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魔陣の織り手:Magical Weaver   作者: 永久 トワ
序章
1/137

プロローグ 始まりの夢

 女神は夢を見ていた。そう、それは夢、でも一つの可能性であり、そして、何かの予兆か遠くない未来の可能性だった。


「あぁ……いやぁ!嘘っ……こんなもの見たくない!」


 女神の思わず両手で顔を覆う指の隙間から、意思とは裏腹にその景色は続いていく。

 意識の闇に浮かぶ幻想が、闇の時間となった山々とわずかな丘陵にある村の姿を浮かび上がらせていた。

 見慣れた村の道や家々、夜に灯る筈の家々の灯りは見えず、不自然なまでにぼんやりとだけ村全体を映し出す。

 女神が知る懐かく少し寂しく降り注ぐ様な輝きを見せていた星々は雲に隠れ、代わりに細々と降る雨は、見える景色を悲しみの灰色に染めていた。


「あっ!」


 灰色を染める唯一の色、村に放たれた赤い炎が世界から村を消し去ろうと意思のあるように静かに燃えている。

 幾月が経たとしても見覚えのある景色の中に、動く人が居ないのは、決して眠ている時間だからという理由でない事が分かった。


「そんな!そんなっ……」


 雨でぬかるんだ土の上に倒れた無数の村人は、負った傷から二度と立ち上がる事は無い躯だった。


「……」


 女神の意思おもいとは裏腹に、無数の倒れる村人の中から一人の少女へと視線を釘付けにした。

 もう、女神の心は絶望の中に言葉を生むことは無かった。

 横たわる少女の残像に伸ばした手を裏切るように、肌を透き通り触れる事は出来ない。

 ただ、出来る事は、横たわる少女の虚ろな目を見つめながら、頬をなぞるようにそえるしかできなかった。

 再び輝きを取り戻すことの無い瞳、涙の伝う少女が最後に言った言葉は何だっただろう。

 いや、考えなくても分かる……懇願だ……。

 女神は、少女を知っていた。いや、見ていたという方が正しい。

 祭られ敬られる女神に仕えていた巫女。彼女の日々の願い、思いを毎日聞いていたのだから。

 もう、少女の口からは優しい祈りの言葉を聞けない。

 ふと、女神の胸の中に言いようのない恐怖が湧き上がる。これはなのだ

 見上げた周囲には、無数に倒れる村人達、雨の中にチラチラと燃える炎が一人たたずむ女神をあざ笑うかのように瞬いて照らしていた。


「何で?何で……こんな夢を見せるの?これが起こるの?そんな……そんなことさせない。起こさせない!たとえ禁忌だと言われても!私の愛する人達を殺させはしない!」


 女神の頬には、いつの間にか涙が頬をつたっていた。


「でも……」


 この時程、夢を見せる異能を恨んだことは無いだろう。予知夢を見せて女神に何が出来るというのか……。

 いや、したくても出来ない。手の届かない場所なのだ。

 神々同士が暗黙に定めた不文律――禁忌の約定。かの世界に神々の介入を禁ず。

 今は、その忌まわしい取り決めに、自らの無力感と怒りを感じていた。

 女神は倒れる巫女の少女の躯を前に、その少女が最後に口にしたかもしれない言葉を呟く。


「……誰か助けて……」


 女神から出た言葉は、少女が言っただろう言葉と同じだった。


第1章 召喚


 山々をはるか下に望む上空に、一陣の風が舞う。 


『やっと、みつけた……』


 山を抜ける爽やかな緑の匂いと、乾いた砂の混じった風が彼の頬をなでる。

 青年から大人へ表情の変わり始めた印象を持つ顔を上げ、周囲を見渡せば眼下に雲が流れ、遠くにそびえる山々には薄く霞がかかっているのが見える。


「ふぅ……」


 幾年もの月日を踏み固めた凹凸おうとつのあるいびつな石畳が、彼の足の裏からふくらはぎへジワジワと疲労感を蓄積させていた。

 彼の疲労は言うまでもない、先程までは長く曲がりくねったバスに揺られ、ようやくバスから開放されたと思ったとたん、笑顔のガイドに案内されるまま30分もの長い?坂道をあがらされて来た所だった。

 彼もバスから降りた直後の歩き始めは良かった。周囲に望む山々の澄んだ深緑の綺麗さに目を奪われていた視線も、次第にそれ以上に変化の無い景色に飽き始め、高山地帯で空気も薄く続く坂道という体力を削られていると気付いた時には、今は岩ばかりしか見えない足元へと自然に視線が下がっていたのだ。


「はぁ、はぁ……これは、さすがに、運動不足を痛感する」


 隣に相槌を言ってくれる同行者も居なかった。

 日頃から、公共の交通機関に慣れてしまった身体にはきつく、足取りも重く周囲の集団から遅れ始めていた。何気に隣を越して先に歩いて行った60代の夫婦の足取りのほうが明らかに軽い様子に自分の運動不足を実感していた。


「わぁ、お父さん。着きましたよ。ほらほら」


 その夫婦が互いに話す内容に、ようやく彼も長い苦行の終点に着いた事を知ることが出来た。

 いや、大げさに言う事でも無い、旅行会社の目的地であるの観光地についたのだ。


「この遺跡は標高2000mを超える。空中庭園と言われ当時は数百人の人口を自給自足し……」


 列の先頭では、早速よと言うように、日本語で旅行のガイドが遺跡の説明を始めている。

 海外旅行の添乗員……内心、健全な男子なら一度は願う綺麗なガイドさんというのを期待してはいたが、それは所詮妄想でしか有り得ないという現実を味わっていた。

 旅行のインターネットサイトや現地の旅行者向けパンフレットにも書いてあるようなガイド内容を耳で聞き流しながら、彼は目の前に広がる峰へと視線を向ける。

 さすがに日々大学との往復で、休日はゲームをするか寝ている生活しかしていない20歳を迎えた運動不足の体には、30分にわたる登山でさえも足腰と心臓に響くものがある。

 彼は、軽く息を整えならが額に流れる汗をタオルで拭き取っていた。


「ふう、なんでこんな所に街を作るんだよ」


 昔に住んでいた人達の宗教や地理的な意味合いなど理解できない。神殿?信仰?それらしいガイドの話が聞こえてくるが、それほどまでの昔の人の熱意に驚きしか感じなかった。


「それでは、1時間ほど自由時間となりますので、皆さん、また後でこの場所に集合してください」


 最後のガイドの言葉だけ聞こえてきて、ガイドの説明が終わっていた。1時間の自由時間、周囲の旅行客はどこに行こうかと皆立ち止まって悩んでいる様子だ。彼も例外ではなく、このまま人の流れるほうへ足を進めようとした時だった。


「あのぅ……タカさん、行く場所が決まってなかったらご一緒しませんか?」


 不意に横から声がかかる。タカは、その声に振り向くと登山用の赤いパーカーを着たセミロングの女性が声をかけてきた。その女性の後ろには、同じ背格好をした20歳前後くらいの女性2人組みが会話をしながらチラチラこちらを伺っているのが見えた。

 タカに話かけてきた女性は、今回の旅行で同じツアーに参加し、偶然にも飛行機の座席に隣同士になったのが知り合った大学生のユミだ。後ろにいる二人も同じ学部の同級生で、先ほどの坂道でも、若さの限り列の先頭を3人組で歩いていたのを、タカは何度か羨ましそうに見ていた。


「え?」

「えーと、行くところ決めちゃいました?」

「ねぇねぇ、ちょっと一人って。海外とか勇気ありすぎぃだよね、クスクス」

「おーいタカくーん?」

「あ、あぁ、はい……」


 まさか誰かに声を掛けられるとは思っていなかった。それも歳の近い女性に縁が無いと思っていたのだ。

 しかも、さんって呼び方がいつの間にか君と呼ばれて、タカは身構えられない話し方に悪い気はしなかった。

 ユミの後ろで小声で話している2人の声が聞こえているが、からかってるのか?勇気?何の勇気だろうとタカはやや困惑した表情を見せていた。


「あーユミさん、お友達と回るんですか? 俺もどこに行こうかなって思ってたところで。でも、一緒しても良いですか?」

「ええ、もちろんです!ねえ、良いよね?」

「ユミが良いならいいよぉ?」

「私達は気にしないで良いからねー、いっその事二人でごゆっくりしても良いし、イシシ」

「えっ?もぅ!」


 二人にからかわれてユミの耳が少しだけ赤い。まあ、からかわれているのはタカでは無くユミの様だ。他の二人にも同伴して良いと言っていたが、目的は好奇心が大半の目的の様子だった。

 タカもせっかく女性から誘ってもらったのを断る理由も無く、なんだか知れない懐かしさを感じながら、退屈した時間にならずにすみそうだと思えていた。

 タカとユミとは互いに飛行機の中で簡単な自己紹介は済ませていた。国際線の飛行機機内では何十時間と隣に座っていたのである、話した内容によれば大学で教育学を専攻しているらしい。

 ユミは「先生になるのが夢!」「友達と卒業旅行で……」など話題は尽きず、今参加している遺跡旅行も強く願って来たかった場所だそうだ。

 タカが会話の中から予想したのは、ひとつ年上らしい21歳って事くらいか。年上の彼女も良いかもとか思ってしまったが、今は居ない妹がもし聞いていたら「きちんとしつけてもらわないと」と同意されそうだと思い浮かびタカは苦笑する。

 ユミ達3人は、大学のクラブ活動とかでは無いそうで。友人だけの登山仲間?丘登り部?何でも、最近流行りの山登りをやっている仲間達らしい。


「見たいところがあるの! そこに行っても良いかな?」

「どうぞ、どうぞ」

「はいはーい」


 遺跡自体は観光順路に沿って回る仕組みや、文字は分らなくても案内板もあった。周囲を見れば外国の旅行客ばかりで自由時間も回りは同じツアー客ばかりだ。


「良いよ。俺は遺跡ココに来れただけで満足してるから」


 初めの内は人の流れに紛れながら、タカ達4人は岸壁に沿って段々に並ぶ畑を抜け居住区跡に入っていった。しばらく石壁が続き、中央の高台へと続くゆるやかな坂道になっていることに気づく。そして石壁だけが残る野ざらしになっていた居住区画を抜けて、足は自然とその頂上を向かうように足を運んでいった。

 ユミ達3人がが時々何かを探すように確認し周囲とを見比べていた紙は、あらかじめ日本から印刷して持ってきたものらしい。その紙を見せてもらったが、有名な遺跡の都市伝説を扱ったサイトの内容みたいだった。書かれている内容は、その中央の高台に築かれたのが神殿跡という事らしい。

 まあ、最近の女性が自然物や遺跡のパワースポットやそういった噂に興味を持つらしい事を、タカは理解しているつもりだ。


「わあっ! 見て見て!あそこに鳥が!?」


 周囲をキョロキョロと歩いているユミが、指を示して高台の柱の上の方を指差す。

 タカも確かに彼女が指し示す方向に、日本で見る鳥に比べては大きい鳥がいるのはわかった。


「ほんと大きいな。なんか俺達を見てる?あれってワシなのかな?」


 相槌を打ちながら見続けていると、何かが気になってこちらを見ているのか50m程の距離が離れているのにも関わらずタカと鳥とが互いに視線があってしまったような気がする。

 タカと鳥と一瞬見つめあっていた気がしたが、タカもこちらが気にしすぎだろうと視線を遺跡に戻し歩きだした。


『……見つけた……』

「え?何か言った?」

「私、ワシなんて始めてみましたぁ。結構大きいんだねぇ」


 タカは耳元で何か言われたと思ったがユミが呟いたのだろうか?酸素も薄く幻聴だったのかもしれないと思う事にした。

 適当に話をしながら遺跡の居住区を通り過ぎ、井戸といわれる所にたどり着く。そして、もう少し坂道を上がれば神殿だと案内が示していた。

 通り過ぎた井戸の上には鉄でできた蓋がかぶさっており、昔は水を汲み上げる事ができたのだろうが、今は木の扉で蓋がされていて中を見ることはできなかった。高低差を利用してこの井戸の湧き出す地下水を先ほどの断崖にある畑に水を引いていた様に用水路が棚畑の方へ延びていた。

 水のことを考えると、溜まっていた疲労と喉の渇きが気になったが、もう少しで神殿に着くため、4人ともそこで休憩しようと意見が合致した。

 ゆっくりと歩きながら先ほどの井戸から少し階段を上ったあたりに、円形に壁が取り囲んでいる区画があった。どうやらこの場所が目的地の神殿と呼ばれる所らしかった。神殿と言われても空気が澄んでいるわけでは無い、むしろ屋根さえも無かった。周囲には石壁の他に何もなく中央に高さ1m程の台座らしきものが置いてあるだけだ。台座の大きさは体育座りで上に人は一人乗れるくらいのテーブル状である。


「みんなーここが神殿だって。昔ここで神様にお供えして、いろいろ祈ったのかな?」

「今も祈ったら、願いがかなったりしてね?」


 タカも、ユミに冗談に返事をしながら、話をしているとユミ達女子大生組は、パンパンと手を叩き何やら台座に祈っている様子だった。

 ああ、確かに彼女達はその目的の為にここに来たんだったっけか。


「無事教員試験に受かりますように……」

「カッコいい彼氏ができますように……」

「体重があと5キロ減りますように……」


 タカは彼女達のお願いを聞いても良いのかと複雑な気分と表情だ。いくつかは聞こえない振りをした方が互いのためだろう。しかし、聞き届ける神様も大変だ。


「タカ君も、せっかくなんでお願いしないの?」

「んーそうだなあ、じゃあ」


 ユミ達みたいには手を叩いて祈りはしなかったが、タカも手を合わせて祈る。

最近はバイトも勉強も忙しいばかりで、今日みたいにゆっくり考える暇も無かった。

でも、タカには一息つける時には、必ず思い出す様にしている事があった。いつも明るく笑顔で隣に居た妹の事をだ。


「タカ君、何を祈ったの?」


 覗きこむように聞いてくるユミに、タカは少しだけドキッとしてしまう。


「……健康、かな?」

「えー健康とかおじさんくさい!全然若いじゃない」


 冗談と受け取られたのか、バシンとユミさんに笑顔で背中を叩かれる。


「あーぁ、就活上手く行くといいなあ。私働きたくないなぁ」

「もう、結婚しかないって。ね? ねっ?」

「「結婚する相手居ないじゃない!」」

「「「ハハハ」」」


 3人はコロコロと笑い出す。

神殿に到着して少し話をしながら休憩していると30分がちょうど過ぎたころに俺は3人を促した。


「じゃあ、そろそろ集合場所に戻る?」

「「「そうですね」」」


 各々の荷物を取りに、俺が神殿跡から帰ろうと台座から振り返ろうとした時だった。


「え?、うそ!タカ君!危ない!」


 タカの後方を見つめてユミが叫んだ。

 振り返って何事かと確認しようとした時には、目の前に飛び掛る大きな鳥が覆いかぶさっていた。しかも、目の前には刃物の様な爪が飛び込んでくる。


「うっ!痛っ!」


 タカは庇うように左手を上げるが間に合わなかった。急いで体をひねって避けようとするが、かわせる距離ではなかった。ガッと鋭い何かが頭部へ当たったのを感じると、その拍子によろけてドサッと台座へもたれかかってしまう。


「「キャァー!」」


 誰かが出したと思われる悲鳴の声も、タカには確認することもできなかった。額に広がる痛みで少し意識が朦朧として失いかけたが、食いしばり何とか意識をつなぎとめる。

 額を切った事がわかり、寄りかかった台座には今もポタポタと血が滴り落ちる。また襲い掛かられないか鳥はどこに行ったのだろうかと、確認する余裕さえなった。


「「「大丈夫ですか!?」」」

「ユミ!誰か呼んでくる!」


 ユミの友達2人は直ぐに誰かを探しに行ってくれた様だ。


「目じゃなくてよかったよ。あっ、大丈夫だとは思う、ちょっといい?座りたい」


 ジワジワと額の鈍痛の感覚が戻ってきた中で、タカも心配するユミへ何とか返事ができた。

 よほど観光コースから外れているのか、運悪く周囲には俺たち以外見当たらない。

 タカは額から流れる血を左手で押さえながら、『うああ、世界遺産を汚しちまったなぁ、これ……罰金とか?』とか、どうでも良いことしか思い浮かばない。人は未知の状況に陥るとホントだめなのだ。

 神殿跡にはタカとユミの二人だけが残され、今も流れる血を見てユミはそわそわと落ち着かない様子だった。


「何かしてあげれますか?」

「タオルか何かで押さえたいんだけど?あと額の傷そんなにひどい?」


 タカが意外と冷静になってユミへお願いが言えるのは、きっと脳内のアドレナリンとか何とかが出ているんだろう。額の傷の痛みもほとんど感じないのが、思ったほど重症じゃない事なのかなと思う。


「わかりました。このくらい押さえても良いですか?アレ額から血が出てるんですけど。ごめんなさい傷の状況ってなんて言ったら良いのかわからないんです」


 タカにはきっとユミは、突然の血や傷を見るのがショックで傷の状況がわからないと答えたのだと思った。

 ユミさんに、どのくらいの大きさ?と聞くと、この位ですと指で10㎝くらいを示してくれた。


「そっか、まあ大丈夫みたいだし良いや。少し休んで戻ろうか。ごめん鏡持ってないかな? 後、のどが渇いて……俺のバックに入ってる水を取ってもらえないかな?」


 神殿跡に到着後に見学の際に下ろしていた、壁際のリュックにペットボトルの水が入っていることを伝えお願いする。


「うん、ちょっと待ってて」

『お願……が、あり……』

「ん?」


 返事をしながらユミは、押さえているタオルをこちらに渡し。少し離れたリュックを取りに振り返って取りに行った。しゃがんで中を確認している姿が見える。

 ふと視線を感じ、右横の壁を見上げるとすぐ近くに先ほどの鷲が羽を休めこちらを見つめていた。

 襲われた驚きよりも、その視線に秘められた蒼色の瞳の綺麗さに心臓をつかまれたようにドキッとしてしまう。視線が交叉したのは一瞬、その瞳に吸い込まれそうになってしまう。


『貴方にお願……、彼の地で……を救って』


 突然タカの思考にその言葉が頭の中に浮かぶと、視界と全身を白い光が包み込んだ。


「えっ?な、んだ、これ!」


 次第に白く輝く光がしぼんでいく。

 ユキの背中が光の強さで次第にその姿が掻き消えていく。視界一面が真っ白に染まると同時に、俺の意識も染められるように意識を失った。



「ぇ?タカさん?」

「「どうしたのユミ?」」


 何とか教えられたリュックからペットボトルの水を探し出し振り返ったユミには、そこには腰掛けているはずの誰かの姿はどこにも無かった。

 そして、先ほど人を呼んでくると駆けていった二人が、再びこの場所に戻ってきていた。しかし、後ろには誰も連れてきている様子は無い。


「え?2人こそ人を呼んできているはずじゃあ?」

「人?何それ?ユミこそ1人で何でここでボーっとしてどうしたのさ?」

「えっ?1人?」


 ユミ以外の同級生の2人は不思議そうに首をかしげ互いに見つめあう。


「えっ、アレ? 私ここで何してたんだっけ?」

「お祈りを済ませて帰ろうかってしてたんじゃん?」


 なぜか水の入ったペットボトルを片手に持ちながら、呆然と立ち尽くす。誰かと話してたっけ?それに、この荷物って誰のリュック?


「きゃあ!血!台座に血が付いてる!」

「ちょっと、やばいんじゃない?もしかして、呪いとかじゃないよね?」

「ちょ、ちょっとやめてよ!」


 一陣の風が吹きつけて、3人の髪をなびかせる。


「「「きゃあ」」」


 止んだ風にユミ達は周囲を見ると、先ほど見かけたと思った鷲の姿もどこかへ消えて居なくなっていた事に3人は気が付かなかった。

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