっていたら、あいつに何て言われるか分かんないじゃない」
「まあ、フレイラお姉様、リークで十分だなんて嬉しいですわ!」
『え?フライラは何を言ってるんだろう?俺がたとえ加わっても、女神3人に男1人のはずだし、女性が増えたら困ると何を言ってるんだ?』
ユルキイアの所へ3人とも向かうのか、彼女の出した水面の門を入っていく。おそらく、ここを抜ければ以前来た事がある水面の広がったユルキイアの部屋(世界)なのかもしれないと思いながら、門の前に立った時だった。
『ウソだろ?誰これ……』
波打つ門に反射して映り込む自分の姿を見た時、その鏡面にはダークブルーの髪と青い瞳をした姿があった。今さらながらに、全身を見下ろすと何故気付かなかったと言われる程に華奢な腕と控えめな双丘があり、それを見下ろす。
呆然と門で立ち止まっている間に、ユルキイアの門は掻き消えてしまい。驚きながらも水面で詳しく見直す事も出来なかった。しかし、すでに、女神たち3人がなぜ自分の事を精霊の女性だと言っていた事に納得してしまう。どこからどう見ても、今の自分は女性にしか見えなかったのだ。
『何で?』
何で?と繰り返すほかない。思いつくのは少なくないが、認めたくなくてもミレイとの融合の影響という考えが思い浮かびたどり着いた答えでも、容易に受け入れる事が出来なかった。
しかし、そう納得しなければ先に進まない夢なのだと理解する事も出来た。それは、かつて有ったものが無くなっていた喪失感を自覚した時だった。
そうして、ようやく俺は自然と呟く事が出来た。
『悪夢だ……』




