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魔陣の織り手:Magical Weaver   作者: 永久 トワ
召喚編
10/137

9

 キイア村から北東へ2時間ほどかかる川の上流。今は土砂が崩れたことで川の痕跡は無く土砂や倒木の混ざる斜面になっていた。周囲は日の出の薄明かりに包まれ、夜間の雨と霧によって白く霞がかかって見える、その霞の中に立ち尽くしている複数の影があった。


 オオ”ォォォォ・・・    オオ”ォォ・・・


 数体のゴブリンが集まり、倒れている一体を眺め慟哭の叫びを上げていた。涙は無い、上空へ叫び声を低く響かせている。村人が見たら、その叫び声とともに寒気を感じただろう。

 自分たちは獲物ヒトを追っていたはずだ。今は完全に見失ってしまったが、獲物が人間である事は知っていた。大勢の仲間で追いかけていたはずが、反撃されたのだ。目の前に倒れる仲間が喉を切られすでに絶命しているのを理解している。 一時姿を見失い追跡を諦める判断をしようとした寸前に見つけたのが仲間の亡骸だった。


『オグッ』


 目の前を隠していた霧と霞が、山間より太陽が昇り山々を照らし晴らしていく。その先にゴブリン達は新しい獲物と復讐の先を見つけたのだ。

 朝焼けに周囲が照らされる中、その瞳にはキイア村の姿が映し出されていた。


「ガァァァァ!!」


 リーダーと思われるゴブリンが、キイア村を短剣でしめし号令を叫ぶ。それに答えるかのように山々にゴブリン達の怒号が響くのだった.



 まだ夜が明けきらない薄暗い室内に、ランタンの明かりとユリアさんの治癒の魔法の輝きが光る。その先には、女性の肩の切り傷が跡となって残っていた。今女性は、椅子に腰掛け裂けた皮の肩当てをはずし半身を晒していた。


「ごめんなさい、昨日に魔力を使いすぎて完全に治癒させることができないわ。一日回復するまで待ってもらえないかしら、娘に治癒させることもできるけれど娘も昨日は無理をしてしまって」


 ユリアさんは、治癒魔法を解除して女性に話しかける。


「構いません、傷口が塞がっただけで助かります。それよりも、あなた方にいち早く伝えなければいけない事が」

「ん?何かしら」

「この村に来る際に北の森の中でゴブリンを近くで見かけました。それに、私が森で見つかってしまい追いかけられてしまって、村に近づけさせてしまったかもしれません。……ごめんなさい」

「そんなことが」


 治癒の状況を見ていた自警団長は、その告白を聞き軽く驚きの表情を浮かべる。ユリアさんは、落ち着いた表情で話を聞いていた。


「村がこんな状態の時に、次はゴブリンだなんて」

「……ごめんなさい」


 その女性は、うつむき自警団長の呟きの言葉に落ち込んでいる様子だった。


「いえ、貴方が教えてくれたことでゴブリンに襲われるかもしれない事がわかったのよ。運がよく、まだ被害も出ていないみたいだし、こんな夜更けに、それも雨も降っていて急いだのでしょう?教えに来てくれて助かったわ、ありがとう」

「いえ、そんなお礼だなんて」


 ユリアさんが手を温めるように握り感謝を言う。俺自身も横で聞いていてそのとおりだと思った。ゴブリンの襲撃があるにせよ事前に知ることができたのだ、今は何かしら準備ができることがあるだろう。それに彼女の姿が追われながら村に来るのを急いだ状況を物語っていた。手足は泥や土で汚れており背中に近く傷を負っていることが逃げてきた事を知らせていた。


「詳しく話を聞きたいのだが。ユリア先生」

「その前に、着替えさせてもいいかしら?」


 ユリアさんの口調には、自警団長への気を使って欲しいと言う様な雰囲気が聞いて取れた。


「ああ、そうだな。知らせをくれたことを感謝する。ひとまず、休まれるほうが良いだろう」


 治癒を受けた彼女は、服を整えながらホッとした表情を浮かべた。それを見た俺は、彼女の緊張に包まれた表情が溶けていくのを見つけ、大人びた表情の中に幼さの残る安心した表情を見つけた。しかし、それを見つけれたのは本当に一瞬だった。


「じゃあ、私は村を巡回させる隊を指示してくるので失礼する。落ち着かれたら話を聞かせて欲しい」

「わかりました」


 彼女はそれにうなずき返事をする。


「タカさん、申し訳ないけれど宿の方にお湯を沸かしてもらうようにお願いできないかしら?」

「頼んできます」

「あ、そうそうあなたの名前を聞いていなかったわ。教えてもらえるかしら?」

「あ、申し遅れました、私はサニー。サニー・サイオンと言います」


 安堵からか、笑顔が溢れる。その表情は可愛いと思うよりも綺麗だと思えた。それが彼女との初めての出会いだった。



 宿屋の厨房に集まった自警団の面々は、起床すると村の状況の変化に驚愕を受けていた。


「朝早く集まってもらったのは、村の周囲でゴブリンの目撃情報が寄せられた。ただ今より、村の状況を把握するために各班は3人1組になり巡回に当たれ。発見し次第戦闘を控え報告するように。」


 オニボ自警団長の指示が行われると、各自警団員はそれぞれの装備を確認し巡回経路を申し送られ出発して行った。キイア村にいる自警団員は38名で15歳~40歳にいたるまで年齢もばらばらで熟練者に新米が1~2名の各班3人1組が基本となっていた。総勢38名のうち8名は後衛組みとして回復や食事の準備などを行う面々であり。有事の時は、ユリアさんやユキアも後衛組みに属するようになっている。


「タモト君は、すまないが夜営の準備に回って欲しいのだが?」

「ええ、何をすれば?」


 手持ち無沙汰だったゆえに喜んで動くことにした。同年代が頑張っているのを見ていて自分だけボーっとしてるのも精神的に悪い。任された夜営の準備とは、基本的に宿屋周囲にかがり火をおくことができる台座を作り置く事だった。製作作業に関わりながら紐を結んだり、燃やす材料の木を格子状に組み大量に縛って準備などをしていた。そして昼食を食べ終え、午後の巡回が始まり。あって欲しくなかったゴブリンの目撃情報が届く14時まで俺は黙々と作業を続けていた。



 サオ達のグループは村の北側を巡回にまわっていた組だった。28歳のベテラン自警団員のオルソンと私とアロニスとの3人1組で行動していた。昼も15時を過ぎたころ、午前中にゴブリンが見つからなかったことで昼間の宿の食堂でさえ自警団員に気の緩みが出始めそうな雰囲気なときだった。もともと兵士でも何でもない村の有志の集まりである。自警団長と数名が兵役の経験を持ちってはいるが素人なのは間違いが無かった。

 その為、先に見つけられたのはゴブリンがこちらを発見するのが早かった。ゴブリンらも、村の北側の家畜を殺し肉を剥ぎながら、その周辺を警戒していたゴブリンアーチャーに見つかったのである。すぐに引き返したことで、警戒のみにまわっていたゴブリンも深追いする気は無いようだった。

そのときゴブリンらは何をしていたかと言うと、当初の食糧確保を行っていたが、巡回をしていた自警団員には家畜を惨殺していたようにしか見えなかった。


「アロニス構うな、指示は発見し次第報告だ!サオ、しんがりを頼む。アロニス傷は大丈夫か?」

「わかりました。オルソンさん」

「ハ、ハイ。矢を左肩に受けました。痺れがありますが走れます」


 私は、慣れた武器として使っている普通の槍を両手で握りながら、後ろを振り返り二人と離れず追いつかずで追っ手が無いかを確認しながら付いていく。発見された当時に受けた矢傷のみアロニスが受けてしまい命に別状は無さそうだが、急ぎ報告に戻る必要もあり歩を急いでいた。


「アロニスもうすぐだ、宿屋にはユリア先生もいてくれる。運がよかったな」

「はぃ」


 どうもアロニスの返答に覇気がない。傷を受けた負い目か、もしくは注目を集めたくないのかそのどちらかなのだろう。坂を上った宿屋へと続く周辺にはかがり火の台座が午前中のうちに出来上がっていた。後は湿気を含む小雨が降り止んで欲しいくらいだ。


「隊長。ゴブリンを発見しました。交戦は無く発見時に矢傷を受けたものが1名。対象の数は少なくとも20匹以上はいるものと思われます」


 宿屋をくぐると簡易の自警団の本部となっており、その場にはオニボ団長と休憩組の団員が話し合っている最中だった。タカ君を何気なく探すと一階のテーブルで後衛の男性の団員と話している姿が見えホッとしてしまい。その周りにユキアの姿が無いことに不思議に思う反面、妙な安心感を抱いてしまうのだった。




 俺は午後の休憩を同じくかがり火の台座作業をした男性の団員と話をしていた。


「タカ君すまない。アロニスが傷を負ってしまって、ユリア先生かユキアは呼んできてもらえないだろうか?」


 不意にサオから声をかけたれ、傷を負ったと言うアロニスをチラッと見るがサオの後ろに控えてはいるが他所を向いていた。(まぁ意識的に見てないんだろうけどね。)

わかった。と返事をして団員に軽く別れを告げ、2階へとまずユリアさんの方へと向かった。


 トントン


「どうぞ?」


 中からユリアさんの返事があり、失礼しますと中に入る。部屋の中には、今朝のサニーという彼女もいて話を聞いていたみたいだった。途中会話を遮ったのだろう、二人は俺が話すのを待っている雰囲気だったので。


「すみませんユリアさん、自警団員の人が矢傷を負ったそうで治療してもらいたいそうです」

「そう、困ったわね。私も昨日から使用と今朝の治癒で魔力が回復しきってないわ。ユキアに聞いてみてもらってもいいかしら?」

「わかりました」


 二人に挨拶をしてユリアさんからは笑顔を、サニーさんからは目礼をもらい退室した。サニーと言う女性は、もうだいぶ落ち着いたみたいだ等を考えながらユキアの部屋へと向かう。


「確かに昨日からかなり辛く魔法を使ってもらってるからな。今日はゴブリンの襲撃?だっていうし二人が心配だよなぁ。ゴブリンってやっぱり、あのゴブリンだよなあ」


 など本やアニメで想像しながら独り言を言う。

 ユリアさんとユキアの部屋に着き、トントンとノックをして部屋に入る。ユキアと会うのは昨日ぶりだ、寝たほうが魔力が回復すると言うことで朝はゆっくり寝てもらっていたので会っていなかった。


「タカさん、おはようございます」

「おはよう。ユキアもう体調は良いかい?」

「はい、まだ気が重いですけど大丈夫です」

「この前、護衛してくれたアロニスが矢傷を負ったみたいで、ユリアさんは連日の魔法で魔力を使い切ってるみたいでユキアさえよければ治癒をして欲しいらしいよ?」

「わかりました。私は大丈夫だと思います」


 少し笑顔もみえてるので、体調は戻ってきているんだろう。その表情を見ると少しだが安心することができた。そして、二人で一階へ向かった。


「ユーすまない。昨日大変だったと聞いてるのに、治癒をかけてもらって」

「気にしないでよ、傷自体は浅いから。でも、しばらくは動かないほうが良いね」

「あ、ああ」


 一階の食堂兼休憩所となっている端のほうで、俺・ユキア・サオとアロニスの4人は矢傷の治療を見ていた。ユキア自身魔力が戻ってきているのは問題無さそうで傷自体は塞がり終了したが表情は険しいままだった。


「サオ姉ちょっといい?」

「あぁ、何?」

「アー君ね、どうも毒矢を受けたみたい。痺れと毒の混合みたいで、皮膚の変色と手の痺れが抜け切れて無いみたい」

「治療は無理なの?」

「今手持ちに毒消しが無いの。避難に毒傷を想定してなかったし、家に戻ればあるけれど」

「そうか……その毒は強いのか?」

「たぶんゴブリンの狩猟用の毒なんだと思う。痺れも神経毒なら早めに解毒しないと、ずっと障害が残っちゃうかも」


 アロニスと俺は二人取り残され、ユキアとサオと話し込んでいる。何を話しているのかはわからなかったが、サオがチラッとアロニスを見るときがあるので傷のことなのだろうという想像はついた。

当のアロニスはブスッとした表情で、俺に話しかけることも無く左手を握ったり開いたりしていた。




 俺はユキアからアロニスから離れたところで事情を聞き、なるほどと納得した。じゃあどう行動するかは団長に報告してからだろうと言い、ウンとユキアとサオの同意を得られた。


「オニボ団長、ゴブリンと遭遇時アロニスが矢傷を負いましてユキアに見てもらったのですが、どうも神経系の毒矢ということで、毒消しがいるとのことなんですが」


 サオが簡潔に報告してくれる。あまりオニボさんとは話し込んだことも無いのでこういう時は助かった。毒消し薬かという団長の呟きに、家に置いていますというユキアの言葉もあり団長は少し考える様子を見せる。


「おお、ユキアさんタモト殿、数日ぶりですな」

「こんにちは」


 話しかけてきたのはギタニー村長だった。どうも、今日の警戒巡回で土砂崩れで負った町の状況を村長と話していた様子だった。こんにちはと二人挨拶をして、俺はふと心配になっていた事を告げる。


「すみません、差し出がましい事ですけどユリアさんも連日治療魔法を使い、ユキアも昨日の今日で完全に魔力が回復する前に治癒魔法を使ってしまっていて。今はゴブリンが村に入り込んでいるという状況で回復が追いついていないんです」

「あぁ、そうだったなその問題もあったか」


 きっと気づいてはいたのだろうが優先的に順番が後だったのだろう。


「魔力を回復するのを早める方法は無いんですか?もし無いとなると今日にでも治癒を受ける優先順位を選択することになると思うので」


 ユキアは俺の顔を見ながらウンウンとうなづいている。サオは俺を満足げに見つめていた。


「そうだな、戦闘となれば傷を負うものも出るだろう、今日にでも後衛組みに傷の度合いで優先度を選択するように伝える。魔力の回復は、そうだなポーションがあ有るにはあるが……。隣の道具屋にはないか?」


 団長は隣にいた自警団員に尋ね。


「現在それ程多くは……ユリアさん達も居ましたし。余程の依頼時しか入荷していません」

「それも、そうだったな」


 治療薬の数は少ないと報告を受けていた。


「魔力のポーションなら家の管理倉庫に数本ありますぞ、確か毒消しもあったはず」


 思わぬところから助け舟が出された。村長のギタニーさんからだ。

村長宅には村の収益費と高価な共同資産として、今回の様な魔力ポーションの備蓄を緊急時に保管していると言う。俺はその言葉を聞き、解決の道筋が見えた気がした。


「おぉ、それならまだ日も高い。護衛はサオ、ポーションの判別にユキア、荷物運びにタモトさん行ってくれるか?」


 突然の団長からの指示だったが、昨日ダリアを救出した事から信頼も高まってきたのだろう。俺は荷物運びとの事だったが、全然反論も無く話の流れから頼まれるだろうと予想していた。


「わかりました。しかし、村長のお宅はゴブリンの警戒しているところの近くですか?」

「隊長!いくらなんでも護衛を付けてもらえませんか?」

「いや、ゴブリンはまだ北の民家周辺にいると聞く。村の北半分に残っていた村人も避難させないといけなくなって来ているため、護衛に裂ける余裕が無さそうなんだ。申し訳ない。」


 ユキアが村長さんの家は北西の方ですと教えてくれる、まだ活発に警戒しておらずこちらへゴブリンの警戒が向く前に戻ってこられたら良いのだろう。と判断し俺は3人で行くことを了承した。

 まだ時間で言うと16時前ほどであり、日が暮れるまで2時間程。往復で40分弱と考えても十分に余裕がありそうに思えた。そして俺たち3人は団長と村長に挨拶し倉庫の鍵を預かり早速とりにいく準備を始めるのだった



「オニボー殿、あの青年どう思われますか?」


 村長であるギタニー氏から疑問を投げかけられる。当の話題の青年は今まさにこれから宿屋を出発しようとしていた。表情は緊張も無い様子だった。その青年は昔からの知り合いの様にサオとユキアとの間で話をしている。


「まだこの村に来て1週間足らずの青年とは思えないほどの存在感を感じます。サオは本来あそこまで打ち解けやすい性格ではないと思っていたのですが・・・。特に彼女は父親を亡くしてからは自警団員のメンバーでさえも数名しか気を許している人はいないでしょう。」

「そうですか・・・。確かにブルーニ家は父親を不幸な事故で亡くしてから、幼い双子を残し色々苦労が絶えないみたいですしの、彼女の張り詰めた表情がやっと和らいだと思ったら今回の妹のダリアの件でしたか・・・。本当に助けられて良かったと思いますな。」

「その事では、タモト君とユキア嬢には感謝しないといけないですね。次は家族に何かあった場合も、また今回の様に目の前で亡くなられた場合にはきっと彼女は立ち直れなかったでしょう。」

「ふむ、そうなるとタモト青年が何かの悪事の為にこの村に来たのではないかという疑惑も、ほとんど消えたと考えてもよいということですかな?」


 確かに、村長の言うとおり当初突然に現れたタモトと言う青年が、一時どこかの盗賊のメンバーではないか?と嫌疑があがった事もある。しかし、自警団の土嚢を積む作業に関わった人員からは特別疑いの掛かる行動も見られていなかったと聞いていた。


「ええ、むしろ彼の状況を把握する能力と先を考えた行動は手元(自警団員)にいて欲しいとさえ思います」

「ほっほっほっ……。オニボー殿がそこまで言うほどの人材ならば、村の事を考えると私も少し悪知恵を働かせないといけませんな。しかし、全ては今の状況がすべて終わってからですがの」

「はい、やはり今の自警団員だけではゴブリンを掃討するのに熟練度も人員も足りません」


 私は話をタモト君たちが話しかけてくる前の話題に戻すことにした。話し合っていた内容は、ゴブリンとこちらとの戦力差の事だった。


「ゴブリンは確認されているだけで20匹以上、多くても40はいないと思います。しかし、こちらの戦力は前衛が30名と後衛が8名、最悪の場合はほぼ互角の戦力ということになります」

「やはり増援が必要だということですかな?」

「ゴブリンがこの頃の雨で食料を漁りに来たと言う事だけなら、村北部の警戒のみで森へ引くのを待つのも手ですがそこまで楽観視もできる理由も情報も無いですからね」

「やはり時間は掛かる事をしても冒険者を雇って来てもらうしかないかのぉ」

「ええ、念のためには致し方ないでしょう」


 村長との話が大体まとまり、冒険者を雇う資金は村の共同費用から出される事。冒険者を雇うために隣町の冒険者ギルドに行き最低5名~10名ほどの緊急募集を行う事。そして、その依頼を出しに行くのが何度も隣町に商業で行き来のある村の雑貨屋の店主にお願いする事となった。

 すぐに村長の依頼という名目で店主に来てもらい、自警団の馬車を貸し日が暮れる前のすぐにでも出発を依頼し、自警団員より馬車の御者と護衛兼務の一人を付けることを約束し店主には承諾をもらうことができた。


「隣村までの往復で早くて3日というところか」


 私は、これからの3日間を考え長くなりそうだと考えていた。




「ユキア見つかった?」

「うーん、無いなぁ。村長さんに言って今度整理してもらわないと物が一杯でわかんないよ」


 俺たちはサオとユキアと俺の3人で村長ギタニーさんの家の横にある倉庫に来ていた。ここに来るまでの道までは、特にゴブリンに出会うことも無く順調に到着しサオは倉庫の入り口を少しあけて周囲を見渡していた。倉庫といっても木板作りの納屋の壁に棚を付けて物を並べてあるだけである。窓も無く日が差し込まない中は薄暗く置いてあった簡易のランタンに今は火を入れ室内を照らしていた。


「農具とか剣とか一まとめに突っ込んであるし、色々ありすぎて見つけれるか不安になってきた」

「あ、これかな?瓶がいっぱい」


 ユキアが棚の下にある瓶の入った木箱を両手で抱えながら、うんしょ、と引き出していた。


「どれどれ、凄い埃だね」

「えーと、殺虫剤、除草剤、眠り薬、毒消し、傷薬、気付け薬、魔力ポーションって。この箱だね」

「どれどれ、これ消費期限とか大丈夫なの?」

「タカさん消費期限ってなんです?」

「ん?この薬は何日まで使えますって言う保障みたいな」


 そう疑問に思える程に各ポーションにかかっている埃が凄かった。数はそろっているみたいだけど、ラベルが日月で黄色く変色してないか・・・。


「ぇ~、今まで薬を飲んで具合が余計に悪くなった人がいたって聞きませんし、効き目が薄かったら効くまで飲むんじゃ無いんですか?」

「そうだったんだ。今まで数打てば効くって感じだったのか」


 実は、消費期限の記載が貼ってあったのだが、この時点で二人の間に気付ける余裕は無かった。一人納得しているのをよそにユキアは黙々ともって帰る瓶を選んでいた。俺はその横に陣取って取り出した瓶を手に取りながら中を透かして見ていた。うわぁ、液体が分離してるけど、大丈夫かこれ。


「なぁユキア、この薬効くか不安なんだけどユキアの家に寄ってそっちの薬も取って帰るのは駄目なのか?」

「んー。帰るのに遠回りになっちゃうし、この瓶も見つけ出すのに時間掛かっちゃったから宿屋に戻ったほうが良いかもと思います」

「あぁ、私もそう思う。まだ見つかっていないが、ゴブリンたちの居る所に近いのに間違いは無いから」

「ミレイいるか?」

「なぁに?おにぃちゃん?」


 ひょこっと胸のポケットから姿を現す。きっと姿を消していたのだろう、それにしてもわざわざポケットから姿を出すのは律儀というか、よほど場所が気に入ったのか。


「このポーション効果あるか、水の精霊ならわかるか?」

「あーダイジョブそうじゃないかな?効果は落ちてるけれど、たぶん効くと思う」

「そっか、効果があるなら良いな。頑張って数だけもって帰るか」


 効き目があるならあとは個数だけの問題だと思う。布製の袋に瓶を入れながら何とか持ち運べる重さを確認していきながら、傷薬と毒消しと魔力ポーションとを持って帰ることにした。


「じゃあ、帰るか」


 サオの言葉に、うなずいて返事をして俺は選んだ薬を入れた布袋を背負う。ガチャと瓶が当たる音がして重さを確かめた後、俺たちは倉庫の外に出た。良かったまだ夕暮れ時だ後30分くらい日が暮れるのにかかるかなと思ったとき。


 ヒュン! ヒュヒュン!                         ドッ!


「きゃあっ!」


 耳の横を矢が音を鳴らしてかすめていく。俺はすぐ横にあった倉庫の扉に矢じりがめり込み刺さっているのを驚きの表情で見つめた。


「ユキア!大丈夫か!?」


 サオがうずくまっているユキアに駆け寄っている。見るとユキアの左の太ももに矢が刺さりめり込んでいた。刺さっている状況で血はそれほど出ていないが、鏃の部分は完全に埋まっており抜くと大量に血が出そうなのがわかった。


「痛っ!」


 痛みを訴えるユキアの声を聞きながら俺は矢を放った相手を探す。いた!50mほど離れたところにゴブリンが3匹、その内2人が弓矢を構えてこちらを狙っていた。


「ユキア歩けるか?」

「タモト、ユキアは無理そうだ。ここで戦うか?」


 俺はうずくまるユキアを見ながら、歩くのも無理だろうと判断する。戦うか?サオは戦力になるだろう。しかし、俺は戦闘は素人だ戦力にはならないだろう。


「サオ!戦うにも俺は何もできない。ユキアと俺でここに立てこもる。サオは急いで宿屋に戻って応援を呼んできてくれ!!」

「しかし!二人を置いては!!」

「一番いい方法だと思うんだ、この倉庫に立てこもれば時間を稼げると思う!」


 この村長宅まで徒歩片道で20分くらいなのである。走って応援をつれてくるまで時間を耐えるしかなかった。ユキアを抱え俺は倉庫の中へ連れ込みながらサオに考えを伝えた。


「20分!いやそれよりもきっと早く戻ってくる。タモト、ユキアを頼む!」


 サオも現状では不利なことを実感したのだろう。ゴブリンといえども森の狩人なのだ、傷を負ったユキアをかばいながら戦うことは難しかった。決断をして走り出すサオを見届けた俺は、倉庫の扉を閉じて入り口近くにあった机や箱を入り口に立てかけて容易に開かないようにする。


「ユキア、皆が来るまで耐えるけれども良いか?」


 コクンと頷いて返事が返ってきた、足の痛みと現状の緊張から言葉が出ない様子だ。


「ミレイ、ユキアの痛みを取れるか?」

「うん、やってみる。」


 そう言ったミレイはユキアの太ももに手を添えながら魔法を発動させる。俺は後は何ができる!と必死に考えながら周囲を見渡し何か使えないかと探した。


 ドン!! ドン!

「「「ガァァアア!」」」


 来た!!ゴブリンが手に短剣を持つもの、長剣ロングソードに持ち替え倉庫の扉を切りつけこじ開けようとするのだった。

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