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魔陣の織り手:Magical Weaver   作者: 永久 トワ
首都訪問編
107/137

17

 緊急に集められた宮廷会議は、重要案件の他には定例の報告の様相を呈していた。主に話されたのは、「ケイル村の村長の3姉妹」と称された姫様方を匿う場所や財源をどこから削減し持ってくるかに、それぞれの主要大臣が互いに批判しあうという意見を言い合う事となった。

 終わりのない的外れの話題に変わりそうになり紛糾しそうになった雰囲気を財務大臣が収め、今後は統括して均等にそれぞれの部署から一定の予算を削減する事になってからは、皆渋々ながら納得するしかなかったようだ。

しかし、会議の終わりの方となっても懸念していた地方情勢であるキイア村の件については、それほど重要と思っている大臣達も居ない様子なのが現状だった。参加している大半がそれほど情報が集まっていないとでも思っている様子である。

 案の定、キイア村の話も話題に出ることなく会議終了する頃には、日は地平線に隠れそれぞれの前にある蝋燭台に火を護衛の従騎士達が灯していった。


「それでは、皆ご苦労であった」


 王の最後の一言で正式な会議の終了となる。王が席を立ち退室するまでは、皆席を立つことなく見送るのがしきたりであった。やはり入ってきた時と同じく、その後ろに宰相と例の青年が付き従う。結局あの青年は誰だったのか?新しい近衛騎士にしては年齢が若すぎるように感じていた。

 大臣達もまた、皆それぞれの館へ帰る準備を始め数組は食事をどうですか?等と親睦を図ろうとしている者達も居る様子だった。

 そんな中、財務界に特に親しい人脈の無い自分には、声を掛けてくる者もおらず持ってきた資料を片付けようとした時だった。


「先生?もう帰られるのですか?」


 席を立とうとした時に声を掛けてきたのは、先程、話題に上がっていた姫様方の護衛に決まった第3騎士団団長のエミルだった。会議中は少し緊張していた様子だが、今は普段の彼女の雰囲気へと戻っていて会議室を退室するついでに声を掛けたのだろう。


「エミル様。ええ、特に用事も無いもので帰って調べものの続きでもしようかと」

「もう、先生も相変わらずですね。前と全然変わられず。今も同じ研究を?」

「そうですね、思ったほど進んでませんよ。まだまだ前途多難です」


 思ったほど成果を出せていないのも本心であり謙遜ではなかった。また、この会議室の場で言えるほどの内容でも無く、以前学術院の研究生であったエミルならば十分に理解してくれているはずである。


「ですが、劣化魔宝石の技術が我が国に入れば、先生の研究にあてる時間も少なくなるのでは?」

「ふむ、大臣の皆様は期待してましたな。しかし、私達の学術院にその研究が回されるかどうか、まだ分かりませんので」


 恐らく、大臣達の息のかかった研究機関に優先的に情報開示される事は、薄々会議中からも思っていた事だ。いくら優秀な人材を抱えていても、中央との結びつきが無ければ弾かれてしまうのが今の学術院の立ち位置だった。


「正直悔しいです。先生の様な素晴らしい博識の方が居られるのに正当に評価されていないなんて」

「エミル様は、私を過大評価しすぎですよ。私よりも前途有望な若者は大勢います。エミル様もですよ」

「もう、先生たら冗談言わないでください。私なんて落ちこぼれですから、何とか今も騎士団団長をやるのが精一杯なんですから」


 前途有望な若者が多いのは本当だ、エミルの他にも、今日出会ったタモトと言う青年も未知数だが、少なからず何らかの変革がこの国に起こる事は、昼間会った後に確信に近く抱き始めた感情だった。

 おっと、長く話をしすぎてしまったか、エミルの仲間である他の騎士団長達は気を利かせて先に向かった様子だった。また、彼女とはゆっくり話す機会があれば良いが、さっそく護衛の案件も考えないといけないだろう。長く呼び止めてしまったと思い別れの挨拶をしようとした時だった。


「なに?向こうが慌ただしいけれど」


 別れを告げようとしたエミルは、会議室を出た扉の向こうの廊下が少し騒がしくなってきた様子に気付き視線を向けていた。

 確かに、「何だ?」「伝令か?」「こんな子供がか?」など廊下へ出て行った大臣達の声が聞こえてくる。

 すると、不意に閉じていた扉が開き、警護をしている宮廷騎士とその後ろを歩く皮の軽装を身に着けた少女が会議室へ入ってきた。


「何?あの


 今日は見知らぬ青年や少女に良く会う日だ。タモト君はもう知り合いと言っていいが、王に付き添っていた青年と言い、今横を通り過ぎた少女と言い。宮廷には場違いな印象が強い。

 しかし、改めて見ると、王に付き添っていた青年と少しばかり目元が似ているか?ん?雨の跡……か?外は雨は降っていなかったと思ったが。少女の目元には一筋の跡が頬に残っていた。


「やはり伝令のようですね。しかし、こんな年端のいかない少女までそんな役目を?」


 隣ではエミルが彼女を観察し、身に着けた装備や手に持った手紙の様子から伝令であると判断した様子だった。

 確かに少女は若すぎる。それほどまでに人員に困窮している部隊があるのかと、抱いた腕の隙間から胸にある騎士団の所属を見ようとする。


「ん?所属数が無い?」


 エミルも同じように所属を確認しようとした様子だった。私の言葉にエミルも同じ感想を抱いた様子だった。自分達が見つめた先には、飛竜と剣が交差する紋章だけが見て取れる。

 剣の紋章は聖アブロニアス帝国の象徴だ。しかし飛竜のマークとは何だ。


「竜……飛竜?騎獣部隊?」


 騎獣部隊と呟くエミル自身も半信半疑の様子だった。騎士団ではない自分にとっては初めて聞く言葉である。部隊演習を行っているエミルが騎士団の事で知らない事ならば自分が知っている事はほとんどないと言っていい。


「ここで待て」

「はい!」


 案内された少女は、先程の自分達とは違い椅子へ座るようには言われず待機するように言われていた。

 そして、突然に表れた少女に話を終えた自分達は、帰るタイミングを無くしてしまったと言うのが正しい。

 それほどまでに、少女の表情には余裕がなく悲痛な感情を我慢しているように見えたからだ。そして、私とエミルに見られている事は分かっていても、こちらを見る余裕さえ無くしている少女にいったい何があったのか、伝令の内容は知ることは出来ないかもしれないが顛末を見届けたいと思ってしまった。

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