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魔陣の織り手:Magical Weaver   作者: 永久 トワ
首都訪問編
106/137

16

「まさか、そんな……」

「何か心当たりがありそうね。でも、魔力の漏れは貴方の左腕が傷ついているようにしか見えないのよ」

「傷?ってそんな感じは」

「魔力路……ってわかる?人の中にある魔力の流れみたいなものなんだけれど、初めは神痣シュメリアから魔力が漏れている理由が原因なんじゃと思ったけれど何か違ったのよ」


 一応、クリスの言いたい魔力路というものについては理解できた。ユキアからもその活性化を経て魔陣を使えるようになったのだと説明を聞いていたからだ。

 そして、俺もクリスも一つ勘違いをしていた事がある。神痣から体外へ魔力を漏らしている訳ではなく、逆に神痣から湧き上がる魔力で身体には満ちており、以前俺が無理に魔力を解放した事で左腕の魔力路が損傷した可能性が高いとクリスは告げた。


「それじゃあ、魔陣の回数が使えない原因も、その魔力路が原因で?」

「ちょっと待って、まだ色々ぼんやりなのよ……」


 そういうクリスは、癖の無い髪に手をすくと、ガシガシと掻き毟る。分かってはいたが色々ギャップのある女性だと苦笑する。

 それに、悩みが一度に片付くとは思っても居なかったが、クリスのいう魔力が満ちている状態であるのならば、ミレイが魔力が不足して眠り込むはずはない。

 そもそも、クリスの言うことが違っていて、魔力が大量に漏れており枯渇しそうになっているのならば俺も昏睡してしまうとクリス自身が言ったことを思い出していた。


「それに、ミレイも姿が消えたわけじゃないしな。あんなに元気そうだし」


 今もまた、シャーリーとミレイ自身はオレンジ色をした果物の飲み物のコップに浸かりながら、シャーリーへ「甘ぃねー」など笑顔を向け合っていた。

 いつの間に、シャーリーはクッキー以外の飲み物まで準備したんだ……。いや、深く考えるのはよそう、そういうシャーリーなんだと理解する。


「はっ?貴方今なんて言ったの?」

「え?ミレイも今は元気そうだし?」

「ねえ、一つ聞くけど。ミレイちゃんって不調なのよね?」

「(聞くことが一つじゃないよね……さっきから)、あぁ、クリスも見たと思うけど?瓶で寝ている姿……」

「それもそうね。でも、不調だってミレイちゃんに聞いたの?」

「えっ……?」


 アロテアの街に居る時から見かけていた、今もしているコップに寄り掛かりだるそうなミレイの姿。てっきり疲れか不調で寝ているのかなと思っていたが。本当にそうなのかとクリスに聞かれれば、思い出せるのはミレイからは「ダルイ」「初めてで分からない」としか聞いていない。


「ねえ、貴方って自分の魔陣の不調とミレイちゃんの姿を重ねて見てたんじゃないかしら?自分の魔力に何か問題が起きているなら、ミレイちゃんの疲れた様な姿も何か不調が原因にあるんじゃないかって」

「それって、ミレイ自身には何も問題が無いってこと?」

「むしろ、問題が無さすぎるんじゃない?」


 つまり、疲れた様な姿をしているミレイの姿は、ただ単にだるいだけという理由であり。前は、姿を消して寝ていたのも今は消す必要のないくらい低消費で元気が有り余っているという事か。

 「初めてで分からない」と言うことも、こんなに充実した魔力がある生活なんて初めてで分からないよーって事か。


「それってつまり、一般で言うと?」

「怠けも……あら、ふふ、力を蓄えてる精霊さん?」


 いや、怠け者で良いよ。今さらクリスが淑女ぶって言い直しても色々残念な所は、すでに知っているから。


「まあ、そうとも言えるけれど。他にも言い様はあるだろう。厳しく言うなら俺が精霊を持て余しているとか、仮にもエルフなら精霊のしつけがなってないとかさ」

「何よ、仮にもって」

「へっ?おにぃちゃん。ミレイに厳しくするの?」


 どこから聞いていたのか、ミレイが驚いたように涙目で見つめてくる。あぁ、クリスに言われるまでは体調不良に見えていた姿が、今はお菓子を食べてコップにもたれ掛かる怠け精霊ものに見えてくるから不思議だ。


「芋の言うことは気にしない。気にしない」


 あれ、シャーリー?許してくれたんだよね?俺の誠意を見せた謝罪で「フン、良いわゆるしてあげるんだから」って。

 脳内で足りない言葉を補完して理解していた俺を、違う意味で可哀そうに見つめるクリスの視線に俺は気付かなかった。まあ、虫が付いていないだけ良くなったのか?


「あっ、一つ良い案を思いついたんだけれど。貴方の魔力路の治癒をミレイちゃんに任せたらどうかしら?」

「そんな事できるのかな?」

「むしろそれ以外の治療法って思いつかないんだけど?それ以外だと、高価な薬でも飲んでみる?」

「いや、そんな贅沢できるお金無いし」


 店先に秘薬とか値札タグが書いてあっても、原料はともかく効果があるようには思えない。それこそ、クリス自身のエルフの里にある年代物のお酒を持ってこられた方が、効果がありそうだと勝手に思ってしまう。

 そう、お酒は百薬の長とも言うしな。

 そして、クリスはちょいちょいとてのひらで耳打ちされる。


「(ミレイちゃんに仕事してもらった方が良くない?今の状態が習慣化しても知らないわよ?それに、他の精霊にお願いするにしても、その時間も知り合いも居ないでしょ)」

「(本当に、大丈夫なのか?)」

「なに?なに?クリスもおにぃちゃんも二人してっ!」


 ミレイはまじまじと内緒話する俺達二人を眺め不安そうな表情をする。

 クリスと俺は、二人してコクンと頷きあうと方針は決まったようなものだった。


「ミレイちゃん頑張って、応援してる、私だけが味方」

「えっ?ええっ?えええっ!」


 いつの間にか、ミレイ自身が話題の中心になり自分に何かをさせる話になっていたことに混乱したままのミレイは、俺、クリス、シャーリー順に顔を見ると驚いたままコップの液体の中に浸かってしまう。


「大丈夫よミレイちゃん!ミレイちゃんにお願いしたいことがあるだけなの」

「クリス?本当?」

「あぁ、ミレイだけが俺を治せるかもしれないそうなんだ」

「本当?ミレイだけ?」


 ミレイは、ジュースの水面から顔だけを出すと、俺の言葉の真偽をクリスに尋ねる。


「そうよ、ミレイちゃん。彼とミレイちゃんの繋がりがあるからこそ、精霊の力で魔力路の傷を治せるかもしれないのよ」

「本当?」


 今度はシャーリーへ真偽を確認する表情を向ける。

 しかし、シャーリーは頷くわけでもなく、そうかしらと言う風に首を軽く傾ける。

 いや、せめてそこは「そうね」と言ってくれシャーリー。


「いや、大丈夫だって。俺とミレイとは強い絆があるし!頼む」

「芋む……、必死……ぷぷ」


 ミレイが俺を見つめる向こう側では、シャーリーが舌をだして俺をからかいつつ笑いを堪えている。それに今、芋虫って言いそうになってたよね?


「う、うん。分かった。でも、治すってどうすればいいの?」

「そうねえ。魔力路の治癒の可能性って思いついただけだし」


 クリスはただの思いつきであると理由を言った。せめて何かの根拠があってから言って欲しい。仮にも研究者なのだから。


「なによ?」

「いや、別に」


 クリスが俺の視線にジロッと睨んでくるが、声に出ていた訳ではないだろう。

 魔力路を治療するとなると、体内から治してもらうことになるのか?そもそも、前の世界での医学でそれらしい臓器や器官について俺は知らない。そうなると精神的側面にあるのものだろうか?


「やっぱり、ミレイちゃんに一度貴方の中に潜ってもらうことになりそうね」

「潜る?」

「うまい言い方が分からないのよ。精霊融合する?魔力同化する?やっぱりただ魔力路に潜る?好きな呼び方で良いと思うわ」

「融合って、やっぱりあれかなミレイが女神ユルキイアに託されて動物(鷲)に取り憑いていたみたいな感じかな」

「へえ、そんな事があったの?でも、それに近いんじゃない?」

「おにぃちゃんと、それするの?」

「無理そうか?」

「できると思うけど。どんな感じなんだろう」


 先程までの不安な表情はどこに行ったのか、好奇心の表情でコップから俺の肩へ飛んでくる。すでにミレイにはやる気満々の表情だった。


「あっ、ミレイちゃん」


 シャーリーが名残惜しそうに、飛んでいくミレイを止めようとするも結局はソファーから腰を上げる事はせず、なぜか俺を睨んでいた。


「楽しそうだな?」

「うん!合体!合体!」


 今すぐにでも文字通り魔力路へ合体しそうな勢いに、俺の心の準備が間に合いそうにない。動物みたいに意識を乗っ取られるんじゃないか?どの位の期間治癒に必要なのだろうか?など疑問は多く湧き上がってくる。

 そもそも、本当に治るのか?


「クリス?どうすればいいの?」

「そうね。左腕から魔力が漏れているから、そこからなら入り易いんじゃないかしら?」

「入りやすいって……潜るって言ってなかったか」

「細かいわね?」


 いちいち細かい男性は嫌いという風に、眉に皺を寄せてクリスはその一言で終わらせる。


「ここか、な?」

「そうね、ちょっと下ね、そう、そこ、そこ」

「ちょ、ちょと、待ってミレイ」


 左肩にある神痣の周囲に手を当て、位置を確認するミレイにクリスも位置を調整しなおす。俺が止めて聞きたい内容も尋ねる時間は無かった。


「じゃあ、行ってくるね。クリス!シャーリー!おにぃちゃん行くよー」

「うん」

「バイバイ、行ってらっしゃい」

「っと、待てって!」

『合体ぃ!』


 ワクワクの表情一杯のミレイは俺の静止も聞かず、念話の掛け声と共に視界から姿を消す。その途端、俺の思考は真っ白に染まり意識を失ってしまった。


「あっ!裸でここで寝ないで!」


 クリスの呼び止める言葉が最後まで、耳に響いて残っていた。

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