第1話 早朝の事件
朝しつこく電話が鳴って式は起こされた。
表示を見ると銀行員の奥さんからだった。
家の床下に井戸があって一度貼った御札を剥がして霊障がひどくなったと相談のあった人だ。
眠い目をこすり電話に出ると、まるでスロー再生したような気味の悪い声で奥さんが呼びかけてきました。
「しーいきーーぃーすわぁんんんーたあーすけてうええーーーいーまぁーすううーぐううにぃーたあーすけてぅええー・・・ブツリ」
なんだと思ったが式は急いで車に乗って家に行った。
家の玄関は開けっ放しで恐る恐る中に入っていくと床が血でいっぱいだ。
「えっ!」
居間の引き戸は開け放たれていて、そこに白目をむいた旦那と思われる男性が右手に包丁を持って立っていた。
旦那の衣服は返り血で真っ赤に染まっている。
応接テーブルの上には奥さんが寝ていて血を大量に流しており、首にはまだ別の包丁が突き刺さったままだった。
「あっ、奥さん!」
と叫んで、式は一歩前に足を出すとゴツンと何かを蹴飛ばした。
足元には息子さんの胴体と切り離された頭が転がっていて白目を向いていた。
「うっわあ!」
驚いていると、その生首がゴロリと動いてこちらに向き直ると何かを言っています。
【あーざーじー・・・しゃく・・・・のーまんだぁー・・・】
お経でした。
前にも聞いたことのあるような・・・あっ、あのアパートだっ!
すると包丁を持った男性が怒鳴り出した。
「しきーっ!みんなおまえのせいだぁーっ!」
旦那さんが、こちらに包丁を振り上げながら向かってきた。
「あっ・・・」
首のもげた息子さんの胴体から伸びる腕が式の足を掴んでいる。
『なんだ、どうなってる?・・・あ、殺られるうううっ』
そう思ったとき
―んぎゃぁあああああーーーっ!!
喉が痛いほどの叫び声を上げて式はベットの上で飛び跳ねた。
周囲を見回すと自分の事務所だ。
一瞬、訳がわからない。
『えっ夢?だったか・・・なんだ、もう・・・』
事務所のベットの上で時間は朝6時半。
ふと見ると先日、派手に割れた鏡にガッチリと貼ったはずの
『おふだ』が剥がれて床に落ちている…
それを見たとき、式はどんよりとした不安が胸の中で広がっていき
寒気とともに嫌な予感がした。
『奥さんと、お子さんが本当に危ないかも知れない・・・』
ざわざわと、ものすごい胸騒ぎがする。
『なんなんだ・・・胸がざわざわして・・・なにか、すごく悪いことが起こる気がする・・・何なんだコレは・・・こんなの初めてだ・・・』
とにかく、じっとしていられなくなり着替えもそこそこに
今度こそ現実に急いで奥さんの家に向かった。
途中で奥さんに電話した。
呼ぶが…出ない。
心の中で静華を呼んだ。
『静華さん、この夢はなんですか、静華さん守ってください』
早朝で車も少なく無理に飛ばすと、そんなに時間かからずに
奥さんの家に到着した。
―ピンポーン
インターホンを鳴らすと、奥さんが出てきた。
「あ、シキさん・・・」
すると奥さんの脇から、お子さんが飛び出して走って外に出ていった。
「大丈夫ですか?」
「・・・」
声をかけたが奥さんは息子さんを追い掛け走り出した。
玄関の中を見ると、包丁を持った旦那が奥から、
こっちに向かってきた。
「こらーぁー!てめぇシキーこらぁーっ!」
「うわっ!」
式は玄関を閉めて旦那が中から開けようとするのを
背中でドアを抑えながら通りを見てみると
奥さんとお子さんが怯えた様子でこちらを見ている。
「奥さん、この電話で、すぐに警察呼んでください」
―ドスンドスン!と旦那がドアを内側から開けようとしている。
式は奥さんに自分のスマホを渡した。
すると背中の気配がなくなり裏口のドアが―バンッと開く音がした。
『裏口から来る』と思った式は、奥さんと息子さんを急いで車に乗せて移動した。
式がバックミラー越しに見てみると家から出てきた旦那は包丁を振りかざして、こちらに何か叫んでいたが、やがて目の前の歩道にある電柱に向かって斬りかかり
何度も、すねを打ち付けて電柱に蹴りを入れ出した。
もう気が狂ってるとしか思えない。
随分遅く感じたが、やがてパトカーが何台も到着すると警官が四人がかりでサスマタなどを使い旦那を取り押さえて、それでも暴れるので、みんなで手錠を装着していた。
近隣の住人たちもパジャマ姿のまま遠巻きに事態を見守って大騒ぎになった。
救急車が到着して警官とともに旦那は運ばれていったが明らかに大怪我していて電柱も地面も血だらけになっていた。
夢は正夢になった。




