第4話 深夜の事件1
現場に到着すると成田の車がアパートの近くに路駐されていた。
式は車を止めてハザードを点灯した。
ぐるりと周囲を見まわしても彼の姿はありません、まさかと思ってアパートに向かうと101号室のドアが開きっぱなしになっていた。
中を覗くと
真っ暗だった。
マグライトで照らすと奥の畳の部屋で成田は倒れていた。
『あーあーあー、もう・・・』
式は嫌な予感がして急に鉛の玉でも飲み込んだように胃袋がズシリと重くなるのを感じた。
悪いとは思ったが式は土足のまま上がり込み成田の倒れている姿をライトで照らして見た。
式の全身に悪寒が走った、彼の姿があまりに異様だったからだ。
彼は体の右側を下にして横向きに倒れていましたが白目をむいて口の中にシャツの袖部分をギュウギュウにつめて両腕を足の方向にまっすぐに伸ばし、こぶしを握り体全体でブルブルとケイレンしていた。
『あーあー言わんこっちゃないよヤバイ・ヤバイ・ヤバイッ!』
式は慌ててスマホを取り出し119に電話した。
手が…震えた。
「友達が自殺未遂です!白目むいて痙攣してます救急車っ!はやくっ!」
「わかりました、あなたのお名前と、そこの住所教えてください」
「あぁっ!ちょっと待ってください…」
現場の住所は背負っていたリュックに取材ノートが入っていたので引っ張り出して、あわてて答えた。
「えーえーっと○○町○○番○号のアパート101号室ですっ!」
「わかりました、すぐに救急車が向かいます」
119に電話しながら担当の方に状況を説明して口に詰められているシャツを、ずるずる引っ張り出した。
『うわあーコイツもう死んでんのか?』手の震えが収まらない。
「落ち着いてくださいシキさん今、患者の方は呼吸していますか?
意識はありますか?大きな声で呼びかけてあげてください」
「はい・・・呼吸がないです・・・時々ケイレンしてまずずうっー!」
『どうしよう…どうしよう…』
「では患者さんを仰向けにしてください、ネンピーカンノンリキ」
会話していたオペレーターが語尾に呪文のような言葉を発しています。
「はい、なりたあーっ!しっかりしろーっ!」
『おちつけ俺、おちつけっ!たのむっ!かみさまあーっ!』
式は、もう夢中だった。
これは夢であってほしいと願った。
「首の後ろに枕になるものを置いて気道を確保してください ネンピーカンノンリキ」
「あ…はいっーっ!」スマホをスピーカー音声にしました。
手の震えで画面タッチがうまくいきません。
オペレーターが会話の語尾に何か言っていましたが気にする余裕はありませんでした。
たった今、口から引きずり出したシャツを丸めて首の後ろにあてた。
『しっかりしろっ落ち着け、落ち着け・・・俺』
目の前の状況が悪い夢でも見ているようで、ふわふわと足腰が浮いているようだった。
式は、次々に熱いものがこみ上げてきて両目から雨のように
涙をボタボタと落としていました、滝では無く雨です。
式は歯を食いしばって泣くのを我慢した。
『うっ…うぐうっ』
「もしもし落ち着いてください胃袋の辺りから10センチほど上の胸のところに両手をパーの形にして組んで何度も押してください心臓マッサージです ネンピーカンノンリキ」
「はいっいー」
『えーと、どうやるんだっけ、落ち着け、落ち着け・・・』
式は心臓の位置に見当をつけて押した。
「様子はどうですか・・・シキさん・・もしもし・・」
「はい、いまやってまずぅーっ!・・いち、に、さん、しっ!」
「すぐに救急車が到着します、がんばってください ネンピーカンノンリキ」
式の目からは涙があふれ続けて泣きながらマッサージをした。
「おい!なりたあーっ!ばかやろうーおきろーっ!いち、にっ、さん…」
この時点でも成田は白目をむいたままで意識がなかった。
『昨日一緒に飯食ったじゃないか・・・だめだって言ったじゃないか・・
つまらないことで事故りやがって・・・・こんなことに・・・・
なんだって馬鹿野郎なんだ・・・あんなに止めたのに・・・・
こんなことで命落としたら・・・なんにもなんないじゃないかあ・・・
成田・・・なりた・・・馬鹿なコイツは・・・こいつは・・・・
・・・俺だ』
「エイ、エイ、エイ、エイ、いち、に、さん、しっ!」
成田さんの顔には式の涙がポタポタと落ちていった。
そして、その時。
何十人もの人が合唱でもするような
『お経』『歌』『呪文』『うめき声』が混ざり合って部屋中に響き聞こえてきた。




